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スイスの民主主義

高級時計ブームが覆い隠すスイス時計業界の「二極化」

2026年4月、スイス・ジュネーブで開催された高級時計見本市「ウォッチズ・アンド・ワンダーズ・ジュネーブ」
2026年4月、スイス・ジュネーブで開催された高級時計見本市「ウォッチズ・アンド・ワンダーズ・ジュネーブ」 Keystone / Salvatore Di Nolfi

3年の混乱を経て、スイスの時計メーカー各社は最悪期が過ぎ去ったことを示す兆候を探している。戦争、関税、金価格の高騰、スイスフラン高、そして高級品需要の低迷が業界に打撃を与えてきた。現在、輸出額は安定し、輸出数量も再び増加しつつある。

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しかし、「回復」という概念をスイス時計業界全体に当てはめることは、ますます難しくなっている。生産を削減し、雇用を守るために国の支援に頼るメーカーがある一方で、最高級品を手がけるメーカーは需要に追いつくのに苦労している。ごく一部の時計が業界の成長の大部分を支えている。

スイス時計協会(FH)のイヴ・ブークマン会長は「今年は多くの課題があり、業界には不確実性が漂っている。今後数カ月で状況が改善されることを願っている」と語る。

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FT

今年上半期のスイス時計輸出額は122億フラン(約2兆3000億円)で、前年同期比0.6%減だった。ただし、この数字の裏にあるのはスイス時計業界の二極化だ。

スイス時計業界のコンサルティング会社「リュクスコンサルト」がFHのデータをもとに先月発表した報告書によると、市場の価値増加分の75%は、数量ベースでわずか1.3%を占める時計によってもたらされていた。リュクスコンサルトの創業者で報告書を執筆したオリバー・ミュラー氏は「超高級品の成長は目覚ましく、市場全体の向かう先を示している」と指摘する。

一方、それより低い価格帯の状況は厳しい。2万5000〜5万フランの価格帯の時計が8.3%減と最も落ち込んだほか、ロレックス、オメガ、カルティエのスチールモデルに支えられた7500〜1万2500フランの「手の届きやすい高級時計」は0.5%増にとどまった。

ミュラー氏は「ブランド各社は、小売業者が在庫を補充し続けることが非常に難しいという新たな状況に適応しなければならない」と述べる。

「既存ブランドへの飽き」

一方、上半期の輸出数量は2.3%増加した。ミュラー氏によれば、これは主にスウォッチグループのロンジン、ティソ、ハミルトン、スウォッチの各ブランドが牽引したものだという。

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この増加は予想外だった。FHのデータによると、スイス時計の年間輸出数量は2023年の1700万個から2025年には1460万個に減少していた。多くのブランドやサプライヤーは、スイス連邦政府の支援を受ける操業短縮制度を使い、雇用と技術の維持を図ってきた。

業界の苦境にもかかわらず、新たな時計ブランドの参入ラッシュは続いている。今週、「ハウス・オブ・ブランズ」は1980年代以来休眠していた「ガレット」を復活させた。同社は今春にも「ユニバーサル・ジュネーブ」を復活させている。7月には、オーデマ・ピゲの元最高経営責任者(CEO)フランソワ・アンリ・ベナミアス氏が「N3W5」を発表し、来秋に発売する予定だ。また今年初め、かつて存在したブランド「Niton」が、ジラール・ペルゴの元幹部レオポルド・チェリ氏によって復活した。

「ザ・オナラブル・マーチャンツ・グループ」傘下に自身の時計会社を置くベナミアス氏は、市場は変革の機が熟していると考えている。「4年前、時計業界は絶好調で、最も冴えないブランドでさえ売れていた。今は市場が落ち込んでいるが、これは人々がお金を持っていないということなのか。答えは否だ。同じものに飽き飽きしているのだ。人々の注目を集めるには、普通ではないことをしなければならない」

ハウス・オブ・ブランズのCEO、ジョージ・カーン氏も同意する。「既存ブランドへの飽きがある」。ブライトリングの姉妹ブランドでもあるガレットは、高級時計への入り口とされる2220〜5300ポンドの価格帯で時計を販売する予定だ。

カーン氏は続ける。「この価格帯にビジネスがないというのはナンセンスだ。もはや波に乗るだけでは通用しない。他社からシェアを奪う必要があり、そのためには他社より優れていなければならない。小売業者は新しいものを歓迎している。すでに持っているものの20番目のバージョンなど求めていない」

老舗の時計メーカーが販売数量の維持に苦戦する一方で、少量生産の時計を手掛ける新進の独立系メーカーの多くは、需要に追いつくのに苦労している。3年前、業界のベテランであり、かつてウブロのトップを務めたジャン・クロード・ビバー氏は、息子のピエール氏と共に自身の名を冠した会社を設立した。ハイエンドな時計製造と手作業による仕上げに重点を置くビバーの時計は、最高で50万フランもの価格がつくこともある。

「私たちは絶好のタイミングで参入できた」と、現在最高経営責任者(CEO)を務めるピエール氏は語る。「コロナ禍後に市場は下落したが、バブルが崩壊したわけではなかった。いったんは踊り場を迎えたが、現在は市場が再び上向いている。そのことでコレクターの信頼も回復した。ただ、今から参入しようとしている独立系ブランドにとっては、より大きなチャレンジが待っている。市場が今、『安心感』のあるブランドを求めているからだ」

ビバー氏によれば、こうした状況が、FPジュルヌ、カリ・ヴォウティライネン、レジェップ・レジェピといった独立系時計メーカーの旗手たちによる時計への需要を後押ししている。この見方は最近のオークション結果からも裏付けられている。6月、フィリップスのオークションでFPジュルヌの「クロノメーター・ア・レゾナンス」が1390万ドルで落札され、史上5番目に高額で取引された時計となった。ビバーは今年、約100本の時計を製作する予定だ。「私たちを制限しているのは需要ではなく、生産能力の方だ」とピエール氏は語る。

Nitonのオーナーであるセリ氏は、価格が4万4750フランからとなる同ブランドの年間生産本数について、500本を超えることは決してないだろうと見ている。

「今後、販売数量はこうした小規模で専門性の高いブランドに分散していくだろう。大手ブランドが生産量の大部分を担うというのは、我々の描く未来の姿ではない」

中国は減少、米国は増加

市場は地域別の構図も大きく変わりつつある。パンデミック前、中国と香港はスイス時計業界の主要市場だったが、その後いずれも縮小している。今年の中国向け輸出は7.1%減だった。

今秋、スイスは中国との貿易協定に署名する予定。ほぼすべての輸出関税が撤廃される見込みだ。

ブークマン会長は「追い風になるかもしれない。毎年1億フランを支払っていた(中国向けの)関税が今後数年で撤廃される」と期待を示す。

一方、カーン氏は需要が変わるかどうかについては懐疑的だ。中国の関税は「わずか3.5%」に過ぎず、世界的に流通するブランドは地域ごとの通貨や関税の変動に合わせて常に価格を調整していると指摘する。「中国での価格を下げるブランドはない。ブランドはそこでより高い利益率を享受するだろう」と語る。

米国は業界最大の市場となった。1~7月の輸出額は30億フランと全体の約20%を占め、次点の3大市場を合わせた規模に近づいている。ブークマン氏は「今後数カ月も米国は好調を維持すると予想している」と語る。

多くのブランドが世界各地に活路を求めている。韓国とメキシコは力強い成長を見せている。低い水準からとはいえ、インドも市場全体を上回る伸びを示している。今年の輸出は30%増だ。スイスとの貿易協定により、インドへの輸出品のほとんどの関税が2031年までにゼロになる予定だ。カーン氏は「インドは今や欧州の主要市場と同等の重要性を持つ」と言う。

選別的になる消費者

しかし、業界の長期的な課題は地理よりも価値に関わるものかもしれない。パンデミック以降、数量減の一方で価格は急上昇し、消費者の購買行動はますます選別的になっている。

ピエール氏は「消費者は品質と価格の比較をますます意識するようになっている。ロレックスとカルティエはその価格帯で最高品質のものを生産できる。10万フランを超える価格帯で購入する人も、それに見合う品質を求めている。課題は、製品にどれだけの価値を込めるかだ」と語る。

短縮操業制度に依存し続けるサプライヤーやメーカーにとって、この圧力は特に深刻だ。ベナミアス氏は、この制度は短期的に雇用を守ることはできるが、過剰生産能力の解消にはつながらないと主張する。「傷口に絆創膏を貼っているようなもの。だが、それがなければ人々は職を失う。このサプライヤーネットワークの侵食によって、業界全体をリスクにさらしている」と警告する。

カーン氏は夏前に制度の利用をやめたと言う。「底を打ったと思う。企業は生産能力を調整し、市場シェアを奪いに行かなければならない」

消費者が時計への関心を完全に失ったわけではないことを示す兆候もある。中古市場での価格は上昇しており、オンラインマーケットプレイス「クロノ24」によると、2026年上半期の価格指数はカルティエ、タグ・ホイヤー、チューダーの牽引によって5.5%上昇した。

メーカー各社も中古市場への関心を高めている。2022年末に始まったロレックスの認定中古品事業は成長し、オーデマ・ピゲも今秋、独自のプログラムを導入する見通しだ。ミュラー氏は「中古市場にさらなる追い風をもたらすだろう。信頼が生まれ、信頼が取引を増やす」と語る。

しかし、価格が上昇し続け——ロレックスは今年2度値上げした——数量も不透明な中、回復の形を予測するのは依然として難しい。

投資銀行バーンスタインで高級品リサーチを担当するルカ・ソルカ氏は「ロレックスとカルティエを除けば、ブランドは苦境に立たされており、だからこそ高価格帯へ移行しようとしている。新ブランドが成功するには、高価格帯に焦点を当てた独自性が必要だ。しかし市場は混雑し成長も鈍い。新規参入者がどう生き残れるかが見えない。成功できるとすれば、まれな例外だろう」と指摘する。

ベナミアス氏はより楽観的だ。「参入に良い時も悪い時もない。新しいものを生み出す余地は常にある」と語る。ピエール氏はこう締めくくる。「時計は富と権力の永遠のシンボルだ」

Copyright The Financial Times Limited 2026

英語からの翻訳:宇田薫、校正:大野瑠衣子

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