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真実求めるシリアの失踪者家族、正義は遠く

2024年12月15日、シリアの首都ダマスカス北部のサイドナヤ刑務所で、行方不明の親族を探す人々
2024年12月15日、シリアの首都ダマスカス北部のサイドナヤ刑務所で、行方不明の親族を探す人々 AFP

シリアのアサド政権が崩壊してから1年余り。抑圧体制下で消息を絶った人々の親族は懸命に情報を求めながら、期待と現実のはざまで暮らしている。一方、ジュネーブ拠点の国際機関は新政権と連携し、前政権の犯罪に関する証拠を集めてきた。真実を突き止め、罪を犯した者を裁くことはできるのだろうか。

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シリア出身のラドワン・アブデルラティフ氏はもう10年余り、兄弟の消息について確かな知らせを得られずにいる。サメル・アブデルラティフ氏が最後に人前で目撃されたのは2012年、バッシャール・アル・アサド前大統領の強権統治に抗議した時だった。その後については、ダマスカス北郊のセドナヤ刑務所で姿を見たとの元収容者の証言がある。アサド政権下で拷問が行われ、失踪者が出ていることで有名な拘束施設だ。

ラドワン・アブデルラティフ氏
ラドワン・アブデルラティフ氏 Courtesy of Radwan Abdellatef

「行方不明の拘束者のことが忘れられている」とラドワン氏。日本からシリアを訪れるため荷造りをする傍らで、ラドワン氏の子どもたちが遊んでいる。

肉親の手掛かりを求めて

ラドワン氏は10年以上前から日本で暮らし、アサド前大統領がロシアに亡命した2024年12月以降、シリアを3回訪れている。1回目は数千人によるセドナヤ刑務所の地下房捜索に加わり、サメル氏の痕跡を探した。だが、刑務所の記録は半分が焼けていて何もわからず、入所や出所の証拠も、死亡証明書も見つからなかった。

サメル氏は2012年5月5日、シリア中部パルミラで強制連行されて姿を消した。政府への抗議行動に参加したことが報告され、家族と暮らす自宅で礼拝中、武装した治安部隊に踏み込まれたのだ。元収容者によると、サメル氏は2012年末の時点では生きていた。情報機関が管轄し、地下監獄を備えた多層式の収容所「パレスチナ支部」に入れられたのち、移送されていたという。一方、シリア当局からは所在に関する確認が一切取れていない。

ラドワン氏は2024年12月にもう一度、さらに2025年6月にもシリア入りした。しかし、手掛かりとなるような2012年の記録は見つからず、かろうじて閲覧できた登録簿は2016年以降の日付だった。パルミラの抗議参加者の多くは命を落としている。ラドワン氏は、セドナヤ刑務所を訪れた時のことを「墓地に入るみたいだった」と振り返る。

サメル・アブデラティフ氏の行方不明を知らせるポスター
サメル・アブデラティフ氏の行方不明を知らせるポスター Courtesy of Radwan Abdellatef
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残虐行為の記録と証拠の構築

シリアと国際社会は今、アサド政権の犯罪を記録し、訴追しようとしている。この取り組みがいかに重要かは、サメル氏の情報を求めるラドワン氏を見れば明らかだ。シリアでの抑圧体制は1970年、ハフィズ・アル・アサド元大統領が権力を掌握したのちに始まった。息子のバッシャール氏は西側の教育を受けた改革者と目されたが、抑圧を受け継ぎ、結局は父親に並ぶ冷酷さを見せつけた。

アサド時代の犯罪は数十年にわたった。政権は巨大な治安機構を後ろ盾とし、異論を唱える者への不寛容を貫いた。自由と尊厳を尊重し、行方不明者の消息を明かすよう求める抗議運動が2011年に始まったが、武力で鎮圧。これが反政府武装勢力の蜂起の素地となって内戦に発展し、政府側、反政府側のそれぞれに複数の外国勢力が加わった。

シリア国民や国際調査団、ジャーナリスト、科学捜査専門家らは同年以降、恣意的逮捕や拷問、強制失踪、大量殺人があったことを示す証言や写真、拘束記録、衛星画像を収集してきた。

こうした証拠により、ドイツやフランスなど欧州での普遍的管轄権に基づく画期的な訴訟に拍車がかかった。国連総会が2016年に設置したシリア国際公平独立メカニズム(IIIM、本部・ジュネーブ)は過去8年で300テラバイト近いデータをまとめ、高解像度の写真約6200万枚を検事らが使えるようにした。

同メカニズムのロベール・プティ代表によると、シリア国民は「説明責任を求める人々の中でとりわけ精力的かつ優秀」で、証拠の多くが重大な個人的リスクを冒して集められていた。慎重な推計でも、2011年以降に殺害されたシリア国民は50万人余り、強制失踪者は約15万人に上っている。

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そうした暴力の一端は、いわゆる「シーザー・ファイル」によって明るみに出た。これは「シーザー」を名乗る軍所属カメラマンがシリアから秘密裏に持ち出した写真のことで、全部で数万枚に上る。撮影された遺体はやせ細り、ひどく損傷していて、拘束施設や軍病院で拷問が行われたことは明白だった。また、最近では「ダマスカス文書外部リンク」によって指揮系統が判明した。アサド前大統領の放逐により、国有文書を閲覧することや、集団埋葬地を含む残虐行為の現場を調べることが可能になり、疑問への答えが出ることに期待が高まっている。

新政権と国際社会による説明責任の追求

シリアの新政権は、正義と説明責任、和解を追求すると主張し、国家移行期正義委員会や国家失踪者委員会、沿海部での暴力に関する国家独立調査・事実発見委員会といった国家機関を設立した。ただし、一連の手続きについては、市民団体を排除し、前政権による加害行為しか扱おうとしていないとの批判がある。

アサド政権崩壊後も、説明責任を求める国際的取り組みの中心地はジュネーブだ。国連人権理事会やシリア国際公平独立メカニズム、シリアに関する独立国際調査委員会、シリア独立失踪者機関(IIMP)がジュネーブを本拠とし、例えばシリア国際公平独立メカニズムは収集された記録を提訴につなげる活動をしている。

また、シリア独立失踪者機関は国連総会が2023年に設立した組織で、人道と真実の追求を任務としている。カルラ・キンタナ代表(国連事務次長補)は「私たちの役割はシリアで行方不明となった全ての人の消息と所在を明らかにし、その親族を支えることだ」と説明。実際、同機関は2024年の前後を問わず、失踪や恣意的拘束、拉致、難民・国内避難民に関わる事案を扱っている。

キンタナ氏は、「真実を普遍的に要求」する姿勢はシリア全土の家族に共通していると語る。独立失踪者機関は前政権の崩壊後、複数の調査班をダマスカスに派遣。当局や市民団体と関係を築き、新たな調査に道を開いてきた。その中には、アサド政権下の2013〜18年、治安機関によって家族と引き離された児童らの事案も含まれる。

シリアとイラクにまたがる地域では過去、国家権力の失墜に乗じ、過激派組織「イスラム国(IS)」がカリフ制国家を自称して勢力圏を確立した。当時のIS構成員が拉致した少数派ヤジディ教徒の女性らについても、未解決事案の調査が行われている。

2025年2月、シリア派遣団。中央がカルラ・キンタナ氏
2025年2月、シリア派遣団。中央がカルラ・キンタナ氏 IIMP Syria

真実と正義への長い道のり

シリアの移行期正義は法的、実務的な障害に直面している。まず、現行憲法は戦争犯罪や人道に対する罪を訴追するための条項を欠いている。また、プティ氏によれば、刑法には指揮責任の概念がない。シリア国際公平独立メカニズムはそうした状況下でシリア当局に司法戦略を助言し、同国で正式な足場を築こうとしている。

プティ氏は、シリアで起こった規模の残虐行為のあとでは、正義が十分に実現できないことが多いと強調する。被害者がどうなったのか、親族にまったくわからない場合もある。それでもなお、和解は説明責任の代替にはなり得ない。経済と体制が崩壊する中、シリアの司法・治安部門には根本的な変革が必要とされている。

プティ氏は「約50万人の死者と15万人余りの失踪者について話している時に、一体何をもって正義を果たしたことになるのだろうか」と問い、「(シリア当局者らは)一連の手続きをシリア人が主導し、シリア人のものとすることを非常に強調している」と指摘する。

ロベール・プティ氏
ロベール・プティ氏 Helen James / SWI swissinfo.ch

取り組みは一足飛びには進まない。シリア国際公平独立メカニズムは1月、ジュネーブでシリアの司法当局者や国際検事らと円卓会合を開き、シリア国外での訴追について協議した。2月にはダマスカスのアルハティブ収容所で初めて実地の証拠収集を行い、シリア政府の協力を得て、拷問と非人道的環境を記録した。

ラドワン氏は、期待を抑えるようになった。流出した文書の中には、サメル氏の死亡証明書の存在を示唆するものもある。2013年の発行後、親族に知らされないまま5年遅れで登録簿に記載されたようだ。ラドワン氏は今、パルミラでホテルの再建を進めながら、区切りをつけるのに何が必要なのかをはっきり自覚している。

「犯罪者の裁判が必要だ。兄弟を殺した人物が明らかなら、もちろん裁かれてほしい」

Edited by Virginie Mangin/ds、英語からの翻訳:高取芳彦、校正:宇田薫


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