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多文化教育 スイスの幼稚園、日本から保育士の卵が見学に

園児に折り鶴をプレゼントする日本の学生

園児に折り鶴をプレゼントする日本の学生

(swissinfo.ch)

スイスの幼児教育は歴史が深く、日本にも影響を与えた有名な教育思想家が輩出されてきた。そんなスイスの幼児教育の現場を見学しようと、日本の未来の保育士たちが9月末、チューリヒ市の幼稚園を訪れた。

 リン、リン、リン。褐色の肌の男の子が鈴を鳴らすと、16人の子どもたちが壁に沿って並んだ椅子に着席した。教諭のデニーズ・シュナイダーさんは嬉しい気分を表した絵の紙皿を左側に、悲しい気分の絵の紙皿を右側にして床に置いた。「今日は自分の気持ちについて話す日です」

 シュナイダーさんは、園児の名前が書かれた洗濯バサミを一つ栗色の髪の男の子に渡した。「あなたは今日、どんな気持ち?理由を話した後、洗濯バサミを自分の気持ちに合う紙皿につけてごらんなさい」。男の子は「今日は気分がいいから、楽しい気持ち」と、左側の紙皿に洗濯バサミをつけた。次の男の子も左側、他の女の子も左側の紙皿に洗濯ばさみをつけていく中、他の園児よりも体が小さな金髪の女の子は「今日はまだ誰も一緒に遊んでくれなくて、悲しい…」と、右側の紙皿に洗濯バサミを挟んだ。シュナイダーさんは「それは残念。後で誰かと遊べるといいわね」と励ました。

 これは、チューリヒ市のカッペリ(Kappeli)学校付属幼稚園での授業風景。この公立校には小学校と幼稚園があり、幼稚園には4歳から6歳までの園児が通う。

 この日、シュナイダーさんの教室は普段とは違った様子だった。大勢の日本人学生たちが見学に来ていたからだ。アジア系の女の子は「今日は、日本のお姉さんたちがたくさんいて、嬉しい」と、左側の紙皿に洗濯ばさみを挟んだ。

スイス来訪22年目

 カッペリ学校を訪れていたのは、研修旅行でやって来た聖徳(せいとく)大学児童学部(千葉)に通う3年生約90人。卒業後は保育士や幼稚園教員になる予定の学生たちだ。今回、学生たちはグループに分かれて、四つのクラスを半日見学した。聖徳大学が研修旅行でスイスを訪れるのは、今年で22年目。すでに長い伝統になっている。

 引率者で、同大学児童学部児童学科の土橋永一教授は研修旅行の目的を次のように語る。「スイスは、ルソーやペスタロッチといった教育思想家および実践家を輩出した国です。彼らの思想は日本の教育にも影響を与えてきました。この思想に触れ、日本の教育を見直すのが、研修旅行の目的です」

ルソーとペスタロッチ

ジュネーブで生まれたジャン・ジャック・ルソー(1712~1778)は、哲学者として有名な一方、著書『エミール』などで独自の教育論を展開させたことでも知られる。当時は子どもは小さな大人と見なされていたが、ルソーは子どもには固有の世界があると考えた。

「すべてのものは、造物主の手から出たときは善であるが、人間の手の中では悪になる」と主張し、大人が無理やり子どもを教育するのではなく、子どもの感覚器官を生かし、自然の中で学ばせることの大切さを説いた。

ルソーの思想の流れを汲んだのが、ヨハン・ハインリヒ・ペスタロッチ(1746~1827)。チューリヒに生まれたペスタロッチは、貧しい子どもたちに自活の能力を身につけさせることで、貧困をなくそうとした。

ルソーもペスタロッチも、日本では保育士試験の学科試験に出題されている。

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どの子も平等に

 ルソーやペスタロッチの時代から長い時を経た今、日本の学生たちが通訳と共に見学したシュナイダーさんのクラスは、多文化教育の現場になっていた。なぜなら、父親も母親もスイス人という子どもはたった1人しかいないからだ。学校全体(約500人)では約25カ国の子どもたちがここに通う。

 シュナイダーさんが使用している言葉は、標準ドイツ語だ。チューリヒ市の規定では、幼稚園ではドイツ語の方言であるスイスドイツ語を話さなければならないとなっているが、「家庭でスイスドイツ語を学ぶ機会のない外国人の子どもたちに、それは難しい」と言う。

 そのため、クラスでは標準ドイツ語を話し、歌を歌うときにスイスドイツ語の歌詞の曲を取り入れるようにしている。また、担当教諭以外にも、ドイツ語教師1人がクラスに配置されている。

 学生の1人、島元梓さん(20)はスイスと日本では幼稚園の雰囲気が違うことに気付いた。「日本だと、子どもたちは制服を着て、送迎バスで幼稚園に通いますが、スイスはもっと自由な感じ。全体の空間も広い気がします」

 実際、この幼稚園はゆったりとした構造で出来ている。クラスは全部で五つあり、1クラスの人数は16人。教室から一歩外に出れば、遊具のある広々とした庭が広がる。周りには何本もの大木が植わっており、一見すると森の中の公園にも感じられる造りになっている。

 言葉も文化も違う子どもたちを指導していく上で、一番大切なの「出身国別に差別をせずに、どの子も平等に扱うこと」と、シュナイダーさんは強調する。

子どもの気持ちが分かる先生に

 クラス見学では、学生たちは日本の歌を子どもたちに披露したり、折り鶴や新聞紙で作ったかぶとをプレゼントしたりした。言葉は通じなくても、学生たちと園児たちの間に笑顔が生まれていた。

 学生の1人、長尾美雪(20)さんは、「スイスの子どもたちは積極的。日本の幼稚園ではおとなしい子どもをよく見かけるのですが」と、元気な子どもたちが印象に残ったと話す。

 研修に参加していた前田美沙さん(20)はスイスの教育現場での取り組みに共感する。「子どもの気持ちが分かる先生になりたい」と目を輝かせていた。

swissinfo.ch


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