世界貿易で存在感高めるASEAN スイスは関係構築に出遅れ
ASEAN(東南アジア諸国連合)は、多極化する世界において中心的なアクターとしての地位を確立しようとしており、その試みは着実に成功を収めている。スイスもまた、ASEANとの距離を縮めようと努めている。
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ASEANの役割
11の加盟国からなるASEANに対する欧州諸国の関心が高まっている。シンクタンク「エルカノ王立研究所外部リンク」(スペイン)でインド太平洋地域のリサーチアシスタントを務めるクリスティーナ・デ・エスペランサ・ピカルド氏は次のように語る。
「国際的な危機と不安定化の進行により、従来の主要国(アクター)以外との経済的パートナーシップを模索する動きが強まっている。そのなかで東南アジアは、こうした関係を多角化するための重要地域として存在感を増している」
この動きは、欧州によるインド太平洋地域へのより広範なアプローチの一部でもあり、そこには安全保障上の考慮も含まれている。ピカルド氏は「東南アジアは、その戦略的な位置関係に加え、南シナ海では複数のASEAN加盟国と中国との間で領有権主張が重なり合っている。そのため東南アジアはこの地域における主要な緊張地帯の一つとなっている」と話す。
インドネシアのビナ・ヌサンタラ大学のディナ・プラプト・ラハルジャ准教授(国際関係学)は「西アジアや南アジアに比べると、東南アジアは比較的安定しているとみなされている」と話す。例えば、タイとカンボジアの間で長年続く緊張関係においても、双方が地域の不安定化を望まないため、それ以上にエスカレートすることはなかった。ASEANの代表者たちは地域の安定を確保するため、非公式レベルで定期的に意見調整を行っているという。
一方で、イラン戦争が引き起こしたエネルギーショックは、東南アジアの一部の経済圏、特に市場が開放され輸入依存度の高い国々にとって大きな負担となっている。
しかし、ラハルジャ氏によると、ASEANには「ASEANビジョン2045」という戦略的枠組みがあり、これを通じて地域内および欧州との協力関係を深化させていく方針だ。この戦略計画は、スイスにとっても今後の出方を探る上での指針として役立つ可能性がある。
多様性が足かせに
ピカルド氏によれば、地政学的な情勢の変化によって、東南アジアの未来についての議論が加速している。「しかし、ASEANは加盟国の主権を守るため、あえて柔軟な組織構造を維持している。そこでは各国の国益が最優先され、ASEAN自体には限定的な自治権しか与えられていない」
この組織構造に加え、加盟国間の多様性が非常に大きいことが、ASEANの意思決定プロセスを遅らせ、行動力を制限する要因になっているという。
ASEANはサプライチェーンを世界規模で多角化するための重要なアクターを担うべく、いわゆる「戦略的マルチアライメント(戦略的多角同盟)」を追求している。 ASEANは、中国への依存度を減らすために第二の供給源を確保するという欧米企業の「チャイナ・プラスワン」戦略の恩恵を受けている。2024年の貿易額を見ると、対中貿易は約15%増、対米貿易が約12%増加した一方、欧州連合(EU)との貿易関係は横ばいだった。ASEANはEUにとって第3位の貿易相手国だ。
スイス・アジア商工会議所(SACC)によると、米中間の緊張、関税、いわゆる「積み替え」規制(例えば、ベトナムやマレーシアを経由した中国からの迂回輸出が疑われる貨物に対し、米国が課す40%の関税)はASEANにとって重要性を増している。代替生産・輸出拠点としての東南アジアの価値が高まっているからだ。
同時に、ASEANは電子機器や重要鉱物資源などの分野において、依然として中国のバリューチェーンに深く組み込まれている。
ASEANはこの状況を、自らの成長、域内統合の強化、そして新たなパートナーシップの構築に活かしている。直近の国内総生産(GDP)成長率は4~6%で、EUや米国を大きく上回る。
スイスの存在感は薄い
EUは2020年からASEANの戦略的パートナーであり、スイスは2016年から分野別対話パートナー国だ。
インドネシアの著名な政治学者であるラハルジャ氏は「私が2016年から2018年までASEAN政府間人権委員会のインドネシア代表を務めていた際、スイスの協力、特にこの地域における人身売買対策への取り組みを非常に高く評価していた」と振り返る。
2024年の二国間貿易額は約283億ドルに達した。スイスは、マレーシア、タイとの新たなEFTA自由貿易協定(いずれも2025年発効予定)やベトナムとの継続的な交渉などを通じて、ASEANとの関係を積極的に深化させている。
「同時に、ASEANにおけるスイスの存在感は依然として比較的薄いことも指摘しておく必要がある」とラハルジャ氏は話す。これは、ASEANの国家および非国家主体とのコミュニケーションが不十分であることが原因かもしれないという。
人材連携に期待
「東南アジアは、社会・経済の両面において、高成長とダイナミズムを誇る地域だ。したがって、スイスと東南アジア諸国との協力関係をさらに強化していくのは非常に有望な展望と言える」とラハルジャ氏はみる。
またこの地域の国々は、スイス企業が東南アジアの人的資本と効果的に連携する方法について、アイデア交換することに前向きな姿勢を示していると指摘する。
スイス・アジア商工会議所は「ASEANは、中立的で輸出志向型の小国であるスイスにとって、例えば製薬、精密工学、機械工学、時計製造といった産業分野において、中国への一方的な依存から脱却する選択肢を提供する」と期待する。
重要5カ国
SACCのデータによると、スイスにとって特に重要なのは次の5カ国。
- シンガポール:スイスからの輸出額は年間約72億ドル。最も重要な貿易・金融ハブ)
- タイ:東南アジアにおけるスイスの第2位の貿易相手国。輸出額は約62億ドル。重要な投資拠点
- ベトナム:2024年の二国間貿易額は約27億ドル、スイス企業100社以上が進出。製造業が急成長
- マレーシア:スイスからの直接投資額は約77億ドルと高水準にある。最近自由貿易協定を締結
- インドネシア:域内最大の経済規模を誇り、スイス企業100社以上が進出。再生可能エネルギーとインフラ分野で高い潜在力を持つ
これら5カ国は、スイスとASEANの年間貿易額(約280億ドル)の大部分を占める。シンガポールとタイではスイスの高付加価値製品の輸出が中心だが、ベトナムとマレーシアでは輸入と現地生産が重要な役割を果たしている。インドネシアは将来の重要市場として有望視されている。
しかし、これはASEANが持つ重要性の一部を物語っているに過ぎない。ASEANは、地域統合と「チャイナ・プラスワンのハブ」としての魅力によって、地域全体としての存在感を高めている。しかし、加盟各国の性質は大きく異なる。例えばシンガポールはハイテクハブであり、ベトナムは新興製造拠点といったような具合だ。
ASEAN進出のリスク
最も重要なリスクとしては、地政学的および貿易政策の不確実性だ。特にベトナム、マレーシア、タイなどで特に懸念される積み替え貨物に対する米国の関税や、中国製中間財への依存度が高いままであることなどが挙げられる。南シナ海の潜在的緊張もリスク要因だ。
SACCは「規制や政治の枠組みは国によって大きく異なる」と強調する。
官僚主義、一部の国における汚職リスク、そして統一されていない知的財産保護は、医薬品や時計製造といった知識集約型産業にとって特に大きな課題となっている。
さらに、インフラと熟練労働者の構造的な不足も問題だ。こうした状況下でリスクを最小限に抑えるためには、段階的な市場参入とASEAN域内における広範な地理的多角化が肝となる。
商工会議所は、政府がASEANへの投資を積極支援すべきだと提言する。具体的には、自由貿易協定(FTA)の拡充、輸出・投資促進の強化、そして外交的存在感の強化が不可欠だとしている。「信頼できる枠組み、機能的なネットワーク、そして緊密な官民連携が極めて重要だ」
編集:Marc Leutenegger、独語からの翻訳:宇田薫、校正:ムートゥ朋子
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