「技術提供」脱皮のスイス蓄電企業、原油高は追い風か
スイスの蓄電企業エナジー・ボールトSAのロバート・ピコーニ会長兼最高経営責任者(CEO)は、原油高は再生可能エネルギー産業と蓄電産業への朗報になり得ると語る。
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スイスインフォはスイス南部ティチーノ州ルガーノにある同社で米国人共同創業者のロバート・ピコーニ会長兼最高経営責任者(CEO)にインタビューし、米国法人を構えた理由や、純粋に技術を売るモデルから業容を拡大した経緯を聞いた。
スイスインフォ:米国による関税や目下の中東情勢の不安定化など、今の地政学的緊張はどのように影響していますか?
ロバート・ピコーニ:こうした緊張は不確実性を生み出し、金(きん)や債券など、予測可能性の高い資産が投資家に好まれやすくなります。また、私たちは米国の関税によって甚大な影響を受けています。バッテリーのサプライチェーンで中国に頼る部分が大きく、米国市場への立ち入りを実質的に制限されてしまいました。
私たちの推計では、最近の中東情勢の緊迫化でエナジー・ボールトの株価は25〜30%ほど押し下げられ、2025年の好業績による上昇が一部相殺されました。その一方、原油価格の高止まりには再エネや蓄電といった手段の魅力を高める働きがあります。
エネルギー危機や原油高は、すでに顧客からの関心につながっていますか?
はい。間違いありません。バッテリー蓄電システム(BESS)に関する問い合わせと確定受注の両方が、米国市場と欧州市場の両方の顧客から急増しています。
世界のエネルギー市場で変動が続き、企業の関心はエネルギー安全保障やコストの長期的安定に移りました。こうした動向が今、人工知能(AI)やデータセンターの普及、デジタルインフラの拡大による電力需要の飛躍的増加と深く結びついています。規模拡大に対応でき、信頼の置ける電力が、迅速かつ大量に必要とされているのです。
その結果、顧客対応の内容は漠然とした関心に応じることから、大型設備をすぐに導入することへと急速に変化しました。顧客は今、放電持続時間が中程度以上の蓄電手段を当社で活発に調達しています。再エネにおける自然変動の影響を抑え、かつてない負荷がかかる電力網を常時安定させるためです。エナジー・ボールトの成長の基本線は依然として脱炭素化や電力網の高度化といった長期的傾向に基づいていますが、事業計画の速度と規模は現在のマクロ環境を受けて劇的に高まっています。
一方、グリーンエネルギーの導入を遅らせている国もあります。エナジー・ボールトへの影響はどうでしょうか。
米国の現政権がコスト高を理由に風力技術への疑念を示すなど、一部の国で政策が見直されています。しかし、根本的な電力需要が極めて力強いことも、それが蓄電需要を押し上げていることも変わりません。
メタやマイクロソフト、アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)といった大規模クラウドサービス事業者が牽引するAIインフラの拡大は、その一例です。大型データセンター需要の急増で電力需要はしばしば足元の供給量を超え、石炭火力発電への依存が増す場合もあります。
モジュール型データセンターも重要な成長分野です。あらかじめ設計した部材を工場で製造・構成するタイプの設備で、現場ですばやく設営できます。短期間で導入でき、拡張しやすく、設置場所の柔軟性が高いのが特徴です。
事実として、蓄電が手頃なら風力と太陽光は費用対効果の高いエネルギー源です。この分野でこそ、私たちが提供する蓄電手段が不可欠なのです。
中国は今もエナジー・ボールトの主要市場でしょうか。
中国事業では期待通りの発展が続いています。2023年に開設した江蘇省如東県の工場は収益展開と大規模な技術展示の拠点であり、どちらの戦略的重要性も変わっていません。如東以外でも、中国は再エネ普及や蓄電導入の先駆けとなっており、大事な長期市場です。私たちの技術で電力網の柔軟性、安定性を支えられる場を求め、さらなる事業機会について検討を続けています。
2017年にエナジー・ボールトSAを創業し、当初からティチーノ州に本社を置いていますね。米国人のあなたがなぜ、この地域で会社を起こしたのでしょうか。
私はもとからルガーノを拠点に医療診断用の造影技術の会社を経営していて、その売却が決まった直後にビル・グロスから声をかけられました。ビルは150社余りを立ち上げた実績がある米カリフォルニア州のテクノロジースタートアップ支援企業、アイデアラボの創業者です。当時は現在のエナジー・ボールトの最高技術責任者(CTO)、アンドレア・ペドレッティとともに、新たな太陽光技術と機械技術を扱っていました。そのペドレッティと技術チームが、同じくティチーノ州を拠点としていたのです。
そのため、エナジー・ボールトSAをルガーノに設立することは、とても自然な成り行きでした。私たちはアイデアラボの初期投資を元手とし、ここで研究開発(R&D)活動を始めました。今は欧州、中東、アフリカ向けの販売業務の拠点もティチーノ州に置いています。スイスの研究機関との間では、主に連邦工科大学チューリヒ校(ETHZ)とAIソフトウエア開発で、メキシコのセメント大手セメックスの傘下法人とカーボンニュートラル(炭素中立)な代替原料をめぐって提携しています。スイスでの従業員数は現在24人で、増員を続けています。
2019年にはカリフォルニア州に第2の事業拠点を創設しました。なぜでしょうか。
米国については、中国に次ぎ世界2位の規模を持つ蓄電市場だと評価していました。バッテリー関連ソフトウエアや電力系統インフラの専門技術者を採用する場所としても、非常に優れています。それに加え、米国で上場する考えがあったため、持ち株会社のエナジー・ボールト・ホールディングスを米国に設立しました。
欧州諸国の取引所やスイス証券取引所での上場は考えましたか?
最初から米国の取引所が望ましいと考えていました。流動性が高く、資本が調達しやすいからです。
エナジー・ボールトは2020年、世界経済フォーラム(WEF)から「テクノロジー先駆者」の称号を得ました。これに選ばれる企業はそう多くありません。事業への具体的な恩恵はありましたか?
はい。ダボスでの世界経済フォーラム年次総会に2回参加でき、顧客や提携先として有望な人々を含め、リーダー層との素晴らしい人脈ができました。世界的な知名度の獲得にもつながり、資金調達にとても役立っています。
2022年にはSPACを通じて上場しました。従来型の新規株式公開(IPO)も検討したのでしょうか。
複数の選択肢を評価しましたが、最も迅速なSPAC上場を選びました。成長性が高く、持続可能性を焦点とする企業への投資意欲の強さを考えたためです。この取引の一環で、初期投資家の(サウジアラビア国営石油会社)サウジアラムコや(日本の通信大手)ソフトバンク、さらには新規投資家の(韓国の非鉄金属大手)高麗亜鉛や(中国の廃棄物処理・新エネルギー企業) 中国天楹から大口の出資を受けました。一般的なSPAC上場企業と異なり、エナジー・ボールトはかなりの売上高を出していました。上場した2022年は1億4600万ドルで、2023年は約3億4000万ドルです。歴史が浅く、上場企業が少ない産業にいるにもかかわらず、SPACとの合併を通じた調達額は約2億3600万ドルに上りました。
四半期ごとの報告義務や情報開示費用の高さなど、上場企業につきまとう短期的な重圧にはどう対処していますか?
確かに、四半期ごとの波はあります。ある四半期が終わった途端、次の四半期の準備が始まる、といった具合です。規律と組織性が求められます。だからといって、イノベーションや長期的な成長から意識がそれることはありません。また、年次のガイダンス(業績予想)は出しますが、四半期では出さないことを選びました。新興成長企業として上場しているおかげで柔軟なやり方が認められるため、それを活用しています。
エナジー・ボールトは当初、重力蓄電に重点を置いていました。端的に言えば、重たい塊を持ち上げ、電気エネルギーを位置・重力エネルギーに変換する手法です。それがなぜ、2022年にバッテリーとグリーン水素による蓄電へと手を広げたのでしょうか。
実際、当初はモジュール式のタワーを使った重力蓄電に力を入れていました。持続時間が長く、8時間くらいもつ蓄電施設に特に適した技術です。ここでの持続時間とは、ためた電気を最大出力で放出し続けられる長さを指します。ただ、私たちは重力蓄電に注力する一方、ソフトウエアプラットフォームも開発しました。これは送電網とのやりとりのほか、予防保守や安全など、施設管理を主眼とするプラットフォームです。
上場後、市場の大勢は持続時間がより短く、典型的なところで2〜4時間程度の蓄電施設が占めていることが分かりました。このことが、バッテリー蓄電への足場拡大につながったのです。また、私たちのソフトウエアプラットフォームは重力蓄電とバッテリー蓄電、どちらの管理にも対応しています。
その後、グリーン水素を加えました。こちらはマイクログリッド(小規模電力網)のバックアップとして都市全体の電力を48時間賄うなど、超長時間の放電を要する施設に適した方法です。実際、(カリフォルニア州の電力・ガス会社)PG&Eと結んだ2024年から10年半の契約では、停電時にグリーン水素由来のバックアップ電源を最長48時間供給することになっています。
売り上げはどのように生んでいますか?
契約形態によりますが、蓄電サービスを提供して料金を得る形があります。また、価格が下がっている時に自ら電気を買い、値上がり時に売ることもあります。AIを使ったソフトウエアプラットフォームで市場への参加を最適化し、電気を貯蔵、放出する最善のタイミングを割り出します。
2年前には純粋な技術提供から事業を発展させ、自社の蓄電所の建設、所有、運営に進出しました。これはなぜですか?
エナジー・ボールトの売上高は上場年の1億4600万ドルに対し、翌年には3億4000万ドルへと増加しました。しかし、翌々年には約5000万ドルへと落ち込んでいます。つまり、技術提供のみの経営モデルは先行きが見通しにくいのです。契約のタイミングや工程の遅れに売り上げが左右されますから。利幅も小さめです。
私たちは投資銀行の支援を受けながら、設備供給企業やインテグレーター、公益企業、独立発電事業者(IPP)など、バリューチェーン全体にわたる業態分析を行いました。そして、IPPが最大の利益を得ているという結論に達しました。多くの場合、IPPは事前に10〜15年先までの電力購入契約を結んで操業し、安定的かつ魅力的な経常収益を上げています。米国などの市場では、投資税額控除(ITC)の恩恵も受けています。
こうした分析結果が、蓄電所を建設・所有・運営(BOO)する経営モデルへの進化につながりました。この垂直統合により2025年は好業績を実現し、第4四半期には(非経常項目を除く調整後の)損益が初めて黒字を記録しました。現在は蓄電所2カ所を所有・運営し、さらに2カ所を建設しています。
エナジー・ボールトにはどのような顧客がいますか?スイス国内の主な顧客はどこでしょうか。
地方政府や公益企業、IPP、大口需要家です。大口需要家というのは、鉱物採掘企業や、AIアプリケーション向けの大型データセンターを運営する大手テクノロジー企業などです。
スイスでは最近、(エレベーター製造会社)シンドラーの脱炭素化を支えるバッテリー蓄電ハブを供給しました。北部アールガウ州の公益企業エナジー・ヴェッティンゲンAGとの間でも、バッテリー蓄電プラットフォームの供給に向けた合意を結びました。他にも計画段階のプロジェクトが複数あります。
Edited by Virginie Mangin/ds、英語からの翻訳:高取芳彦、校正:宇田薫
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