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スイス老舗チョコ・レダラッハに児童虐待疑惑 またもイメージダウン?

星型に入ったプラリネ
老舗メーカー「レダラッハ」のブランド力は輝きを失っている? © Keystone / Christian Beutler

スイスの老舗チョコレートブランド「レダラッハ」の創業者、ユルク・レダラッハ氏が共同設立したキリスト教主義学校での児童虐待を告発するドキュメンタリー番組がスイス独語圏で放送され、波紋を呼んでいる。同社との提携を取りやめる動きもあるが、不買運動や現経営陣への非難は的外れだとの指摘もある。

家族経営のチョコレートメーカー「レダラッハ」の最高経営責任者(CEO)を2018年まで務めたユルク・レダラッハ氏(72)は、1995年にザンクト・ガレン州カルトブルンに福音主義キリスト教に基づく学校「ドミノ・セルヴィテ(「主に仕えよ」の意)」を共同で設立した。独語圏のスイス公共放送SRFは21日、ドミノ・セルヴィテでの児童虐待を告発するドキュメンタリー番組外部リンクを放送。同校の元生徒たちは定期的にベルトで殴られるなど、虐待の恐怖の中で生活をしていたと告発した。レダラッハ氏自身が虐待に関わることさえあったという。

番組放送の2日後、チューリヒ映画祭はレダラッハとの提携解消を発表した。映画祭は声明外部リンクで、SRFのドキュメンタリー番組は「皆を震撼させた」と述べた。レダラッハと「オープンな意見交換」を行った末、映画祭とレダラッハは提携解消を「共同で決定」した。

ユルク・レダラッハ氏は疑惑を否定している。2018年にレダラッハの経営を引き継いだ長男のヨハネス・レダラッハ氏も同校の卒業生で、現在はヨハネス氏の子供たちが在籍している。学校の名前は「クリスチャンスクール・リントゥ」に改名された。

SRFのドキュメンタリー番組制作チームは約2年前に調査を開始。SRFの取材を受け、同校も外部委託調査を行った。報告書では卒業生58人の証言をもとに、元教師や宗教団体のメンバーによる虐待行為が行われていたことが確認された。

レダラッハの対応

ヨハネス・レダラッハ氏は21日、提携企業に手紙を送った。swissinfo.chが入手した手紙で、ブランドの経営に携わっている現役世代は「教会とはまったく関係がない」こと、ユルク氏はもう経営に関わっていないことを強調した。ヨハネス氏は「いまの世代と1800人の従業員の業績で会社を判断して欲しい」と述べた。

独語圏日刊紙ターゲス・アンツァイガー日曜版が24日に配信したインタビュー記事外部リンクで、ヨハネス氏は、学校で起きたことを全面的に非難すると語った。「私が信じていること、そして私が大切にしていることのすべてに反している」

ブランディング専門家のシュテファン・フォグラー氏は、ヨハネス氏は自身が置かれた状況下で最善を尽くしたと評価する。ヨハネス氏の距離の取り方は信頼できるとし、「それは感情的には難しいことだ。特に父親が関わっている場合は」と無料紙20 min.(25日配信外部リンク)に語った。

「苦しみは社名と結びついている」

しかし、イメージ戦略専門家のベルンハルト・バウホーファー氏によれば、状況は芳しくない。

同氏は大衆紙ブリック外部リンクに対し、「レダラッハ・ブランドはひどく傷つけられた。家名は(ブランド名と)密接に結びついている。これは有害な組み合わせだ」と語った。

これはチューリヒ映画祭も指摘している。映画祭は声明外部リンクで「レダラッハの現経営陣に対する非難はないが、それでも被害者とされる人々の苦しみは、レダラッハ一族や会社の名前と結びついている。映画祭では映画を楽しむことだけに集中できるようにしたいとの考えから、今回の(提携解消の)決定に至った」と述べた。

スイスインターナショナルエアラインズ(SWISS)は2020年、サプライヤー選びには「ブランドイメージに合っているか」が重要な要因の1つであることを理由に、10年間提携してきたレダラッハとの契約更新を見送る決定を下した。スイスでは当時、キリスト教福音派の信者であるユルク・ヨハネス親子が、同性婚や中絶の権利に反対する活動を支援していると報じられていた。

海外輸出には影響せず

バウホーファー氏は、少なくともスイスでは、消費者がレダラッハを敬遠する危険性があると考えている。「レダラッハは大嵐のど真ん中にいる。経済はもはや順調ではなく、インフレは多くの人々を悩ませている。ここにきて虐待スキャンダルが露呈した」

とはいえ、海外での売り上げが落ち込む可能性は低いと考えている。「海外メディアにとって、この話は十分に興味深いものではない」からだ。問題は、スイスでの売り上げの落ち込みが、会社が一族の見解や行動から明確に距離を置くのに十分な要素となるかどうか、とブリックは指摘した。

ブランディング専門家であるフォグラー氏も同じ意見だ。会社のイメージは損なわれるものの、売り上げにそれほど大きな打撃はないだろうと予測する。「短期的には、スイスでの売り上げは少し落ちるだろう。しかし、スイスへの観光客は国内メディアの批判に気づかず、チョコレートを買い続けるだろう」

何よりもレダラッハは、輸出に強いブランドだ。「もし外国のメディアも虐待疑惑について報道していたら、ファミリービジネスを営むレダラッハはもっと悪い状況に陥っていただろう。しかし、今のところそうした兆候はない」

推定無罪

フリブール大学のライナー・アイヒェンベルガー教授(経済学)は、虐待疑惑でレダラッハとヨハネス・レダラッハ氏を非難するのは間違っていると考えている。

「推定無罪が適用される。それに、今はもう活動していない人たちを理由に会社をボイコットすべきではない。時効の問題もある。いまレダラッハの不買運動をする人は、教会に関係する多くの企業をボイコットしなければならなくなる」

アイヒェンベルガー氏は、レダラッハの持つ保守的な価値観が批判の的になっていることにも苦言を呈す。「結局のところ、信教や意見の自由はあるからだ」

レダラッハ広報のマティアス・ゴールドベック氏は25日、swissinfo.chのメール取材に対し、同社は50カ国以上から「最も多様なバックグラウンド、意見、ライフスタイルを持つ」人々を雇用していると回答した。

「レダラッハでは、多様性、オープンさ、尊敬、表現の自由、寛容を大切にしている。我々のもとには、いかなる差別も存在しない。このことは企業行動憲章外部リンクにも明記されている。憲章違反が疑われる場合には、設置されたオンブズマンオフィスに相談することができる」

英語からの翻訳:大野瑠衣子

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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