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「世界の食料システムに、これまで通りというオプションはない」

Frank Eyhorn

栄養失調や栄養不良、種の多様性の危機、気候変動。これらの問題を抱える私たちは、現在の食料システムの改善に即刻取り組む必要がある。どうすれば実現できるのか。

食料の未来をめぐる議論の場では、意見が両極端に分かれている。スイスでは、農業にかかわる前回の2つの国民投票の際にそれが鮮明になった。農作物の生産が人々の健康と地球の環境に過大な負担を与えることになってはならないという正当な要求があった一方で、農場の存亡を懸念する声もまた正当なものだった。

深い溝を挟んで対峙する両者の間には、9月23日にニューヨークで開催される国連食料システムサミットの準備中にも、ピリピリとした緊張感がみなぎっていた。市民社会組織の中には、経済への影響が大きすぎるという懸念から、サミットのボイコットを呼びかけているところもある。しかし、このような熾烈な塹壕戦は解決策の模索に何一つとして役立つことはなく、逆に妨げになるばかりだ。田畑から食卓に至るまで、食料システムの改善は全員が一致団結して初めて克服できる、社会全体で取り組むべき途方もない難題なのだ。

現在の食料システムでは行き詰る

私たちは皆、毎日食べていかなくてはならない。何を食べるか、そして食品をどのように作るかということほど多大な影響を地球と社会に与える人類の活動はほかにない。今日の農業のあり方は、非常に懸念される種の多様性や土壌肥沃度の損失、あるいは水資源への負担に決定的な影響を与えている。また、世界の温室効果ガス排出量も3分の1近くが食料システムを排出源としている。

その一方で、食料分野は世界的に見ると、本来の目的をほとんど果たしていない。約20億の人々が飢えや栄養不良に苦しみ、30億人が健康を損なう食生活を送っているのだ。そして、農業従事者や加工業者、料理人、販売者など、食料システムの中で生計を立てている人々の多くが低所得層に属しているのも事実だ。

国連食料システムサミットは、国際社会が食料システムの未来図について考察する場だ。その準備にあたり、145カ国で、市民社会、政治、経済、民間企業の何百もの組織と何万もの人々が解決策について話し合った。そこでは開催前の局勢と異なり、思いもよらず意見の一致を見た。「これまで通り」というオプションはなく、パラダイムの変換は急を要するのだ、と。可能な限りの大量収穫と安価なカロリー摂取に当てられていたこれまでの焦点はもはや行き止まりに突き当たり、社会が担いきれないほどの負担を生み出している。今、必要とされているのは、全員に健康な食物を調達する総体的なアプローチだ。そして、それらの食物は、環境や動物福祉、人権を尊重し、かつ誰もが公正な賃金を得られる方法で生産されなければならない。

生産者と消費者を結びつける

今後必要となる転換プロセスの有望で拘束力のあるコンセプトとして、農業生態学が今回、国連サミットで初めて認められることになった。農業生態学では、エコロジカルな生産を目的として学問に基づいた実作業の手ほどきをする。種の多様性の促進、資源の循環、化学肥料や農薬の投入量の削減といった農業生態学の原則を用いれば、より賢い代替システムを設計することができるほか、従来の生産方法の段階的な改善にも役立つ。さらに、公正なバリューチェーンに沿って生産者と消費者を結びつけるという狙いもある。

時代遅れの社会モデルを乗り越える

急を要する食料システムの転換を実現するにあたり、動かすべきレバーはスイスにも世界にも複数ある。まず、エコロジカルな生産方法を改善し、普及させる。そして、食料分野の投資を持続可能な経営に取り組む企業やプロジェクトへと移行させる。どちらにおいても、政治的な誘導や有害となる行動の規制は必須だ。そのためには、今なお時代遅れのアプローチやコンセプトに基づいたビジネスモデルを持つ利益団体の強大な影響力から脱却せねばならない。

また、とりわけ重要なこととして、食料、環境、健康、福祉という各分野の関連性に対する公共意識をより向上させることを挙げたい。最終的に食料システムの構築を決めるのは私たち全員だからだ。それは、政治的権利の行使や毎日の消費の際に行う選択を通じて実行される。未来の世界のありようには誰もが影響を及ぼしうる。私たちは皆、毎日食べていかなくてはならないのだから。

(独語からの翻訳・小山千早 )

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