米国がイラン大規模攻撃 ジュネーブの会合は失敗の運命にあったのか
イランの核開発をめぐるアメリカ・イラン高官の第3回間接協議からわずか2日後の28日、アメリカはイランへの大規模攻撃を開始した。外交交渉はなぜ「失敗」したのか、再開の見込みはあるのか。専門家が解説する。
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2月26日、ジュネーブでイランの核開発をめぐるアメリカ・イラン高官の第3回間接協議が開かれた。「激しい」と評された長時間の協議を経て、イランのアッバス・アラグチ外相は同日夜、ソーシャルメディア上で「進展」を報告した。外相は協議が継続されると付け加え、「近日中にウィーンで」技術会合が行われることに言及した。両国は2月初旬、オマーンの首都マスカットで協議している。
仲介国オマーンのバドル・アル・ブサイディ外相は翌日、会合での「大きな進展」を歓迎した。
一方、ドナルド・トランプ米大統領は2日後の28日朝、「エピック・フューリー(壮絶な怒り)」と称したイランへの軍事作戦の開始を発表し、世界を驚かせた。アメリカとイスラエルは共同で一連の空爆を実施し、1989年以来のイランの最高指導者アリ・ハメネイ師を含むイラン政権高官を殺害した。
外交の失敗、その理由は
ジュネーブ国際開発高等研究所(IHEID)のサイラス・シャイエ教授は「ドナルド・トランプは、交渉を続けるよりもイランを攻撃する方が利益が大きいと算段した」と指摘する。シャイエ氏は、トランプ氏がイラン政権の脆弱性につけ込み、政治的勝利の機会を掴んだとという。イラン政権は、昨年6月にイスラエルとアメリカが開始した12日間戦争と、今年初めの抗議活動に対する暴力的な弾圧によって弱体化していた。NGOによると、これらの弾圧により数万人が死亡した。
交渉のなかで、アメリカはイランに対し核開発計画と長距離弾道ミサイルの完全な放棄を迫ろうとした。民生用核能力開発の権利を有するという姿勢を崩さないイラン側は、2018年以来自国の経済を圧迫してきた米国の制裁解除を求める予定だった。イランはウラン濃縮を制限する用意があると表明した。
今年初めからジュネーブとマスカットで行われた間接交渉は3回を数えた。類似の協議は以前も行われていたが、昨年のアメリカとイスラエルによるイランの核施設への爆撃を受けて中断された。
その結果、両国は一見相容れない要求を掲げて新たな交渉に臨んだ、とアナリストらは指摘する。
「不信感はあった。しかし、これは単なる策略で何の成果も期待できないとどちらか一方が考えていたなら、そもそも交渉に応じることはなかっただろう」とシャイエ氏は指摘する。また、アメリカ側の要求(弾道ミサイル計画や、レバノンのヒズボラ、イエメンのフーシ派を含む地域代理組織に対するイランの支援など)は当初から必ずしも明確に定義されていたわけではないと付け加えた。
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不意打ち
「イランはジュネーブでの協議結果に進展を見て、新たな協議が行われると確信していたに違いない。このため、28日に最高指導者とイラン政権高官との会談を準備する際に慎重さを欠いた」とシャイエ氏は説明する。米紙ニューヨーク・タイムズは、CIAがこの会談を事前に把握し、イスラエルに報告していたと報じた。そのため、イスラエルはハメネイ師がいた政府庁舎を攻撃できたという。
「不意打ちの要素が重要なのは明らかだ」と、バーゼルの研究機関スイスピースのローラン・ゲッチェル所長は話す。交渉の途中で一方が攻撃を仕掛けることは珍しくないとも付け加えた。
ゲッチェル氏によると、会談を行うことで、当事者は「合意に達するために最後の瞬間まであらゆる努力をしたが、相手側が拒否したというシグナルを国際社会に送ることができる」。
慶応義塾大学の田中浩一郎教授も、NHKのインタビューで同様の見解を示した。交渉が続く中で攻撃が始まったことについて、「あくまでもアメリカがイランへの軍事攻撃に転じるための正当性を得るために、一応外交交渉をやったけれどイランが応じなかったので、軍事的な行動に移った。そのための口実でしかなかったと思う」と語った。また東地中海に2隻目の原子力空母が到着するまでの時間稼ぎも必要で、アメリカ側にジュネーブで協議をまとめようという意識は「当初からなかった」とみる。
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新たな交渉なし
トランプ氏の目的は依然、不透明だ。トランプ氏はイランの政権交代を望んでいると示唆しているものの、2003年以降のイラクのような長期戦は本意ではないと改めて強調した。そのため、アナリストらは不確実な時期が到来しつつあると指摘する。サウジアラビアは、自国の石油インフラが攻撃された場合にイランを爆撃すると示唆しているが、湾岸諸国がアメリカとイスラエルに同調すれば、事態はさらにエスカレートするおそれがある。
シャイエ氏は、戦争は「今後数日、あるいは数週間」続くだろうと述べ、短期的には両国が交渉のテーブルに戻る可能性は低いと付け加えた。イラン国家安全保障会議のアリ・ラリジャーニ議長も、イランはアメリカと「交渉」するつもりはなく、「長期戦」に備えていると述べている。
交渉が再開する可能性はあるのか。シャイエ氏は、それには例えばアメリカに譲歩する意思のある、より穏健で現実的な指導者が必要だという。「しかし、それは残りの高官間の力関係に左右されるだろう。革命防衛隊の新司令官、アフマド・ヴァヒディ氏をはじめとする強硬派が影響力を強めているようだ」とシャイエ氏は指摘する。最高指導者の後継者については、今のところ不明だ。
編集:Virginie Mangin、英語からの翻訳:宇田薫、校正:ムートゥ朋子
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