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スイスのメディアが報じた日本のニュース

米国のバイデン大統領、韓国のユン大統領、日本の岸田首相
独語圏日刊紙NZZは18日配信したオピニオン記事で、日韓の過去の和解の試みはどれも短命だったとしたうえで、いずれかの国で政権交代が起きても逆戻りしないよう、協力関係の維持に尽力することが大切だと指摘しました Keystone

今週(8月18日〜24日)スイスの主要報道機関が伝えた日本関連のニュースから3件をピックアップ。要約して紹介します。

「原発処理水、放出開始」「日米韓3カ国首脳が会談」「笑顔トレーナー、川野恵子」「66頭の牛を襲ったクマOSO18を駆除」「北朝鮮、軍事衛星再発射」―といったトピックスが取り上げられました。

この中から今回は「原発処理水、放出開始」「日米韓3カ国首脳が会談」「笑顔トレーナー、川野恵子」をご紹介します。

「中国は見せかけの議論を展開」「韓国の批判は市民社会から」原発処理水

24日に始まった東京電力福島第1原子力発電所の処理水の海洋放出は、スイス国内でも広く報じられました。メディアが主に注目したのは放出方法や影響、中国など国内外から上がる反発・不安の声です。

独語圏スイス公共放送SRFのファビアン・クレッチュマー北京特派員は21日配信の記事で、中国が日本を強く批判しているのは、単に安全上の懸念が理由ではないと分析。背景には2カ国の政治的歴史のほか、日韓米が協力関係を強めていることへの警戒があるとして、安全性に疑念を呈す中国の批判は「見せかけの議論だ」と論じました。

ただ、距離を縮めているはずの韓国でも批判が起きていることについては「これは政界ではなく国民発。日本との距離を縮めるという政府の決定に対して、国民の中に強い憤りがある。日本が過去の政敵だというイメージは、左派色が強い同国の市民社会では極めて強い」とし、中国とは批判の性質が違うと分析しました。

独語圏日刊紙NZZは、処理水が安全基準を満たしているにもかかわらず地元住民の不安が止まないのは、東電と日本政府にも責任があると指摘。東電と政府はこれまで、原発からは通常時でも毎年同様の量のトリチウムが放出されているという事実を明確に伝えず、他の事項に関してもあいまいな説明をしてきたと述べました。

日刊紙ターゲスアンツァイガーの取材に応じたヌリア・カサクベルタ・アローラ連邦工科大学チューリヒ校(ETHZ)教授(海洋物理学)は、英国のセラフィールドとフランスのラアーグにある核燃料再処理工場は毎年、トリチウムなど今の福島原発の400倍以上の放射性物質を海洋放出しているのに「近海で獲れる魚の汚染の可能性については誰も文句を言わない」と疑問を呈しました。ただ、浄化に使われるALPS(多核種除去設備)は常に同じように機能するとは限らないため「より危険な放射性核種が(福島の)処理水に混入すれば問題となる可能性がある」とも指摘しました。

日本経済産業省によると、スイスではシュピーツ研究所が国際原子力機関(IAEA)の第三者分析機関として、処理水の安全性のレビューに関わっています。(出典:NZZ外部リンク/独語、(1外部リンク)(2外部リンク)/独語、SRF外部リンク/独語、20.min外部リンク/仏語、ル・マタン外部リンク/仏語、RTS外部リンク/仏語)

「バイデン大統領はユン大統領に感謝すべき」日米韓首脳会談

日米韓3カ国のトップが18日、米首都ワシントン近郊の大統領専用山荘「キャンプデービッド」で会談し、北朝鮮や中国の脅威に対処する新たな安全保障協力の指針を策定しました。スイスの複数メディアは今週、これを「日米韓が3国同盟を構築」「歴史的会談」「日米韓の新時代」などと報じました。

メディアの多くは長年冷え込んでいた日韓関係に注目。NZZは「新しい3国同盟の結成は、外交政策上の成功」で、ジョー・バイデン米大統領は2022年の就任以来、日本とのより緊密な軍事・経済協力関係を発展させようとしてきた韓国の尹錫烈(ユン・ソンニョル)大統領に感謝すべきだとしました。swissinfo.ch英語版は米国家安全保障会議のインド太平洋調整官を務めるカート・キャンベル大統領副補佐官(国家安全保障担当)がロイター通信に対し、今回の首脳会談が実現したのは、ユン氏と岸田文雄首相が率いた「息をのむような類いの外交」のおかげであり、彼らは「時には自分の相談役やスタッフの助言に逆らうこともあった」と述べたと伝えました。

会談に先立ちNZZが18日配信したオピニオン記事は「日本と韓国の距離を縮めているのは、民主主義のような共通の価値観ではなく、単に緊迫した治安状況にある」と分析。日韓の過去の和解の試みはどれも短命だったとしたうえで、いずれかの国で政権交代が起きても逆戻りしないよう、協力関係の維持に尽力することが大切だと指摘しました。

一方で、3国同盟を「ミニNATO(北大西洋条約機構)」と呼ぶなど、会談や3カ国首脳が発表した共同声明に反発する中国の声もスイス国内で広く報じられました。

(出典:NZZ(1外部リンク)(2外部リンク)/独語、ターゲスアンツァイガー外部リンク/独語、SWI swissinfo.ch/英語、watson外部リンク/独語、ル・マタン外部リンク/仏語、RTS外部リンク/仏語)

世界的に知られた「笑顔トレーナー」

脱マスクが進む日本で、「笑顔トレーナー」として笑顔の作り方のレッスンをして回る川野恵子さんにフォーカスを当てた記事が24日、ターゲスアンツァイガーから配信されました。

記事では、川野さんのレッスン内容や生徒の声、メソッドなどを紹介。記事によると、川野さんのレッスンは日本国内でしか開かれていていないにもかかわらず、日本独特だとして世界中のメディアに取り上げられたことから、国外でもよく知られた存在になっています。

記事は、建前を重んじる日本人は自分の本音を隠すため、何か成功したときでも素直に微笑むことはしないと解説。「幸せを表すためというよりは顧客との信頼関係を作ったり、社内の雰囲気を明るくしたりするためのツールとして」川野さんが笑顔の作り方を教えていることにスイスのメディアは物珍しさを感じたようです。(出典:ターゲスアンツァイガー外部リンク/独語)

注目のスイスのニュース

今週、最も注目されたスイスのニュースは「スイス、熱波で『ゼロ度線』が過去最高を記録」(記事/日本語)です。ほかに「人口800人の村に観光客5千人 困惑する景勝地ラウターブルンネン」(記事/日本語)や「スイス高級時計1850億円が盗難・紛失 4割超はロレックス」(記事/日本語)も話題になりました。

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次回の「日本のニュース in スイス」は9月1日(金)に掲載する予定です。

編集:宇田薫

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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