ICRCがホロコースト関連文書を公開
第2次世界大戦終戦から60年以上が過ぎた今、赤十字国際委員会 ( ICRC ) はホロコーストに関連する文書を一般公開することにした。
囚人移送や強制労働所、恐ろしい生体実験など、ナチスは自分たちの活動を綿密に記録していた。その量は5000万ページを超え、長さにすると25キロメートルにも及ぶ。
連合軍はすでに終戦前から資料の収集に取り掛かっていた。ドイツの温泉地バート・アロルゼン ( Bad Arolsen ) に保管されている文書は11カ国から成る国際委員会が管理、実際の運営は赤十字国際委員会の国際記録センター ( ITS ) が行っている。
古く、もろい紙
「この文書はこれまで、主に行方不明者の消息調査や賠償請求のための情報収集に利用されていた。そして、いずれの場合も、オリジナルの文書に目を通すことができるのは保管所の職員だけと限られていた。
国際記録センターで広報を受け持つイリス・メカー氏は、
「これらの文書はとても古く、そのため非常にもろくなっています」
と話す。文書が外部の目に触れることがないのはそのためだ。ホロコーストの生存者や遺族は情報を得る権利を持つが、問い合わせへの対応に時間がかかることも多いという。
ここ数年、保管文書を一般にも広く公開しようという動きが大きくなってきている。音頭を取っているのはアメリカ国務省だ。国際記録センターの文書公開が決定されたのは2006年5月だが、国際委員会の11カ国すべてがこの決定を承認するまで実施は見合されていた。最後まで態度をはっきりさせなかったギリシャが公式に承認したのは2007年11月末のことだ。
しかし、国際記録センターはそれまでに、コンピュータ技術を活用してもっと簡単に文書を閲覧できるようにした。過去10年間で文書の7割をデジタル化したが、これは非常に手間がかかる作業である。メカー氏は言う。
「文書は非常に丁寧に取り扱わなければならないため、途方もない時間がかかります。1冊ずつ文書を取り出し、それを慎重にスキャンし、また注意深く元に戻すという作業ですからね」
文書のデジタル化により、同センターを訪れる研究者はコンピュータ端末からおよそ3000万ページにアクセスできるようになった。
課題
しかし、状況はまだ理想的とはいえない。文書はこれまで人道的な目的に利用されてきており、個人の情報サーチを簡単にする配慮がなされていた。ところが、歴史研究家のニーズはこれとは異なる。
メカー氏はこの最大の問題について、
「文書保管の構造を原則通りに徹底改革するのであれば、ここを公開アーカイブにするのか、またどのような方向性を採るのかということについて考えなくてはなりません」
と説明する。
問い合わせはすでに世界中から舞い込んできている。この保管文書の公開は新たな注目を浴びそうだ。これに対して赤十字国際委員会のヤコブ・ケレンベルガー総裁は歓迎の姿勢を示している。記録文書公開が公表されたとき、ケレンベルガー氏は
「ドイツ史上に暗い影を落としているこの1章は絶対に忘れ去られてはならない」
とコメントした。
swissinfo、ユリア・スラター 小山千早 ( こやま ちはや ) 訳
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赤十字国際委員会 ( ICRC )
国際記録センター ( ITS ) は国際委員会の監督下に置かれ、赤十字国際委員会 ( ITS ) によって管理されている。
同委員会はベルギー、フランス、ドイツ、ギリシャ、イスラエル、イタリア、ルクセンブルク、オランダ、ポーランド、イギリス、アメリカの11カ国から成る。
赤十字国際委員会によってスイス人が国際記録センターの局長に任命される。
同センターは行方不明者の消息調査を支援するだけではなく、賠償請求に関する正当性の立証も行う。
ドイツ政府とドイツ産業界は2000年、強制労働に対する補償支払いに同意した。その後の18カ月間で、同センターには19万件の問い合わせがあった。
赤十字国際委員会の任務には、軍事紛争や国際犯罪に巻き込まれて行方不明になった人々の消息調査も含まれている。
今日、赤十字国際委員会は世界の各地で行方不明者の消息調査に協力している。
2006年、国際連合 ( UN ) 総会が強制失踪者防止条約定を採択。
行方不明者の総数は不確かだが、数十万人に上ると推測されている。
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