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「刷り物」で新年を迎えるリートベルク美術館

滑らかな白い曲線の中で過去に戻る

エメラルド色のガラスで覆われたチューリヒのリートベルク美術館。現代的なこの建物の中で、12月7日から来年4月13日まで江戸後期の「刷り物」およそ80点が展示される。

木版画の1つである刷り物が日本に生まれたのは18世紀半ば。商品としてではなく個人で使うために作られたため、制作枚数も比較的少ない。今回の展示物の中には、今やたった1点しか存在しない貴重な作品もある。リートベルク美術館の刷り物は世界でも有数だ。

慶事の贈り物

 リートベルク美術館 ( Museum Rietberg ) はなぜ今、刷り物の展示会を開催するのか。副館長で日本美術キュレーターを務めるカタリナ・エプレヒト氏は、次のように説明する。
「刷り物は年賀状や特別な機会の贈り物として使われていました。300点あるコレクションの中から今回の展示会に選ばれたおよそ80点の中にも、おめでたいモチーフを使ったものがたくさん見られます。お正月を迎えるこれからの時期にぴったりの展示会ではないでしょうか」

 色紙大の刷り物は多色刷りで、絵の脇にはたいてい狂歌が添えられている。正確に言うと順序が逆で、狂歌会で最高の作と認められた歌に絵を添えたのが刷り物だ。刷り物の木版技術は非常に手が込んでいる。金銀をふんだんに使っている上、レリーフのように模様を浮き上がらせる浮き出し印刷によって表現力に奥行きが生まれている。その細やかな描写とユニークなアイデアは来場者の感嘆を誘うに違いない。

近くで鑑賞

 エプレヒト氏は
「時間をかけて、1枚1枚近くでじっくりと鑑賞してほしい。長い間眺めていると、その分新たな発見をするはず」
 と鑑賞のポイントを明かす。事実、浮き出しは遠くからでは見えない。近くに寄ってよく見ると、背景や着物の柄が浮き出しになっていたり、女性の手から糸が垂れ下がっていたりする。

 展示場の中央部分には白木の椅子が並べられ、そこに座って数点の作品をゆっくりと鑑賞できるようになっている。その周りは、天井から吊るされた白いストリングカーテンで丸く取り囲まれている。これは狂歌会をイメージしたものだ。

 展示品の中には葛飾北斎やその門人である魚屋北渓( ととや ほっけい )などの作品もある。味わい深い天然色は、筆で描かれた絵とはまた違う趣をかもし出している。エプレヒト氏によると、この色が失われないように展示期間はあまり長く設定しないようにしたいところだが、来年はドイツのケルンで、そして2010年には名古屋での展覧会もすでに予定されているということだ。

swissinfo、小山千早(こやま ちはや)

開催期間:2008年12月7日~2009年4月13日

開館時間:火曜~日曜日 10:00~17:00、水曜日と木曜日 10:00~20:00

祝日:12月24日と31日は閉館、12月25日と1月1日、4月10から13日は10:00~17:00

入場料:大人16フラン ( 約1200円 ) 、16歳以下は無料

館員によるガイド:12月から2月までは毎週日曜日14時。3月と4月は日曜日11時、水曜日18時、木曜日12時15分。

個人的なガイドの申し込み:電話+41 ( 0 ) 44-206-3131もしくは++41 ( 0 ) 44-206-3111まで。

リートベルク美術館、Gablerstrasse 15 8002 Zürichへの行き方:トラム ( 路面電車 ) 7番で「Museum Rietberg」下車。案内標識に従って徒歩5分。駐車場なし。

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