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2023年6月18日の国民投票

Covid-19法 なぜいま3回目の国民投票が実施されるのか

有効署名が入った箱を当局に提出する人の列
レファレンダム委員会のニコラ・リモルディ委員長は差別を助長するCOVID証明書は二度と発行するべきではないと考える © Keystone / Peter Klaunzer

COVID証明書、新型コロナウイルス検査、接触者追跡ソフトウェア。これらは、すでに過去のものだ。そんな中、スイス連邦政府が通常の議会審議を経ずに決定を下す際の法的根拠となる「COVID-19法」を巡り、レファレンダム(国民表決)が提起された。スイスでCOVID-19法に関する国民投票が実施されるのは3回目となる。

Covid-19法はスイス近代史上、最も争われた法律となった。国のコロナ対応を巡り、有権者に関連法の是非を判断する権限を与えたのは、隣国のリヒテンシュタイン以外にはスイスが世界唯一の国だ。スイスの有権者は来月18日、同法に関する3回目の国民投票を行う機会さえ得る。

なぜ再び国民投票が実施されるのか?

レファレンダム委員会「対策?NO, THANK YOU!外部リンク」は4月4日、5万9211筆の有効署名を提出し、昨年12月16日に可決されたCovid-19法改正案に対するレファレンダムを提起した。同委員会は主に市民団体「MASS-VOLL外部リンク」と「憲法の友外部リンク」で構成される。両市民団体は政治的立場は明らかにしていないが、コロナ禍を通して連邦内閣の政策、とりわけ「COVID証明書」に反発し続けたことで有名になった。

今回のレファレンダム成立により、COVID-19法に関する国民投票実施は3回目となる。しかし有権者はこれまで常に政府の感染対策を支持してきたため、否決される公算は小さい。2021年6月の国民投票では60.2%の賛成で可決された。2回目の2021年11月には投票実施前に活発なキャンペーン活動やデモ運動が行われたが、62%の賛成で可決されている。

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どの対策が影響を受けるのか?

コロナ対策に伴う規制は昨年4月に全面解除されている。しかし昨年12月、連邦議会はCovid-19法を2024年6月まで延長するCovid-19法改正案を可決。そのためレファレンダムが提起された。

レファレンダムは主に「COVID証明書」の発行と追跡アプリ「SwissCovid」の規制に焦点を絞り、法的根拠の是非を有権者に問う。同改正案には、国境が閉鎖された場合の外国人や越境労働者への特別措置、重症化リスクの高い人を守るための規制も含まれる。また、コロナ治療薬の開発促進も影響を受ける。

一方、延長対象に含まれなかった多くの条項は昨年末に期限切れを迎えた。これには文化・芸術関連企業やスポーツ団体、大規模イベントに対する経済支援、種々の補助金、政府のコロナ検査費用負担などがある。

法改正に対する賛成派の意見

Covid-19法は、コロナ対策を再導入するための法的根拠となる。同法を延長すれば新たなパンデミックが起きた時に、連邦内閣は的確で素早い対応を取ることが可能だ。そうすることで重症化リスクの高い人を守り、医療機関の機能を維持することができる。

具体的には「COVID証明書」や追跡アプリのトラッキングシステムの再導入などが挙げられる。今後ワクチンパスポートを再導入する国があっても、国際基準に応じた証明書の発行が可能となり、海外渡航の自由を保障できる。

さらにコロナ重症患者の治療薬で、スイスでは未承認のものでも必要に応じた輸入、使用が可能となる。

法改正に対する反対派の意見

レファレンダム委員会は、パンデミックは完全に終息したことから、Covid-19法を延長する必要性は無いという。また、政府が主導したコロナ対策はどれも行き過ぎで、国民を守る役割を果たすどころか、むしろ苦しめたと主張している。

反対派によると「COVID証明書」は人種差別を助長しかねないことから、二度と導入するべきものではない。また、この措置が「社会の二重構造化」を招いたと非難し、海外渡航には通常のワクチン接種証明書さえあれば十分だと主張している。さらに同法は連邦内閣に大きな権力を与えすぎるため非民主的だと訴える。

賛成派・反対派は誰?

議会政党でCovid-19法改正に異議を唱えるのは、保守系右派の国民党(SVP/UDC)だけだ。議会第1党の同党は、コロナ禍を通して連邦内閣の感染予防政策に繰り返し反発。2021年11月の国民投票でもCovid-19法改正に反対していた。一方で連邦政府、議会の大多数、経済界は法改正を支持している。

Covid-19法が否決されたら?

12月に可決された法改正案は緊急性が高いとの判断から、即施行された。今回の国民投票で同法が否決された場合、延長された条項は2023年12月半ばに失効する。再びコロナが猛威を振るい出しても「COVID証明書」の発行や提示を義務付けたり、追跡アプリを再導入したりするための法的根拠を失うことになる。

※2023年6月18日の国民投票で是非が問われるその他の案件についてはこちらの記事をご覧ください。

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仏語からの翻訳:中島由貴子

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