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弁護士、スイス国旗と鍵十字を合わせた米出版本の表紙に反発、著者を訴える

論争を巻き起こしている「不完全な正義」の表紙。 Keystone

スイス国旗の白十字の上に金の延べ棒でナチス・ドイツの鍵十字を形どった図柄がスイス国旗を侮辱していると、チューリッヒの弁護士が著者のアイゼンスタット元米国務次官を訴えると息まいている。

昨年末より論争を巻き起こしているこの本「不完全な正義」(Imperfect Justice)は、スイス政府も出版差し止め提訴を検討したが米国では勝訴の見込みがないとして断念していた。

チューリッヒの弁護士、スタウファラー氏はスイス市民として国旗が侮辱されるのは黙っていられないと著者であるスチュアート・アイゼンスタット元国務次官を訴えることにした。同弁護士は「この本の表紙は歴史の曲解でありスイスという国のシンボルとナチズムをこじつけるものだ」と反発している。米国で1月上旬にパブリック・アフェアーズから出版されたこの本の「スイスでの出版を差し止めることは出来るはず」という。

本の内容

問題の本はスイスの銀行が第二次世界大戦中、ナチスの犠牲になったユダヤ人の「休眠口座」やナチスの金塊を買い取り、運用していたことが90年代に発覚し、犠牲者や遺族がスイスから補償を勝ち取るまでに至った経過を描いている。

著者の反応

著者は「スイスを攻撃したのではなく、表紙はスイス銀行の第二次世界大戦中の役割を想起させるので了解した」とスイステレビのインタビューで語り、「スイスで出版のフランス語版やドイツ語版は表紙を変えることも考えている」と述べた。また、「スイス政府やスイスの人々を傷つけるつもりは全くなかった」と弁明した。「スイスの人々の感情を害したことは謝るがこの話はハッピーエンドなのでスイス人を侮辱することにはならない。ホロコーストの被害者は償われたし、スイス銀行は信用を取り戻し、スイスは勇気を持って自らの歴史に取り組んだのでより強くなったのだ」と語った。

アイゼンスタット氏とは

アイゼンスタット元米国務次官は、1998年に結ばれたスイス銀行(UBSとクレディ・スイス)とホロコースト被害者とその遺族との12億5千万ドルの賠償協定の火付け役であり、交渉を成功させた立役者だった。

過剰反応?

昨年末、外相のダイス氏(現経済相)はこの表紙はスイス国旗を誹謗していると憤慨した。96年に政府が設置し、5年間に渡ってスイスの第2次世界大戦中の役割を探る歴史見直し委員会(ベルジエ・コミッションと呼ばれる)の委員長フランソワ・ベルジエ氏は地元新聞、ブリック紙にこの表紙は「誤り」で「無礼」だと語った。「国旗は国の象徴であり、国民はスイス銀行の行動とは関係なかった」と言う。このベルジエ・コミッションが研究結果を発表したとき(2002年3月)アイゼンスタット氏はこの研究を「歴史見直しは銀行が被害者を賠償したことよりもっと意味がある」と賞賛した。

訴訟の見込み

もし、有罪となれば3万6千ドルにも及ぶ罰金または、2ヶ月の禁固刑に値する。しかし、ジュネーブのアメリカ法律専門弁護士、ポンセ氏によるとスイスの司法権はスイスで行われた罪か、或いは罪を犯した人間がスイスに住んでいる場合にしか及ばないので、訴えるのは「滑稽」であり見込みはないという。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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