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日本企業 スイス企業買収増加の理由とは?

半導体製造装置大手の東京エレクトロンは今年3月5日、太陽電池事業で長年の実績を誇るエリコン・ソーラー(Oerlikon Solar)の買収を発表した Oerlikon Solar

ここ2年ほどで日本企業によるスイス企業の買収が急増している。昨年は武田製薬がスイス製薬大手ナイコメッド(Nycomed)を96億ユーロ(約9900億円)で買収するなど、日本からスイスへの大規模な投資が相次いでいる。

このコンテンツは 2012/06/15 11:00
鹿島田芙美(かしまだ ふみ), swissinfo.ch

こうした背景について、専門家の意見を聞いた。

超円高や震災の影響が色濃く残る日本経済。だが、そうした逆風の中で日本の企業はスイスへの投資を強めている。

日本企業のスイス企業買収は三菱樹脂が2009年、スイスの高機能樹脂メーカー「クオドラント(Quadrant)」社を買収したのを筆頭に、2011年には武田製薬によるナイコメッド社の買収、東芝による次世代送電網関連企業「ランディス・ギア(Landis + Gyr)」の買収などが相次いだ。

さらに今年3月には、シチズンホールディングスがスイスの機械式時計メーカー「プロサー・ホールディング(Prothor Holding SA)」の全発行済み株式56万株を57億円で取得すると発表。スイスのメディアは日本企業の勢いに驚きを隠せないでいる。

例えばドイツ語圏日曜紙NZZ・アム・ゾンターク(NZZ am Sonntag)は「スイス企業を買収するのは、(好景気に沸く)インド人でもなければ、中国人でもない。なんと日本人なのだ」と述べ、すでに約2万5000人のスイス人がここ数カ月でスイスから日本の企業に就職先を移したと報じた。 

4月にはさらに、コーヒー販売事業大手のUCCホールディングスが欧州大手のユナイテッド・コーヒー(United Coffee)の買収を発表。また、5月下旬にはパッケージング事業大手のフジシールが、ラベルの製造・販売を手掛けるPAGOホールディング(Pago Holding)の買収を明らかにした。

こうした現象の理由について、スイス日本商工会議所のポール・ペイロ事務局長に話を聞いた。

swissinfo : なぜここ2年ほどで日本企業によるスイス企業の買収が急激に増えたのでしょうか?

ペイロ : まず断っておきたいのが、日本企業による買収はスイスだけに限ったことではないということだ。日本企業はこれまで世界中で数多くの企業を買収しており、記録的となった2011年には全体で約6兆円の海外企業買収が行われた。

これにはさまざまな理由がある。一つは、金融危機で多くの通貨の価値が弱まっていることだ。米ドルやユーロは今、非常に弱い。また、多くの企業で株価が値下がりしたため、企業買収がしやすくなった。だが、スイスはこの例に当てはまらない。

スイスの場合は従来型の投資だ。日本企業がスイスの企業を買収するのは、一つに新しい市場を獲得するためだ。ナイコメッドがその好例だ。ナイコメッドはスイスではなく新興市場で成長を遂げていた。武田製薬はナイコメッドを買収することで新しい市場に進出し、市場拡大を図ろうとした。

また、日本の企業はスイスの特出した技術と製品ラインを買収した。自社製品のラインアップを強化し新市場に進出するためだ。その例がランディス・ギアだ。同社はスマートメーター(次世代電力計)で圧倒的な技術力を誇り、高いマーケットシェアを占める。同じことはウスター・テクノロジーズ(Uster Technologies)やエリコン・ソーラー(Oerlikon Solar)にも当てはまる。

ほかの理由として、日本銀行が現在、実質上ゼロ金利で資金供給していることが挙げられる。また、非常に多くの日本企業が現金などの流動性資産を大量に持っていることも理由の一つだ。

swissinfo : 日本の国内市場は人口減で縮小傾向にありますが、それも日本企業の海外進出と関係があるのでしょうか?

ペイロ : もちろんだ。日本社会では高齢化が進んでおり、経済危機後の日本経済は成長が止まっている。日本市場は魅力的で大きな市場だが、今後の経済成長は難しい。そのため、日本企業の多くが海外でビジネスを拡大しようと模索している。経済産業省も積極的に海外進出を勧めており、外国における新製品や新技術、新市場の獲得を奨励している。

swissinfo : つまり、スイス企業が日本企業に相次いで買収されたのは、どちらかと言えば偶然だったということですか?

ペイロ : そういうことだ。スイスには日本企業のように、隙間市場で魅力的な技術を製造・開発している企業が多い。だが、あれほど多くのスイス企業が日本企業に買収されたのは、やはり偶然だろう。

swissinfo : 2009年に発効した日本スイス自由貿易・経済連携協定(FTEPA)の影響についてどう考えますか?

ペイロ : 最近の企業買収の波に与える影響はほとんどない。この協定で企業買収が容易になったわけではないからだ。この協定で期待されるのは、日本の企業がヨーロッパ市場でビジネスを行う際、スイスを拠点にするということだ。しかし、現状ではそうした活動は少ない。

swissinfo : スイスへの投資はこれからも続くのでしょうか?

ペイロ : 関係者から聞いた話によれば、今後も大型買収が何件か計画されている。これからも企業買収が続くかどうかは、低金利の資金供給や有利な為替レートなど今回の投資の波を引き起こした好条件が今後も続くかによるだろう。

今後は高い技術力があり、有望市場でビジネス展開をするような中小企業の買収が行われるのではないか。スイスにはまだ魅力的な企業が存在するが、ランディス・ギアやナイコメッドのような大手企業の買収はおそらくないだろう。

海外投資が増加するのと並行して、日本国内での投資も増加している。日本企業は大震災で大きな打撃を受けたが、経済的視点から見れば、日本の産業は大震災のダメージをじきに克服できるだろう。

もちろん被害が甚大だった県には非常に多くの復興事業や復興に向けた投資が必要だが、こうした投資は日本経済に悪影響を与えるどころか、成長を後押しするものとなるはずだ。

日本企業によるスイス企業買収

三菱樹脂:2009年5月4日、高機能樹脂メーカーのクオドラント(Quadrant)の買収発表

日立造船:2010年12月20日、ごみ焼却事業のAE&E イノバ(AE&E Inova AG)の買収発表

ナブテスコ:2011年1月31日、自動ドア事業のカバ自動ドアビジネス(Kaba Automatic Door Business)の買収発表

東芝:2011年5月19日、次世代送電網関連企業のランディス・ギア(Landis + Gyr)の買収発表

武田薬品:2011年5月19日、製薬大手のナイコメッド(Nycomed)の買収発表

トヨタ自動織機:2011年11月8日、繊維の品質管理を手掛けるウスター・テクノロジーズ(Uster Technologies)の買収発表

東京エレクトロン:2012年3月5日、太陽電池パネル製造 装置メーカーのエリコン・ソーラー(Oerlikon Solar)の買収発表

シチズンホールディングス:2012年3月5日、高級機械式時計メーカーのプロサー・ホールディング(Prothor Holding SA)の買収発表

UCCホールディングス:2012年4月23日、コーヒー販売事業で欧州大手のユナイテッド・コーヒー(United Coffee)の買収発表

フジシール:2012年5月31日、ラベルの製造・販売を手掛けるPAGOホールディング(Pago Holding)の買収発表

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ポール・ペイロ(Paul Peyrot)氏略歴

1967年生まれ。

ザンクトガレン大学法学部で修士号取得後、1994年にチューリヒ州弁護士名簿に登録。

2003年、ザンクトガレン大学(HSG)法学部で博士号取得。

チューリヒの弁護士事務所ペイロ&シュレーゲル(Peyrot & Schlegel)で弁護士活動に従事する傍ら、連邦工科大学チューリヒ校(ETHZ/EPFZ)やチューリヒ大学、北西スイス応用科学大学(Fachhochschule Nordwestschweiz)で講師も務める。

また、スイス日本商工会議所の事務局長をはじめ、さまざまな企業の顧問を兼任する。

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