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翼と体の動きで飛行 スイスのジェットマン、「富士山は、神々しく威厳に満ちていた」

巨大な存在を前にしたちっぽけな人間という意味で「蚊になって飛んでいると感じた」と、ロッシーさん

巨大な存在を前にしたちっぽけな人間という意味で「蚊になって飛んでいると感じた」と、ロッシーさん

(Keystone)

人類史始まって以来、どれ程多くの人が鳥のように空を飛びたいと願ってきたことか。それを「飛行機と鳥の中間ぐらい」で実現した人がいる。スイス人のイブ・ロッシーさん(54)だ。「鳥のように飛びたいという願望を持った僕という人間が、技術的に可能な時代に存在しただけ。僕は幸運だ」と謙虚に話す。そして11月初め、彼は遂に憧れの富士山を飛んだ。

 だが、ロッシーさんという人は、単なる幸運児ではない。まず、プロのパイロットとしての経験や技術的知識などに加え、アトリエで自ら効率の良いエンジンや翼を開発し続けるという探究心を持つ。さらに、空中での方向転換を体の動きだけで行うために筋肉を鍛え体力もつける。

 様々な障害に出会って絶望し、ほぼ死にかけ、それでもまた立ち上がる。それは、「鳥のように飛びたい」という願望が心の中からひたすら突き上げてくるからだと言う。

 「不可能だと思われることを実現した」という意味で、若い人たちにインスピレーションを与えているとこのごろ感じる。だから、そのプロセスや飛行の素晴らしいイメージをビデオや写真で伝え共有する責任を感じるとも話す。

 こうした「夢を実現する偉大な発明家・冒険家」であるにもかかわらず、ロッシーさんは決して「征服者的なヒーロー」としては振る舞わない。あらゆる飛行の場所に対し敬意を払う。「少し遊ばせてもらう僕を受け入れてほしいと、いつも思う」

 富士山で11月初めに9回飛行。その後スイスに帰国したロッシーさんに日本での体験などを詳しく聞いた。これは日本・スイス国交150周年を記念した在日スイス大使館の行事の一環ともなった。

swissinfo.ch : まず、富士山の飛行での、感想を聞かせてください。

イブ・ロッシー : 富士山は本当に美しかった。夢のような体験だった。とにかく巨大で完璧な形の火山。その大きさと存在感は神々しく威厳に満ちていた。その傍を飛ぶだけで、深い感動を覚えた。また巨大な存在を前にしたちっぽけな人間という意味で、「蚊になって飛んでいる」と感じた。

天候は結構変化した。雲がかかったと思えば突然晴れ、山頂が輝き素晴らしい姿を見せてくれた。写真ではない、現実の姿が目の前にあった。美しい感動の時だった。

swissinfo.ch : 富士山の山頂まで歩いて登ったそうですね。

ロッシー : ある日、飛行をしないときに登った。素晴らしい経験になった。これは、よそ者として富士山に対し、日本人に対し敬意を表するためだった。地球のほぼ反対側の小さな国スイスから来たよそ者が、風変わりな翼とエンジンをつけて、この国とこの神聖な山に入り込むのだから、場所と人々に挨拶するのは当然のことだと思った。

 風が強く天候はかなり厳しかった。そのせいか登山客はほとんどいず、山頂に到達したときはたった一人だった。

それは、特別な時間だった。ポジティブな何かの存在に包まれ、山と自分が対話する感じがした。雲が切れて美しかった。日本を支配している山だとつくづく思った。

こうして登山もでき、山の傍を飛ぶチャンスが得られたことに、感謝の気持ちを込め富士山に挨拶した。

それと、眠っている山が持つ独特の強いエネルギーを感じた。この火山がいつか目を覚ますとは信じられない。それはスイスのアルプスが持つエネルギーに似ている。ここでも、自分が本当にちっぽけな存在だと感じた。

swissinfo.ch : 2011年のグランドキャニオンの飛行で、飛ぶ前にセレモニーをされたそうですが、今回の登山もある種のセレモニーだったのですか?

ロッシー : まず、前もって飛行の場所を知っておくことはとても大切だ。ドーバー海峡を飛んだときも、海の水をすくってその温度、水の質などを感じようとした。

それと、場所に「こんにちは。初めまして、どうかよろしく」といった挨拶も毎回行っている。水、風、火、こうしたエレメントには力があって我々を超えた存在。我々は、単なる「通過する存在」。だから「すみませんが、少しの間ここで遊ばせていただいてもいいでしょうか」と、相手に許可を得る。

繰り返しになるが、富士山でも同じだ。僕は、たとえそれらが岩や石であっても相手を感じ取りながら、感情を込めて対話する。「どうやってこの場所は生きているのだろうか」と問いかける。風、雪、などの強い存在に対しても、少しでも心を開き対話しようとすると相手の大きさが分かってくる。「遊ばせてくれる環境」を歩いて感じることはとても大切だ。

swissinfo.ch : プロのパイロットとしては、すでに色々な山の景色なども見て、知っているはず。なぜもう一度自分で飛んでみたいのでしょう?

ロッシー : 飛ぶ感覚というのは、素晴らしいものなのだ。なぜなら、歩く人間として、人は2次元的に生きている。前、後ろ、左、右と、およそ地上を歩く存在としてはこうだ。ところが、鳥は垂直性が加わった3次元的空間に生きている。

この3次元性を一度経験したら、虜になる。100年前人類は飛行機を発明した。この発明の基礎には鳥のように飛びたいという願望があった。

ところが、パイロットとは「機械を操縦する人」に過ぎない。つまり、環境と自分との間にいつも障壁がある。あるとき、パラシュートで飛行機から降りる経験をして、それが素晴らしかった。空気を直接感じたからだ。これに加え、自分の体の動きで方向を変えることができたら・・・それこそ、鳥に最も近づくのではないか、と思った。このときから、空気の中で体を動かし移動するという純粋な感覚を実現したくなった。

小さな翼にエンジンを付けたらできるのではないかと思った。時代も幸いした。材質の良い翼やエンジンを自分で開発できる時代だった。それにパイロットとしての経験があった。鳥と飛行機の間を行くエンジンと翼を自分で発明、開発した。小型だがしっかりとした翼が僕を支えて3次元空間を移動し、自分の体の動きだけで方向を変えられる。それは、本当に凄い感覚。非現実的な夢のような感覚なのだ。

こんな感覚を味わえるなんて、これほど幸いなことはない。幸運だ。ないしは、運命的な人生というか。なぜなら今までも、鳥に近づきたいと思った人がどれ程いたことか。自分が初めてできたのだから・・・。

そして「困難でも、夢を実現する」ということは、やり遂げた後に、やっただけのことはあったという爽快な気分と感謝の気持ちが残るものだ。人生を進めることができたことに対する感謝だ。

swissinfo.ch : ところで、日本の技術スタッフとはうまくいきましたか?

ロッシー : 日本人のスタッフとは、有意義な経験をした。まず、文化の違いがある。日本人は計画をしっかりと立て、前もって色々なことを予測して準備万端に整える。

でも、僕の飛行は普通とは全く違う。ビデオ撮影などもありヘリコプターで現地に行き、そこから飛び降りる。日本人のパイロットは、出来上がった空路どおりに飛ぶことに慣れている。ところが、僕の場合は、たくさんのことがその場で決まる。即興的な部分が多い。

9回飛んだが、回が進むにつれお互いが歩み寄った。相手は僕の「即興性」に次第に慣れ、僕は僕で彼らの計画性に近づいて行った。こうしてうまくいった。素晴らしい出会い、協力関係だった。

スイス人の僕にとっては、日本は形式を重んじる文化。振る舞いもコード化され、礼儀正しさにもコードがあり、即興性はあまり尊重されないものだと感じた。

それは良い悪いを超えた違いであり、彼らもやり難かっただろうし、僕も戸惑った。あることを言い、相手は理解したと思うが、実は彼らのやり方で理解したに過ぎない。反対に彼らが僕に何かを伝える場合、僕の理解したことは必ずしも彼らが言いたいことではなかったりした。

例えば、僕が飛んでいる最中に突然(僕を撮影しているはずの)ヘリコプターが視界から消え、あせった。後で、「どこに行ってたんだ」と聞くと、「どこにいるかは気にしなくてもいい。僕には、飛んでいるロッシーさんが見えているから心配しないで」という返事。そうなってくると、相手を信じるしかない。チームで仕事をしているのだからチームのメンバーを信じるしかない。そうするとお互いうまくいくようになった。新しい出会い。新しい発見だった。

swissinfo.ch : セキュリティーはどうでしたか?

ロッシー : 何の心配もなかった。完璧だった。それに僕も「突撃するような」タイプではない。僕は長年、プロのパイロットをやってきた。200~300人の命を預かる責任ある任務。「まず安全が第一」で生きてきた人間だ。

小さな翼で飛ぶという、一見「向こう見ずの冒険家」に見えるだろうが、今でもこうして生きているように、安全には細心の注意を払うタイプだ。

swissinfo.ch : 今後の計画は?

ロッシー : ヘリコプターから飛行するのではなく、地上から離陸する方法を考えている。その第一歩として崖の上から離陸する準備を進めている。地上から直接飛ぶ技術はすでにあるが、セキュリティーが十分ではない。つまり、飛行機が滑走路を走りすぐに高度を上げるように、ジェットマンもすぐに高くまで上らないと、もしエンジンの故障があり、パラシュートを開ける高さまで上っていなければ地上に叩きつけられ死んでしまう。

そこで、まず崖の上を走り飛び上がる。するとすぐに1メートルは上るので、たとえエンジンの故障があっても、十分にパラシュートが開ける高さが確保できる。

もう一つは、来年、今コーチをしている若い青年(30歳)と一緒に飛ぼうと思っている。第一飛行は、場所の探検と練習を兼ねて。そして美しい体験談も伝えたい。先生と教える生徒という感じで、初めて2人で飛ぶのだから。ただ、許可の面がややこしい。そのため、飛ぶ場所はスイスか、スペインか、アジアか、様子を見ていきたいと思っている。

イブ・ロッシー(Yves Rossy)さん略歴

1959年、スイスのヌーシャテル州に生まれる。

2004年、ジェットエンジン推進式の翼を背中に着装し4分間の水平飛行を行った初めての人間としてその名を歴史に残す。
2008年9月、ジェットエンジンが搭載された翼を背中に付け、ドーバー海峡の単独横断に成功。
2011年5月、グランドキャニオンを飛行。
2013年11月、富士山の朝霧高原辺り(約800m)にとどまり、その辺りを飛行し撮影もした。

ロッシーさんは、フォーミュラ1の耐火スーツ、パラシュート ( 本人用2枚、翼用1枚 ) 、4基の小型ジェットエンジンを搭載したカーボンファイバー製 の翼を背負い「ジェットマン」へ変身する。

彼が発明したこれらの装備の総重量は燃料を含めて約60kg。なお、ジェットエンジンはさらに強力なものを現在開発中。

ロッシーさんが8年間かけて考案、製造、調整した翼は操舵機能がなく、方向転換は頭、肩、腕を動かして行う。現在、空中で形を描けるよう翼の機能性も改良中。

こうした開発、実験は自宅のガレージで行われている。

今年初めまで、スイスインターナショナルエアラインズのパイロット。現在は、この航空会社を辞め「ジェットマン」になったとインタビューで語っている。

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