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五輪から経営へ、ハードル越えるチョコ菓子メーカーCEO

スイスの老舗チョコ菓子メーカー、ケギ・ゾーネAGのセドリック・エル・イドリシ最高経営責任者(CEO)。コカ・コーラやモンデリーズ、ペプシコといった国際企業で経営に携わった経験もある
スイスの老舗チョコ菓子メーカー、ケギ・ゾーネAGのセドリック・エル・イドリシ最高経営責任者(CEO)。コカ・コーラやモンデリーズ、ペプシコといった国際企業で経営に携わった経験もある Vera Leysinger / SWI swissinfo.ch
シリーズ CEO spotlight, エピソード 2:

スイスの定番チョコレートウエハース菓子「ケギ」で知られる製菓企業ケギ・ゾーネAGのセドリック・エル・イドリシ最高経営責任者(CEO)に話を聞いた。元五輪選手の同氏が、経営の試練と自社の強みを語った。

ケギ・ゾーネAGは典型的なスイス企業だ。今でこそ米国のコングロマリット(巨大複合企業)の傘下にあるものの、100年近く前の創業以降、家族経営の時代が長かった。伝統のチョコウエハース菓子はスイスのイメージと密接に結びつき、商品のロゴにはスイス国旗が取り入れられている。

現在の最高経営責任者(CEO)はセドリック・エル・イドリシ氏。何より2004年アテネオリンピックに出場したハードル選手として有名な人物で、2024年から同社を率いている。

同氏は就任から1年半、原材料価格の高騰や主要輸出市場である米国の関税など、難しい環境への対応を強いられてきた。

スイス北東部ザンクト・ガレン州のリヒテンシュタイグにあるケギ本社工場に同氏を訪ね、スイス企業であることで生じるコストや企業経営者への転身について話を聞いた。

スイスインフォ:ケギの経営を2024年8月に引き継いでから1年半、大きな試練となったのは、どのようなことでしょうか?

セドリック・エル・イドリシ:一番大きいのは、間違いなく輸出です。輸出はケギの売上高の50%近くを占めますから、私たちにとっては特に重要なのです。また、フラン高や国内での人件費の高さ、ココアや牛乳など原材料価格の高騰も頭痛の種になっています。ほかには、内向性を増している中国など、主要市場で外国製品への需要が著しく落ち込みました。そこにきて、米国の関税まわりの問題が大きな困難として加わっています。米国は最近の貿易政策の変更までケギの製品に輸入関税を課していませんでしたが、2026年2月時点で10%の一律関税を適用しています。

原材料価格の高さは外国の競合企業にも影響を与えています。ケギが特に不利ということはありますか?

包装にスイス十字を入れるのもそうですが、「スイスネス(スイスらしさ)」のブランドコンセプトを使うには、国内で手に入る原材料をすべて国産品にするという規定を守らなければなりません。例えば、牛乳やバター、穀物、砂糖がこれに当てはまります。そして、農家への保護・支援策が手厚いために、一連の原材料の国内価格は国外よりも大幅に高い。この点で、私たちのようなスイス企業は明らかな不利に立たされています。一方、ココアやパーム油のようなスイスで手に入らない原材料は国際市場で買うため、国外の競合企業と同じ価格変動に直面します。

エル・イドリッシ インタビュー
「私たちは現在、ケギの『スイスネス』やプレミアム価格帯への位置取り、自社製品の特徴である軽い食感をますます重視しています」 Vera Leysinger / SWI swissinfo.ch

クノッパーズ(ドイツの菓子ブランド)やハヌタ(ドイツの菓子ブランド、イタリア企業フェレロ傘下)など、外国勢はスイス市場において手強い競争相手でしょうか。

もちろんです。ケギは競争の厳しい国際市場で事業を行っています。例えばドイツの各社は(両国国境の)ボーデン湖のすぐ向こうからスイスに商品を直接売りながら、牛乳やバター、穀物、砂糖がずっと安いという利点に恵まれています。一方、私たちの強みは、たとえ不利な競争環境に置かれながらでも、スイスの基準を満たす質の高い製品を一貫して供給する能力にあります。

ケギでは主にどのような変革を主導してきたのでしょうか。

製品ポートフォリオを広げ、若年層など従来にない範囲まで顧客層を拡大しました。そうしたイノベーションの直近の事例が、プロテインウエハースの「ケギ×チーフス(Kägi × Chiefs)」です。この商品では、スイスのスポーツ栄養企業チーフスと提携しました。たんぱく質含有量が多く、砂糖を加えていない新しい軽食で、活動的なライフスタイルの顧客をターゲットとしています。

健康志向の製品には、強い需要が生まれにくいこともあります。ケギ×チーフスはどうでしょうか。

健康的な選択をする重要性は消費者に認識されだしていますが、毎日の行動に表れるには時間がかかるかもしれません。しかし、ケギ×チーフスに関しては、とても前向きな結果が出ています。よく受け入れられていて、リピート購入も力強い。顧客からの評価も上々です。さらに、この製品が若年層との接点になり、ブランドを更新できました。そのすべてが、従来製品への安定した需要を維持しながら実現したのです。

グラフ
Kai Reusser, Swissinfo

輸出が厳しい状況にあるとのことですが、新商品の開発以外にどのような戦略を取っていますか?

ケギは現在、自社の「スイスネス」やプレミアム価格帯への位置取り、製品の特徴である軽い食感をますます重視しています。また、コスト環境が厳しい中でも、さまざまな市場の消費者が買い求めやすい商品であり続けることを優先してきました。透明性と一貫性のあるやり方を維持しながら、慎重に売れ筋価格と販売形態のバランスを取ることも、その一例です。だからこそ、ファミリーパックの価格を心理的な節目である4フラン(約800円)未満に抑えるため、少しだけ中身を小さくしました。ただし、50グラムの「ケギ・フレット(Kägi fret)」など看板商品については、国内外で同じサイズを維持しています。

レシピなど研究開発の成果を守る方法は、どうしていますか?情報を公開した上で期限付きの保護を得る特許取得ではなく、リヴェラ(乳清から作られるスイスの国民的飲料とそのメーカー)やコカ・コーラのように営業秘密として隠し持つ手法が頼りでしょうか。

多くの老舗ブランドと同じく、オリジナルレシピの詳細はひと握りの社員しか知りません。ただし、私たちの本当の強みは個々のレシピを超えたところにあります。ケギのチョコレートウエハースや多くの派生品を作るには、数十年の製造経験や加工のノウハウ、品質管理が求められます。この組み合わせがケギの商品のアイデンティティーを生み、複製を難しくしているのです。

リヴェラやオヴォマルティン(チョコクリームやチョコ菓子のブランド)など、他の国内勢と異なり、ケギにはブランドアンバサダーがいません。なぜでしょうか。

インフルエンサーによるマーケティングが有効なことは確かに多いですが、ケギのブランドコミュニケーションではあまり重視していません。マーケティング予算が限られた中小企業であることが、大きな理由です。まずはポスターなどの伝統的な広告形態やソーシャルメディアに重点を置き、インフルエンサーとの協力はたまにあるくらいです。

エル・イドリッシ
「日々の業務では独立した中小企業のままです。おかげで自分たちのやり方を続け、巨大な食品企業グループに固く組み込まれたブランドと一線を画すことができています」 Vera Leysinger / SWI swissinfo.ch

ケギは1996年まで家族経営が続いたのち、複数の所有者交代がありました。従業員にとって、この移行はどのような経験になりましたか?

私は当時、ケギにいませんでしたが、所有者が代わっても、ケギをケギたらしめる部分は変わっていません。現在はグループ*の傘下で事業を行っていますが、日々の業務では独立した中小企業のままです。おかげで自分たちのやり方を続け、巨大な食品企業グループに固く組み込まれたブランドと一線を画すことができています。それが販売から生産、調達・配送管理まで、事業の全領域を監督している私の見解です。これほどの独立性を維持し、責任を負っていることには、大きな価値があります。私たち中小企業には、意思決定過程の短さ、機敏さや、チームの垣根を超えた密接な連携といった利点があるのです。ただし、大きく総合的なグループ企業には別の利点が自ずと生まれます。購買力が強まることや、小売り店で有利な売り場を取りやすいことなどです。

伝統的かつ家族経営、中規模の国内食品会社に助言するとしたら、総合的な食品企業グループには加わらないように言いますか?

所有者一族がそれぞれ判断しなければならないことですが、一般論として、人が真に独立して活動できるときに生まれるエネルギーと効率性を侮ってはいけません。

あなたはアスリートとしてオリンピックのレベルに到達しました。オリンピック選手になるというのは、類まれな努力を要する偉業です。それを成し遂げるほどの人々の間で、なぜCEOになる例が少ないのでしょうか。

私は競技経験を通じ、物事の考え方や自律について多くを学びました。そのことは、今の仕事にとても役立っています。ただ実際、スイスのオリンピック選手のその後を見ると、一定以上の規模の組織を経営している人はとても少ない。例外は、セヴェリン・モーサー(十種競技のオリンピック出場者で、スイス雇用主連盟SAV/UPS会長)と私くらいです。2年ごとのオリンピックに出るスイス人選手は100〜150人だけですから、それが主な理由でしょう。とはいえ、学術界など経営以外の役割も含めれば、多くのオリンピック経験者が大きな成功を収めています。

エリート選手は現役のうちに引退後の職業生活の準備を始めるべきでしょうか。

もちろん、そうすべきです。私の選手時代、陸上競技で生計を立てることは不可能でしたから、並行して勉強や仕事をすることは必須でした。ドイツやイタリアの選手には国からお金が出ることが多いので、スイスのエリート選手に対する支援のなさを不公平に感じたものです。でも、今の仕事に近い分野での修士課程、博士課程を競技と同時に進めたことで、職業生活にすんなり移行できました。現在、スイスのエリート選手の大半は軍から資金援助を受け、大きく成績を伸ばしています。それでも、引退後の職業生活への準備は軽視すべきではありません。

モロッコにルーツを持つことは、仕事に影響していますか?

私はスイス生まれで、父がモロッコ人、母がスイス人です。名前と見た目にモロッコの系譜が現れていますが、それで不利を感じたことは一度もありません。むしろ、アラビア語を話せないことを悔やんでいるくらいです。アラビア語圏の国々は、ケギにとって重要な成長市場だからです。

編集:Virginie Mangin/ts、英語からの翻訳:高取芳彦、校閲:大野瑠衣子

*ケギは現在、スイスの投資会社ヘリックス・イノベーションズが所有している。そのヘリックスは、たばこ事業で知られる米国のコングロマリット、アルトリア・グループの傘下にある。

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