The Swiss voice in the world since 1935
トップ・ストーリー
スイスの民主主義
ニュースレターへの登録

イラン戦争がスイスの食品産業に及ぼす影

イラン戦争によるフライト欠航で、空港の免税店に影響が出ている 
イラン戦争によるフライト欠航で、空港の免税店に影響が出ている Keystone / Gaetan Bally

イラン戦争による供給混乱で、スイスの食品・商品業界に影響が出ている。次に皺寄せが行くのは消費者だ。

おすすめの記事

イラン情勢をめぐる混乱で生活必需品の流通が阻害され、エネルギー価格が高騰している。大手食品多国籍企業や世界的な商品取引の中心地であるスイスも、その影響を強く受ける。特に混乱の影響を受けやすい4つのセクターを掘り下げた。

肥料貿易

肥料は取引量が最も多いコモディティー(商品)の1つで、2024年には1億6900万トンが国境を越えて取引された。肥料の約半分は、米、小麦、トウモロコシなどの穀物栽培に使われる。肥料貿易業界では、世界最大の窒素肥料とリン酸肥料の生産国である中国が2021年以降、国内の食糧安全保障を理由に輸出規制をかけているほか、主要なカリウム肥料輸出国であるロシアとベラルーシに対し、欧州連合(EU)が輸入関税を引き上げる制裁を課している。そして米国による、肥料を含むすべての輸入に10%の追加関税を課す措置が追い打ちをかけている。

おすすめの記事
サイロ

おすすめの記事

農業ビジネス

食料備蓄国はわずか30カ国 貧困国で活躍するスイスのノウハウ

このコンテンツが公開されたのは、 紛争、気候変動、経済危機……食の安全保障を脅かすリスクは増すばかりだが、国家的に穀物を備蓄するのは世界にわずか30カ国しかない。スイスもその一つで、民間企業も国と世界の食料安定供給に貢献している。

もっと読む 食料備蓄国はわずか30カ国 貧困国で活躍するスイスのノウハウ

中東紛争により、スイスの商品取引業者は更なる苦境に立たされている。国連食糧農業機関(FAO)によると、世界の肥料の20~30%がホルムズ海峡を通過する。紛争勃発後、肥料の原料となる尿素価格は最大60%上昇した。事態は悪化する可能性がある。湾岸地域は世界の硫黄の25%を生産し、DAP(リン酸二アンモニウム)などの肥料製造に使用される硫黄輸出量の半分を占める。

米国では小麦価格が6%、タイではコメ価格が9%上昇した。FAOは、世界的な家計の福祉(世界中の世帯が経験する生活の質)が0.5~1.6%低下すると予測する。特にアジアとアフリカが大きな影響を受けるとしている。

「世界の尿素の約35%、アンモニアの約25%は湾岸地域から供給されている。供給源を一日で切り替えることは不可能だ」と、スイス商品取引協会(SUISSENÉGOCE)のフローレンス・シュルシュ事務局長はスイスインフォに語る。

シュルシュ氏は、米国が3月、農家の肥料コスト軽減策の一環として、ベラルーシのカリウム生産・販売企業への制裁を解除したことに言及する。シュルシュ氏によれば、1トン当たりわずか数ドルの値上がりでも、世界の貧困地域の農家には死活問題となる。「スイスのような富裕国にとっては、食料と肥料価格の上昇は痛手だが、吸収できる範囲だ。しかし、アフリカやアジアの多くの貧困国では、価格高騰と供給不足ははるかに深刻な事態を招く。農家が肥料の使用量を減らせば作物の収穫量が減り、真の食料不安のリスクが高まる」

キートレードのようなスイスの肥料商社の中には、イラン戦争勃発前から中東での取引を控えていた企業もある。

キートレードの創業者メリフ・キーマン氏はスイスインフォに対し「当社は、アラビア湾岸地域経由の取引を引き揚げ、欧州、北アフリカ、米国、ブラジルなどに注力するという正しい判断を下した。戦争が始まりアラビア湾岸地域からの大規模な供給が途絶えたことで、当社は(自身が下した方針変更により)恩恵を受けた」と話す。

ガラス瓶製造

ガラス製造には膨大なエネルギーが必要だ。原料となる珪砂、石灰石、ソーダ灰は1500℃の高温炉で溶融する必要があり、ガラス産業で使用される炉の燃料エネルギーの約75%は天然ガスだ。

スイスのガラスメーカー、ヴェトロパックの広報担当者は「ガラス製造はエネルギー集約型産業だ。当社は地元産の再生ガラスと再生砂を多く使用しているが、エネルギー、ディーゼル燃料、輸送費の変動の影響から完全に免れることはできない」とし、動向を注視していると話す。エネルギー料金が引き上げられた場合は、顧客に転嫁する意向だ。

ミネラルウォーター、ビール、清涼飲料メーカーを代表するスイス飲料業界団体は、エネルギー価格の上昇が飲料価格に転嫁する可能性を示唆する。スイスは2024年に5億1000万リットルのボトル入りミネラルウォーターを生産し、そのうち370万リットルが輸出された。スイスの飲料大手ネスレは、「ペリエ」や「ヴィッテル」などのブランドで約20%の市場シェアを占める世界王者だ。

状況の改善が見込めなければ、ガラス瓶価格の高騰によりビール、清涼飲料水、蒸留酒の価格上昇を招く可能性がある。スイス飲料産業協会(ASG)の加盟企業は価格への影響に関する詳細を明らかにしていないが、価格上昇を抑えるための措置を講じている。

ASGの広報担当者、マルセル・クレーバー氏は軽減措置として、「加盟企業は、効率改善、長期供給契約、再生可能エネルギーの利用拡大や熱回収といった持続可能なエネルギーソリューションに投資している」と話す。

長期的には、地域産の原材料の活用、高度な自動化、そして将来を見据えた調達戦略に注力することで、業界のレジリエンス(回復力)を高めることができるとASGはみる。

プラスチック製食品包装

英国プラスチック連盟の推計によると、欧州では石油・ガス供給量の4~6%がプラスチック製造に必要な原材料の製造に使われている。国連環境計画(UNEP)によると、全プラスチックの約36%が食品・飲料分野の包装材に使われている。

スイスプラスチック産業協会(KUNSTSTOFF.swiss)もまた、中東情勢の動向を注視している。2024年、スイスではは約65万9000トンのプラスチックが消費され、そのうち最大を占める36%が包装材に使われた。

同協会はプレスリリースで「エチレン、ナフサ、スチレンなどの原料とその前駆物質は、欧州でのポリマー生産に不可欠だ。複数の生産施設がすでに破壊され、これらの製品の供給量がさらに減少している」としている。

これらの原料は、プラスチック袋、包装フィルム、ペットボトル、食品容器、使い捨てカトラリーなど、食品業界向け製品の製造に使われている。

ホルムズ海峡封鎖により、スイスのプラスチック業界は代替物流、輸送コストの上昇、そして納期の大幅遅延への対応を迫られている。

おすすめの記事
コーヒー

おすすめの記事

スイスの政治

コーヒー備蓄は必要?スイスで議論

このコンテンツが公開されたのは、 スイス連邦政府が以前、1万5千トンのコーヒーの緊急備蓄を取りやめる計画を発表し、国民と業界から強い反発を受けた。その後、政府は実施の先延ばしを決めたが、そもそもなぜこのような事態になったのだろうか。

もっと読む コーヒー備蓄は必要?スイスで議論

チョコレートの販売

グローバル・トラベル・リテール(空港やクルーズ船、免税店など旅行者対象の小売ビジネス)は、スイスチョコレート販売における急成長分野の1つだ。2025年、リンツ&シュプルングリの空港免税店での売上げは19.6%増加した。同社の年次報告書によると、リンツ・ドバイ・スタイル・チョコレートの成功は、100以上の空港に広がる流通ネットワークによるところが大きい。同社によると、ドバイ、アブダビ、ドーハといった主要国際空港へのフライト欠航で売上げに影響は出ているが、具体的な額は明らかにしていない。

広報担当者はスイスインフォに対しメールで「地域の主要空港が閉鎖されているためグローバル・トラベル・リテールに影響が出ている。湾岸諸国の販売代理店にも影響している」と回答した。

リンツ&シュプルングリは、アラブ首長国連邦をはじめとする湾岸諸国の販売代理店にチョコレートを出荷することができない。同社のサウジアラビアにある新子会社には、紅海経由で商品を供給している。「物流費とエネルギーコストの上昇が見込まれる。それが原材料費の上昇、ひいては食品業界全体の価格高騰につながるだろう」と、リンツ&シュプルングリの広報担当者は述べた。

スイスの高級チョコレートメーカー、レダラッハもホルムズ海峡封鎖の影響を受けている。同社は治安情勢の悪化を受け、バーレーンの店舗を閉鎖した。引き続きエネルギー価格の高騰と供給不足を注視している。

「サプライチェーンは深刻な影響を受けている。店舗を置く国の中には、安定的に商品を定期供給できないところもある。アジアへの輸送費も上昇している」と、広報担当のステファニー・メルロ氏は語る。

レダラッハのサプライヤーの中にはコスト上昇に直面しているところもあるが、スイス国内への影響は少ないという。メルロ氏は「スイス国内には、今後数カ間の生産ニーズを満たすのに十分な在庫を確保している」としている。

編集:Virginie Mangin/ts、英語からの翻訳:宇田薫、校正:ムートゥ朋子

人気の記事

世界の読者と意見交換

swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。

他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部