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気候変動対策の中心を担うグリーン水素

H2エネルギー( H2 Energy AG)は、スイス・アールガウ州アーラウで水素製造プラントを稼働させている © Keystone / Christian Beutler

近年、世界中のリーダーが気候変動への対応を迫られる中、グリーン水素が解決策の重要な一部として注目を集めている。

このコンテンツは 2021/11/09 12:14

グリーン水素はカーボンニュートラル、つまり二酸化炭素を排出しないエネルギー源として、世界の電力需要の最大25%を担う可能性がある。このためグラスゴーで開催中の国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)で重要なトピックとして議論に上がる予定だ。COP26は地球温暖化にブレーキをかける最後の手段だ、と広く認識されている。

ジュネーブ拠点のグリーン水素機構(GH2)のヨナス・モバーグ最高経営責任者(CEO)は「温室効果ガス排出量の3分の2は化石燃料使用から来ている。早急に使用を停止し、多くの用途において段階的に廃止しなければならない」と語る。GH2は、グリーン水素というクリーンな燃料に対する世界の取り込みを促進させる目的で9月に発足した。同氏は「バッテリーはその役割の大部分を担うことができるが、それ以上となるとグリーン水素が必要になる」とも話す。

現在、世界のエネルギー需要のうち、グリーン水素がまかなうのはわずか1%未満だ。だが近年の世界のエネルギー環境は急速に変化し、世界の国々が温室効果ガスの排出量を削減し、化石燃料から離れることを迫られている。そのような状況の中、スイスは、空気や水を汚染しないクリーンなエネルギーを模索し、支持する国々の先駆けとなっている。だが先の国民投票では、環境により優しい未来を目指す改正CO2法が否決された。

グリーン水素の推進派は、化石燃料よりもクリーンで、余った風力・太陽光エネルギーの蓄積手段としても使える点を挙げる。特にグリーン水素は、幅広い用途で石油やガスの代替となりえるため、世界中の政府、クリーンエネルギー擁護団体、企業が注目する。オーストラリアとフランスは、2030年までに大規模な水素発電所の稼働を計画している。スイスでは主に交通分野での利用を目指した研究開発が行われている。

気候に中立な手法で精製できる点もグリーン水素の魅力だ、とモバーグ氏は話す。セメント、鉄鋼、大型輸送、化学業界など、世界のCO2排出量の3分の1以上を現在占め、またこれまで汚染燃料の除去が困難だった分野の脱炭素化も見込める。グリーン水素は既に、道路輸送や船舶の燃料源として有望であることが示されている。風力や太陽光などの再生可能エネルギーの長期貯蔵に向けた応用も期待されている。

グリーン水素用途の広いエネルギーキャリア

  • 燃料電池車用水素ステーションの燃料
  • 製油所での化石燃料からの硫黄抽出
  • 鉄鋼及び半導体産業の産業ガス
  • 電気とメタンへ変換し、家庭へ電力供給
  • メタノールやアンモニアなど環境に優しい化学物質の生産
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しかし、ある種の再生可能エネルギーを利用して別のエネルギーを作り出すことの経済性や気候変動への影響を疑問視する声も挙がる他のサイトへ。再生可能な資源から生成した電力は可能な分野へ直接使用した方が効率的だ、というのが彼らの持論だ。また、水素は化石燃料と比べ貯蔵が非常に難しいという致命的な問題もある。

グリーン、グレー、それともブルー?

水素は無色のガスで、宇宙で最も豊富な元素だ。通常、水素は水(H2O)などの化合物に含まれる。電気と同様、エネルギーキャリアであり、エネルギーを利用可能な形で輸送できる。また水(電気分解)、化石燃料、バイオマスなどを利用して、他の分子から分離して生成できる。液化、貯蔵が可能で、パイプラインやトラック、船舶による輸送もできる。

水素の環境負荷は、生成方法によって決まる。このためエネルギー業界では、水素の種類を分類する非公式のカラーコードシステムがある。主にグレー、ブルー、グリーンに大別される。

グリーン、ブルー、グレー水素

世界で生産される水素の90%以上は、石油・天然ガス・石炭などの化石資源から供給される。生産の際に気候に有害な二酸化炭素排出が含まれるため、グレー水素と呼ばれる。

ブルー水素も天然ガスが原料だが、その過程で発生するCO2は回収され、恒久的に貯蔵される。

グリーン水素は、再生可能エネルギーから作られる水素のことだ。この形式でのみ、水素はエネルギー転換において中心的な役割を果たすことができる。

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グレー水素とブルー水素は石炭や天然ガス、石油から製造される過程で二酸化炭素を排出するため、汚染性があるとみなされる。一方で、風力・太陽光といった再生可能エネルギーから得られる電気を用いて生成された水素はカーボンニュートラル(炭素中立)であるため、グリーン水素と呼ばれる。原子力発電による電気分解で製造された水素も、炭素をほとんど排出しないためグリーン水素だという意見もある。

GH2を始めとする再生可能エネルギー推進派が重要視するのは、各国政府がエネルギー政策を策定する際に、グリーン水素が他の化石燃料や化石燃料由来のものより優先されることだ。石油・ガス産業によるエネルギー政策への努力は疑わしい。グレー水素をブルー水素に「偽装」することも時としてあるからだ。

「グリーン水素とは何を意味するのか、基準と定義の発展が非常に重要だ」とモバーグ氏は話す。「交通機関がグリーンだと、一体どうやって確かめるのか。製造から運用までのプロセス全体で、最も高いグリーン水素基準が守られていれば良いのか?これは私達が急速に進展させたい分野の1つだ。これらの基準や定義によって、化石燃料由来の水素がゼロエミッションの解決策を打ち負かすことのないようにすることが重要だ」

GH2はオーストラリアの鉱山王アンドリュー・フォレスト氏が設立し、オーストラリア前首相のマルコム・ターンブル氏が議長を務める。だがモバーグ氏は、知名度が高く影響力のある国際機関や業界関係者が多く存在するスイスは、GH2にとってグリーン水素を推進するまたとない拠点だった、とも話す。同氏は。GH2は、再びダボスに開催地を戻す世界経済フォーラム(WEF)の年次総会(ダボス会議)や、持続可能な開発のための世界経済人会議(WBCSD)の議論でこのテーマを取り上げたいと考える。

スイスは水素を推進

国際エネルギー機関(IEA)は、世界のエネルギー需要が2040年までに最大30%増加すると予測する。石炭と石油に依存する経済がクリーンで再生可能なエネルギー源の導入に失敗すれば、気候変動は悪化の一途をたどる。多くの専門家は、地球の温度が気候変動を緩和するための世界的な取り決めである2015年のパリ協定で定められた1.5度目標を超えて上昇しないようにするために、グリーン水素をエネルギーミックスに組み込む必要があると考えている。

今年20周年を迎えるスイス水素協会のアンドレアス・ズッテル会長は「水素は再生可能エネルギー貯蔵において鍵となる要素だ」と指摘する。「生成した水素は、直接使うことも、大気中のCO2を使って合成燃料を生成することもできる。水素がこれほど魅力的なのはそのためだ。どのような状況であれ、水素は必要だ」

グリーン水素は、風力発電や太陽光発電の季節的な貯蔵を提供することで電力供給システムの柔軟性を向上させるだけでなく、バッテリーやアンモニアに勝る重要な利点がある、と同氏は話す。エネルギーキャリアとしての水素は豊富な水から生成され、エネルギー密度が高い。このためバッテリーと比べ、生成エネルギーの貯蔵に消費する資源が少なくて済むという。また燃料としての水素は、毒性が高く取り扱いが難しいアンモニアとは異なり、安全に貯蔵できる。

2050年までにカーボンニュートラルを実現するというパリ協定の条項を実施するために欧州連合(EU)が作ったロードマップ、欧州グリーンディールはエネルギーキャリアとしての水素の可能性に目を向ける。水素はスイスのエネルギー戦略にも組み込まれている。スイスがグリーン水素生産の世界的リーダーとなる可能性はないが、重要なイノベーションハブだ。

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スイスは2050年までにカーボンニュートラルの目標を達成するため、モビリティ分野でグリーン水素エコシステムの構築を推進している。その戦略の一環として、25年までに水素を動力源とする韓国の現代自動車製大型トラック約1600台を国内で走行させる計画がある。同社は、年間8万キロメートルの走行を想定すると1台あたり年間70〜75トンのCO2排出量削減につながるとしている。

スイス水素協会は、水素産業のノウハウを開発する企業や科学者を集めている。ここには太陽電池とグリーン水素を搭載した初のモーターカタマランを開発したAquonのようなスタートアップ企業や、連邦工科大学ローザンヌ校(EPFL)の専門家が参画している。また、世界的なコンテナ船運用企業の地中海海運(MSC)や商品取引会社トラフィグラなど、スイスに拠点を置く多国籍企業もグリーン水素ソリューションに投資し、海上燃料としての可能性を探っている。

克服すべき課題

グリーン水素に対する支持が高まる一方で、克服すべき課題は多い。大量生産は経済的にも技術的にもまだ不可能だ。

水素の大規模生産技術は発展途上だ、とズッテル氏は言う。5年前までは、電気分解槽の発電量は4メガワットを超えられなかった。だが現在ではそれが5メガワットに増え、複数の電気分解槽を組み合わせることで最大20メガワットの発電が可能なプラントも複数稼働している。アルピク、EW Höfe、SOCARエネルギースイスの3社は、中部シュヴィーツ州に最大10メガワットの電気分解プラント建設を計画している。しかし、これは1千メガワット以上の火力発電所の容量には到底及ばない。

もう1つの課題はコストだ。現在、水素の製造コストはエネルギー単価で化石燃料の2〜5倍かかる、と同氏は指摘する。スイス国内に建設する場合、1ギガワットの発電に対して約15億フランの費用がかかる上、200平方メートル以上のビル50棟分と同等のスペースが必要になる。

国際エネルギー機関の試算他のサイトへによると、現在、世界の水素生産のうちグリーン水素は0.1%に満たない。だがモバーグ氏は、2050年までに世界のエネルギー需要の25%を満たす規模に成長すると確信している。そのためには、政府や産業界のリーダー、国際機関が協力し、国際市場とインフラを構築する必要があるという。

ブルームバーグ・ニュー・エナジー・ファイナンスの試算他のサイトへ(昨年3月末公表)によると、2050年に水素が世界の総エネルギー需要の24%を占めるようになるためには、必要な生産・貯蔵・輸送のインフラ整備に約11兆ドルの投資が求められる。それに加え、各国政府は30年までに約1500億ドルの補助金を提供することが必要になるほか、グリーン水素の需要を高め、生産コストを下げて競争力を高めるための政策支援を行わなければならないという。

スイスのエネルギー需要の25%に相当する水素を太陽光発電で生産するには、1千億フラン規模の投資が必要だ、とズッテル氏は指摘する。発電所から家庭、オフィス、工場に水素を運ぶパイプを作るだけでも、全国的な送電網の整備や鉄道の電気化に匹敵する長期的かつ大規模な取り組みが必要になるという。

同氏は「それは現在の経済行動からは完全に逸脱している」と指摘。「今の私たちは投資し、50年から70年後ではなく数年でリターンを得たいと考える。持続可能なエネルギーシステムが利益を生み、人々が新しいテクノロジーの利点を実感するまでには時間がかかる。未来の世代は、今日の努力に感謝するはずだ」と話している。

(英語からの翻訳・甚野裕明)

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