サッカーワールドカップ・ロシア大会で優勝し、トロフィーを高々と掲げるフランス代表の選手たち
Keystone
「ヨーロッパの大勝利」「イライラするほど完璧な王者」、あるいは監督名にちなんで「デシャンピオン」―。今年のサッカーワールドカップ・ロシア大会の優勝杯はフランスが手にした。スイス各紙はディディエ・デシャン監督率いるフランス代表の勝利を誉めそやす一方で、大会の方向性に疑問を投げかけた。
このコンテンツが公開されたのは、
在外スイス人や「風変わりなスイス」の記事、日刊/週刊ブリーフィングを執筆。英語部門の記事の翻訳、編集、校正、動画のナレーションも担当。
ロンドンで生まれ、ドイツ語と言語学の学位を取得。2005年にベルンに移住する前はインディペンデント紙のジャーナリストだった。スイスの3つの公用語すべてを話すことができ、スイス国内を旅しながら、パブやレストランでスイス語を練習するのが好き。
Thomas Stephens & Laura Németh
-
English
en
‘The World Cup as we know it is dead’
原文
もっと読む ‘The World Cup as we know it is dead’
16日付のドイツ語圏の日刊紙NZZ外部リンクは「今大会が今までで一番だったともてはやされるのは、一大スポーツイベントの最後のいわば決まりごと。ロシア大会も例外ではない」と指摘。その一方で、数々のスキャンダルにもかかわらず必要なインフラ整備が大会に間に合ったことなどに触れ「ロシアは非常に満足しているのかもしれない。大会前に指摘された懸念がほとんど現実のものにならなかったから」と評した。
おすすめの記事
おすすめの記事
人口動態
サッカーワールドカップ、スイス8強ならず「酷い試合」国内紙が批判
このコンテンツが公開されたのは、
サッカーのワールドカップ(W杯)は4日、決勝トーナメントが行われ、スイスはスウェーデンに0-1で敗れ、64年ぶりの8強入りを逃した。戦術、気迫に欠けた代表のプレーにファンも失望した様子で、スイスのメディアは「ひどい試合だった」とこきおろした。
もっと読む サッカーワールドカップ、スイス8強ならず「酷い試合」国内紙が批判
また「今大会が開催都市の住民に新たな経験をもたらし、外国人に対する見方を変えたかもしれないが、それ以外は以前のまま。大会を開催したからと言って変化が持続するかというと、それは定かではない」と手厳しい評価を下した。
ただ試合後の優勝国の祝福にあたっては「完全に政治と一線を画していた」と評した。「ロシア政府は、2014年のソチ冬季五輪前のときのような政治的行為をするという誘惑に屈しなかった」と振り返った。
最後に、プーチン大統領を「驚くほど自制していた」「最終的には、大会前に危惧されていたほど『プーチン大統領のゲーム』にはならなかった」と評価した。
「結束の瞬間」
チューリヒが本社の日刊紙ターゲス・アンツァイガーは「フランスは(クロアチアに)4-2で勝ち、ワールドカップは終わりを迎えた。今大会では、大会を観戦したいという人がそもそもいるのか、というのが当初の大きな疑問だった。ロシア、プーチン大統領、人権を巡る議論、報道の自由、暴力、同性愛への嫌悪、クリミア、シリア、人種差別、腐敗。そんなものと夏を過ごしたいという人はいるのだろうか、と」と辛らつだ。
だが「結局、この4週間半の大会期間中にこうした議論は起きなかった。プーチン大統領は一歩下がって、ロシア国民が笑顔で自身を世界に紹介し、そのホスピタリティを見せる機会を作った」。
ただ、それにもかかわらずロシアは変わらなかったと指摘。「単にワールドカップを開催したことで変化を遂げた国はないからだ」と冷めた見方だった。
ドイツ語圏の大衆紙ブリックは、20年前の優勝国でもあるフランスにとって、今回の結果が自国にどんな意味をもたらすのかという視点で論じた。
同紙は「フランスはこの結束の瞬間を楽しむべきだ。ワールドカップを制すれば国民が一つになれる。(優勝には)そういう力がある。1998年のときもそうだった。しかし、それは一過性のもの。希望は早々に忘れるべきだ。サッカーでは、国内のインテグレーションに絡む社会問題を解決できない。他の国もそれは同じ」と論じた。
フランス代表選手の戦いぶりをたたえるマクロン仏大統領(右)。左端はロシアのプーチン大統領
Keystone
消化可能?
「これは最期のワールドカップだ」。ジュネーブ州の日刊紙トリビューン・ド・ジュネーブの社説にはこんな悲観的な見出しが躍った。
「次の冒険まであと4年待たなければならない。ただ(次の大会は)全く違うものとなるだろう。我々の知るワールドカップは死に、地に埋葬される」
1982~98年大会の出場枠は24チームで、1998年以後は32チームに増えた。同紙は「決勝という夏の集まりに招待されるのは、決まってサッカー界のエリートたち。しかし、それはもう(過去の)歴史となる。ページはめくられ、今後の章がどんな内容になるのか、私たちには分からない」と述べた。
2022年大会はカタールで開かれる。6、7月は酷暑が予想されるため、開催時期を11、12月にずらすことになった。これについて同紙は「一つ目の革命だ」と評価した。
二つ目の「革命」は、その4年後の2026年大会が米国、カナダ、メキシコの3カ国共催となり、出場チームが48カ国に増えることだという。
「ビジネスの論理が前面に出た。つまり出来るだけ多くの国を参加させるという点だ。『速いサッカー』なら、倍の量でも人は喜んで飲み込む。それが消化可能であるかは、じきに分かるだろう。だが疑問もある。正直言って、32チームによるワールドカップは質的に物足りない部分が多かった」(同紙)
ローザンヌを拠点とするフランス語圏の日刊紙ル・タン外部リンクは「スイスから見ると、フランスは普段表に出さないクオリティ(質)を示した。それは謙虚さ、連帯、妥協と忍耐力だ」とし、それがフランス代表を優勝に導いたと分析した。
同紙はその謙虚さや連帯などが「再びなくなることのないよう望みたい。傲慢さと自慢への誘惑は、穏やかな勝利への妨げとなる。デシャン監督率いる郊外生まれの白人、黒人によるフランス代表は、(過去への)回帰を避け、自身の成功に驕ることなどをしなければ、より尊敬の的となるだろう」と論じた。
フランスの優勝については「これらの多様な才能が正しく調和したとき、私たちは大いなる隣人に信頼と祝福を送ろう。デシャン監督のチームに『ブラボー』と賛辞を送り、このフランスの可能性を歓迎する」と述べた。
(英語からの翻訳・宇田薫)
おすすめの記事
スイス、ロシア・ウクライナ首脳会談の「準備は万全」
このコンテンツが公開されたのは、
スイス連邦政府のイグナツィオ・カシス外相は19日、ウクライナ情勢を巡る和平交渉について、スイスはロシアとウクライナの首脳会談を開催する「準備は万全」と述べた。
もっと読む スイス、ロシア・ウクライナ首脳会談の「準備は万全」
おすすめの記事
職場
スウォッチ、「つり目」広告を撤回 人種差別と炎上
このコンテンツが公開されたのは、
スイスの時計大手スウォッチはつり目ポーズのモデルを使った広告を謝罪し、撤回した。中国を中心に人種差別的だとの批判が出ていた。
もっと読む スウォッチ、「つり目」広告を撤回 人種差別と炎上
おすすめの記事
世界貿易
トランプ氏、スイス大統領に金銭支払いを要求 関税発表前日の電話会談の詳細が明らかに
このコンテンツが公開されたのは、
スイスに対し39%の関税を発表する前日の7月31日、ドナルド・トランプ大統領がカリン・ケラー・ズッター大統領との電話会談で、米国への「投資」ではなく直接的な金銭支払いを要求していたことが分かった。大衆紙ブリック日曜版が報じた。
もっと読む トランプ氏、スイス大統領に金銭支払いを要求 関税発表前日の電話会談の詳細が明らかに
おすすめの記事
文化
ロカルノ映画祭、三宅唱監督「旅と日々」に金豹賞
このコンテンツが公開されたのは、
スイス南部で開催されたロカルノ国際映画祭で、三宅唱監督の「旅と日々」が最高賞にあたる金豹賞を受賞した。
もっと読む ロカルノ映画祭、三宅唱監督「旅と日々」に金豹賞
おすすめの記事
宇宙研究
国際宇宙ステーションでロボットが「宝探し」に成功 スイスも貢献
このコンテンツが公開されたのは、
日本製とドイツ製のロボットが、国際宇宙ステーション(ISS)で「宝探し」をして遊んだ。スイス・ルツェルン応用科学芸術大学(HSLU)もこの実験に貢献した。
もっと読む 国際宇宙ステーションでロボットが「宝探し」に成功 スイスも貢献
おすすめの記事
スイス中銀、新紙幣デザイン12案発表 一般投票募る
このコンテンツが公開されたのは、
スイス国立銀行(中銀、SNB)が、新フラン札のデザイン案12点を発表した。来月7日まで、インターネット上で一般投票が行われる。
もっと読む スイス中銀、新紙幣デザイン12案発表 一般投票募る
おすすめの記事
気候適応
ジュネーブ州、バス・路面電車を13日のみ無料に オゾン濃度が急増
このコンテンツが公開されたのは、
ジュネーブ州では13日、バスやトラム(路面電車)など公共交通機関が終日無料となった。オゾン濃度が急増したことへの対応で、スイスでは初めての措置だ。
もっと読む ジュネーブ州、バス・路面電車を13日のみ無料に オゾン濃度が急増
おすすめの記事
スイスで記録的暑さ 政府が警告
このコンテンツが公開されたのは、
スイスで全国的に気温が上昇し、猛暑への警戒が強まっている。11日にはスイス西部と南部ティチーノ州の一部地域に対し、熱中症など健康被害を受けるリスクが大きい「危険度3」の警報が発令された。
もっと読む スイスで記録的暑さ 政府が警告
おすすめの記事
文化
知日スイス人作家のアドルフ・ムシュクさん、欧州政治文化賞を受賞
このコンテンツが公開されたのは、
ハンス・リンギエ財団は9日チューリヒ在住の作家アドルフ・ムシュグさん(91)に欧州政治文化賞と賞金5万ユーロ(約860万円)を授与した。同賞がスイス人に授与されるのは初めて。
もっと読む 知日スイス人作家のアドルフ・ムシュクさん、欧州政治文化賞を受賞
おすすめの記事
貿易政策
スイス政府、相互関税で米国との協議継続を表明
このコンテンツが公開されたのは、
米国がスイスに課す39%の「相互関税」をめぐり、スイス政府は4日、米国との協議を続け「より魅力的な提案をする」と表明した。
もっと読む スイス政府、相互関税で米国との協議継続を表明
続きを読む
おすすめの記事
サッカーワールドカップ、スイス8強ならず「酷い試合」国内紙が批判
このコンテンツが公開されたのは、
サッカーのワールドカップ(W杯)は4日、決勝トーナメントが行われ、スイスはスウェーデンに0-1で敗れ、64年ぶりの8強入りを逃した。戦術、気迫に欠けた代表のプレーにファンも失望した様子で、スイスのメディアは「ひどい試合だった」とこきおろした。
もっと読む サッカーワールドカップ、スイス8強ならず「酷い試合」国内紙が批判
おすすめの記事
サッカー 相手につば、中指立てる―スイス代表の「問題行動」の歴史
このコンテンツが公開されたのは、
サッカー・ワールドカップ(W杯)ロシア大会の試合中に「ワシのジェスチャー」のゴールパフォーマンスをしたスイス代表のグラニット・シャカ、ジェルダン・シャキリら3選手が国際サッカー連盟(FIFA)から罰金処分を受けた。驚くかもしれないが、スイス代表が処分を受けるのはこれが初めてではない。
もっと読む サッカー 相手につば、中指立てる―スイス代表の「問題行動」の歴史
おすすめの記事
「双頭のワシ」で罰金のスイス代表シャキリらに募金集まる
このコンテンツが公開されたのは、
サッカー・ワールドカップ(W杯)の試合中、アルバニア国旗に描かれた「双頭のワシ」を表すジェスチャーをし、国際サッカー連盟(FIFA)から罰金処分を受けたスイス代表のジェルダン・シャキリら3選手に対し、罰金を肩代わりするクラウドファンディングが立ち上がった。現時点で罰金全額を超える金額に達している。
もっと読む 「双頭のワシ」で罰金のスイス代表シャキリらに募金集まる
おすすめの記事
シャキリ、シャカの「ワシのポーズ」スイスのコソボ系移民社会とは?
このコンテンツが公開されたのは、
サッカー・ワールドカップ(W杯)のスイス対セルビア戦で、スイス代表のグラニット・シャカとジェルダン・シャキリがゴール後に見せた「双頭のワシ」のジェスチャー。アルバニアの国旗を示すこのジェスチャーがセルビアに対する政治的パフォーマンスだとして、大きな批判を呼んだ。二人のルーツであるアルバニア系移民は、スイスで4番目に大きいコミュニティを形成している。
もっと読む シャキリ、シャカの「ワシのポーズ」スイスのコソボ系移民社会とは?
おすすめの記事
「双頭のワシのポーズ」シャキリ、シャカらに罰金 FIFA
このコンテンツが公開されたのは、
22日のサッカー・ワールドカップ(W杯)のスイス対セルビア戦で、スイス代表のグラニット・シャカとジェルダン・シャキリがゴールを決めた後にアルバニアの国旗に描かれた「ワシのポーズ」をした問題で、国際サッカー連盟(FIFA)規律委員会は25日、二人とシュテファン・リヒトシュタイナー主将を罰金処分にすると発表した。
もっと読む 「双頭のワシのポーズ」シャキリ、シャカらに罰金 FIFA
おすすめの記事
シャカとシャキリのワシのジェスチャー スイス各紙が酷評
このコンテンツが公開されたのは、
ロシアで開催中のサッカー・ワールドカップで、スイス代表は22日のセルビア戦で2対1の逆転勝利を決めた。華麗なる逆転劇に沸く一方で、ゴールを決めた2選手が政治的なパフォーマンスをしたとされる問題も浮上し、スイス主要紙は称賛と批判の狭間に揺らいだ。
もっと読む シャカとシャキリのワシのジェスチャー スイス各紙が酷評
おすすめの記事
「愛国心に燃えるファンは制御が難しい」スイスのロシア専門家が語るサッカーW杯
このコンテンツが公開されたのは、
サッカーのワールドカップ(W杯)が開かれているロシア。ところでロシアはどんな国なのだろうか?国民性は?サッカーファンは?スイスのザンクト・ガレン大でロシア社会・文化を専門とするウルリッヒ・シュミット教授が解説する。
もっと読む 「愛国心に燃えるファンは制御が難しい」スイスのロシア専門家が語るサッカーW杯
おすすめの記事
ワールドカップが見たい!スイスの中高年男性ら、トラクターでロシアへ2千キロの旅
このコンテンツが公開されたのは、
サッカーのワールドカップ(W杯)スイス代表を応援したいー。対セルビア戦を翌日に控えた21日、会場のスタジアム駐車場に1台のトラクターが到着した。運転していたのはスイス人のベアト・シュトゥーダーさんら。スイスからロシアまではるか2千キロを旅してきたという。
もっと読む ワールドカップが見たい!スイスの中高年男性ら、トラクターでロシアへ2千キロの旅
おすすめの記事
改革約束したFIFAのインファンティーノ会長、2期目に意欲
このコンテンツが公開されたのは、
来年任期満了を迎える国際サッカー連盟(FIFA)のジャンニ・インファンティーノ会長が13日、モスクワで開かれたFIFAの会合で「来年パリで行われる会長選に立候補する」と表明、再選に意欲を示した。
もっと読む 改革約束したFIFAのインファンティーノ会長、2期目に意欲
おすすめの記事
サッカーのワールドカップ スイス代表の優勝の見込みは?
このコンテンツが公開されたのは、
サッカーのワールドカップ(W杯)が開幕を迎えた。アナリストたちはスイス代表が優勝する可能性は極めて低いと口を揃えるが、1954年以来となる準々決勝進出の夢は叶うだろうか?ブックメーカー、銀行、研究所がはじき出した確率をスイスインフォが評価する(ただし、賭けに負けても責任は負いません)。
もっと読む サッカーのワールドカップ スイス代表の優勝の見込みは?
swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。
他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。