スイス中央銀行の実験で、分散型台帳技術(DLT)と従来の金融インフラが結びつく可能性が証明された
© Keystone / Gaetan Bally
スイス国立銀行(中央銀行、SNB)は3日、証券取引所での決済など利用を限定したデジタル法定通貨の試験事業に成功したと発表外部リンクした。ただ実用化のめどは立っていない。
このコンテンツが公開されたのは、
足元では、世界各国で機関投資家が仮想通貨に注目し、ビットコイン相場が記録的な高水準に達している。
「プロジェクト・ヘルベチア外部リンク」と称するこの試験事業は、スイス証券取引所を運営するSIXグループと国際決済決済銀行(BIS)と共同で実施。SNBは証券取引の決済に使える「中央銀行デジタル通貨(CBDC)外部リンク」を試験的に発行した。
概念実証により、CBDCを発行して証券取引で即時決済し、スイスフランに換えられることが立証された。また分散型台帳技術(DLT)を従来の金融インフラと結びつけることも可能だと証明された。
複数の各国中央銀行がデジタル通貨の実験を進めている。デジタル通貨は物理的な通貨に取って代わり、国境を越えた決済を高速化する可能性を秘める。
SIXグループはDLTを使ったデジタル証券取引所(SDX)の新設を計画しており、SNBのCBDC発行に期待をかける。ただSNBは、実用化する前に解決しなければならない課題があるとしている。
SNBのメクラー理事は3日の声明で、「金融市場が次にどんな技術を採用しようと、スイスの金融インフラの安全性と信頼性は維持しなければならない。DLTが証券取引や決済を大きく改善するならば、SNBは準備を進める」と強調した。
メクラー氏は同日の記者会見で、DLTがセキュリティーや信頼性を損なわずに効率を大きく改善させることが、まだ証明されていないと述べた。越境決済やそれが中銀の政策運営に与える影響を調べるため、第2段階の試験が進められているという。
SDXの発足時にはCBDCはまだ実用化されず、SIX自身が発行するデジタル通貨「SDXコイン」で事業を始めることになりそうだ。SDXコインはフランとの交換比率が1対1で、SIXは安全にフランに交換できると自信を持つ。
SDXはDLTを活用し、株式や債券、その他の有価証券を新しいデジタル形態で取引できるようにする。DLTにより有価証券の即時取引・決済が可能になり、今は3日かかっている清算・決済プロセスの高速化につながる。フランのデジタル化はその中で重要な役割を担うが、必ずしも中銀が発行する必要はない。
DLTを使って証券を「トークン化」すると、株式の一部分やクラシックカーなど、あらゆる資産が取引所で取引できるようになる可能性がある。
SIXのヨス・デェセルホフ最高経営責任者(CEO)は今週、SDXは金融当局の許可を得られれば来年前半にも運営を始められると述べた。プロジェクトは開設時期の繰り返しの延期や責任者の辞任など混乱もあるが、順調に進んでいるという。
2018年7月にSDXプロジェクトが開始されたとき、SIXは1年以内に「最初のサービスが展開される」と述べました。しかし、1年後、新しい取引所の最初のCEOと他の上級スタッフが急増しました。そして今、今年の終わりまでに改訂された発売日が再び戻されたようです。
スイスの仮想通貨銀行シグナムは先月、DLTを使った私設取引所を開設した。SDXのような高頻度取引(HFT)はできないが、新しい形態の資産の取引を狙う。
おすすめの記事
スイス、ロシア・ウクライナ首脳会談の「準備は万全」
このコンテンツが公開されたのは、
スイス連邦政府のイグナツィオ・カシス外相は19日、ウクライナ情勢を巡る和平交渉について、スイスはロシアとウクライナの首脳会談を開催する「準備は万全」と述べた。
もっと読む スイス、ロシア・ウクライナ首脳会談の「準備は万全」
おすすめの記事
職場
スウォッチ、「つり目」広告を撤回 人種差別と炎上
このコンテンツが公開されたのは、
スイスの時計大手スウォッチはつり目ポーズのモデルを使った広告を謝罪し、撤回した。中国を中心に人種差別的だとの批判が出ていた。
もっと読む スウォッチ、「つり目」広告を撤回 人種差別と炎上
おすすめの記事
世界貿易
トランプ氏、スイス大統領に金銭支払いを要求 関税発表前日の電話会談の詳細が明らかに
このコンテンツが公開されたのは、
スイスに対し39%の関税を発表する前日の7月31日、ドナルド・トランプ大統領がカリン・ケラー・ズッター大統領との電話会談で、米国への「投資」ではなく直接的な金銭支払いを要求していたことが分かった。大衆紙ブリック日曜版が報じた。
もっと読む トランプ氏、スイス大統領に金銭支払いを要求 関税発表前日の電話会談の詳細が明らかに
おすすめの記事
文化
ロカルノ映画祭、三宅唱監督「旅と日々」に金豹賞
このコンテンツが公開されたのは、
スイス南部で開催されたロカルノ国際映画祭で、三宅唱監督の「旅と日々」が最高賞にあたる金豹賞を受賞した。
もっと読む ロカルノ映画祭、三宅唱監督「旅と日々」に金豹賞
おすすめの記事
宇宙研究
国際宇宙ステーションでロボットが「宝探し」に成功 スイスも貢献
このコンテンツが公開されたのは、
日本製とドイツ製のロボットが、国際宇宙ステーション(ISS)で「宝探し」をして遊んだ。スイス・ルツェルン応用科学芸術大学(HSLU)もこの実験に貢献した。
もっと読む 国際宇宙ステーションでロボットが「宝探し」に成功 スイスも貢献
おすすめの記事
スイス中銀、新紙幣デザイン12案発表 一般投票募る
このコンテンツが公開されたのは、
スイス国立銀行(中銀、SNB)が、新フラン札のデザイン案12点を発表した。来月7日まで、インターネット上で一般投票が行われる。
もっと読む スイス中銀、新紙幣デザイン12案発表 一般投票募る
おすすめの記事
気候適応
ジュネーブ州、バス・路面電車を13日のみ無料に オゾン濃度が急増
このコンテンツが公開されたのは、
ジュネーブ州では13日、バスやトラム(路面電車)など公共交通機関が終日無料となった。オゾン濃度が急増したことへの対応で、スイスでは初めての措置だ。
もっと読む ジュネーブ州、バス・路面電車を13日のみ無料に オゾン濃度が急増
おすすめの記事
スイスで記録的暑さ 政府が警告
このコンテンツが公開されたのは、
スイスで全国的に気温が上昇し、猛暑への警戒が強まっている。11日にはスイス西部と南部ティチーノ州の一部地域に対し、熱中症など健康被害を受けるリスクが大きい「危険度3」の警報が発令された。
もっと読む スイスで記録的暑さ 政府が警告
おすすめの記事
文化
知日スイス人作家のアドルフ・ムシュクさん、欧州政治文化賞を受賞
このコンテンツが公開されたのは、
ハンス・リンギエ財団は9日チューリヒ在住の作家アドルフ・ムシュグさん(91)に欧州政治文化賞と賞金5万ユーロ(約860万円)を授与した。同賞がスイス人に授与されるのは初めて。
もっと読む 知日スイス人作家のアドルフ・ムシュクさん、欧州政治文化賞を受賞
おすすめの記事
貿易政策
スイス政府、相互関税で米国との協議継続を表明
このコンテンツが公開されたのは、
米国がスイスに課す39%の「相互関税」をめぐり、スイス政府は4日、米国との協議を続け「より魅力的な提案をする」と表明した。
もっと読む スイス政府、相互関税で米国との協議継続を表明
続きを読む
おすすめの記事
スイス証券取引所が暗号資産時代に焦点を合わせるわけ
このコンテンツが公開されたのは、
スイス証券取引所が仮想通貨など暗号資産取引へのシフトアップを図っている。時代を先取るこの波に乗ろうとしている取引プラットフォームは数多い。その背景を探ってみた。
もっと読む スイス証券取引所が暗号資産時代に焦点を合わせるわけ
おすすめの記事
消えたスイスの「仮想フラン」構想
このコンテンツが公開されたのは、
国に仮想通貨の発行を求める声は高まっているが、スイス国立銀行(中央銀行)が耳を傾ける様子はみられない。
もっと読む 消えたスイスの「仮想フラン」構想
おすすめの記事
スイス、フィンテックに配慮し銀行法改正
このコンテンツが公開されたのは、
世界のフィンテックの中心地を目指すスイス。政府はフィンテックへの規制緩和でスタートアップの起業を促進する。この穏健な規制により、フィンテック企業はクラウドファンディングで資金調達しやすくなった。銀行免許を取得せずにニッチな金融サービスを始めるための道も開けた。
もっと読む スイス、フィンテックに配慮し銀行法改正
おすすめの記事
スイス金融当局、「仮想通貨リブラは決済システムの認可が必要」 声明発表
このコンテンツが公開されたのは、
スイス連邦金融市場監督局(FINMA)は11日、米フェイスブック社が独自に発行を計画する仮想通貨「リブラ」について、決済システムに該当し関連法を順守するよう求める声明を発表した。リブラの発行を司るフェイスブックの子会社「リブラ協会」がジュネーブに本拠を置くことから、スイス金融当局の対応が米国を始め世界から注目されていた。
もっと読む スイス金融当局、「仮想通貨リブラは決済システムの認可が必要」 声明発表
おすすめの記事
世界初の仮想通貨銀行 透けて見えるスイスの意地
このコンテンツが公開されたのは、
スイス金融当局から銀行業の許可を得て、世界初の仮想通貨銀行への一歩を踏み出したSygnum。仮想通貨と従来型金融の世界をつなぐ架け橋になる、と創業者たちは業界の盛り上がりに期待を寄せる。暗号資産分野で世界の主導権を握りたいスイスにとっても大きな節目となりそうだ。
もっと読む 世界初の仮想通貨銀行 透けて見えるスイスの意地
おすすめの記事
金銀連動のステーブルコイン、スイスで登場
このコンテンツが公開されたのは、
景気が急激に後退する中、金と銀の価格が上昇している。そうした中、スイスの企業「AgAu」は貴金属を裏付け資産とするステーブルコインをブロックチェーン上に発行すると発表した。
もっと読む 金銀連動のステーブルコイン、スイスで登場
おすすめの記事
スイスの仮想通貨企業、投資顧問業の許可を取得 スイス初
このコンテンツが公開されたのは、
スイスの金融業を監督する連邦金融市場監査局(FINMA)は9日、スイスの仮想通貨企業クリプト・ファンド (本社・チューリヒ)に投資顧問業の許可を与えた。仮想資産の投資顧問業が公認されるのはスイスで初めて。
もっと読む スイスの仮想通貨企業、投資顧問業の許可を取得 スイス初
おすすめの記事
スイスがフィンテックで生き残るには
このコンテンツが公開されたのは、
スイスが国を挙げてフィンテックで世界の主導権を握ろうとするなか、伝統的なスイスの銀行・保険会社は動きが鈍い。フィンテック業界のリーダーたちは、そんな金融業界に不満を募らせている。
もっと読む スイスがフィンテックで生き残るには
おすすめの記事
ブロックチェーンは次なる金融危機を防げるか?
このコンテンツが公開されたのは、
ブロックチェーン技術は金融危機を封じ込めるのに効果的な技術だ。それは今あるシステムに組み込まれた規制や予防手段よりも優れている。
もっと読む ブロックチェーンは次なる金融危機を防げるか?
おすすめの記事
ブロックチェーンの活用、国際機関やNGOにも拡大
このコンテンツが公開されたのは、
「インターネット以来の大革命」と呼ばれるブロックチェーン技術に注目するのは金融業界だけではない。国際機関や非政府組織(NGO)もその活動目的を達成するため、ブロックチェーンの活用に乗り出している。
もっと読む ブロックチェーンの活用、国際機関やNGOにも拡大
おすすめの記事
スイスの仮想通貨企業、アジア中心に事業拡大へ
このコンテンツが公開されたのは、
スイスの仮想通貨企業クリプト・ファンドが9日、連邦金融市場監査局(FINMA)から投資顧問業の認可を得たことを機に、親会社のクリプト・ファイナンスはアジアを中心に事業を拡大する計画を打ち立てている。
もっと読む スイスの仮想通貨企業、アジア中心に事業拡大へ
おすすめの記事
不動産×ブロックチェーン スイスのプロップテックは規制当局を説得できるか
このコンテンツが公開されたのは、
超低金利で不動産バブルに沸くスイス。その恩恵により多くの人が預かれるよう、スイスのブロックチェーン企業が不動産と技術を融合させる「プロップテック」の先進的なビジネスを打ち出す。だが規制当局はブロックチェーン技術を奨励する一方で、未知の技術に厳しく監視の目を光らせる。
もっと読む 不動産×ブロックチェーン スイスのプロップテックは規制当局を説得できるか
swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。
他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。