スイス連邦鉄道 のトップ退陣
スイス連邦鉄道 ( SBB/CFF ) 総裁、ベネディクト・ヴァイベル氏が退職を前に今後のスイス鉄道の課題について、スイスインフォのインタビューに答えてくれた。
ヴァイベル氏によると、スイスの鉄道網は世界一。また、貨物輸送を伸ばすことは今後の重要な課題の1つであるという。
ヴァイベル氏は鉄道部門のトップとしては、ヨーロッパで一番長い28年のキャリアを今年末に終える。彼の成し遂げた数々の功績にもかかわらず、後任のアンドレアス・マイヤー氏が解決すべき問題は、年金問題、来年の運賃値上げ、テクノロジー問題、サービスの向上など数多い。ヴァイベル氏は退職後、オーストリアとスイス共催のサッカー試合EURO2008の政府の代表として活躍する。
swissinfo: 世界的にみて、スイス鉄道のレベルはどうですか?
ヴァイベル: スイス鉄道網は世界で一番です。これはいいかげんに言っているのではありません。私は4年間、「国際鉄道連合 ( UIC ) 」の会長だったので、世界の鉄道状況がよく分かった上で言っているのです。
近隣諸国に比べて、1キロメートル区間あたりでの電車本数が2倍ですし、到着の正確さでは一番です。96%の電車が5分以内の遅れで到着します。
swissinfo: 来年の運賃値上げを宣告されましたが、利用者は「払うだけの価値あり」と思うでしょうか?
ヴァイベル: 例えばイタリアの運賃は、スイスより安いのですが、サービスは比較にならないくらいスイスが勝っています。フランス、ドイツ、オーストリアとは、運賃に殆ど差がありません。
鉄道をよく利用する200万人の乗客が、全ての料金が半額になるカードを持っています。これを使えば、運賃はまったく高いものではありません。
私の任期中、10回運賃値上げがありましたが、反応はいつも同じです。もちろん値上げがうれしくないのは分かりますが、毎回の批判のすごさには驚かされます。
swissinfo: 貨物列車の本数が減り、再編成されつつありますが、貨物がコスト面で採算が取れるようになると思いますか?
ヴァイベル: 貨物列車は本当にチャレンジの部門です。絶えず、トラック輸送と競争ですし、予算も少ないのです。スイスでは、それほど工業化されてない地域も含むと、目的地間の距離が平均90キロメートルです。これはトラックには都合がよい距離でも貨物列車にはふさわしくないのです。
ドイツ、イタリアをつなぐ南北輸送問題では、列車とトラック間、また会社間での競争があります。しかしヨーロッパ的観点からすれば、スイスはアクセサリー的な役割を担うにすぎません。
swissinfo: スイスは最近ヨーロッパ交通管理システム ( ERTMS/ETCS ) を導入しましたが、ヨーロッパ全体で統一された鉄道システムが近いうちに、出来上がるのでしょうか?
ヴァイベル: 統一システムができるには、30年いやそれ以上かかるでしょう。統一システムが早く出来上がると考えるのは欧州連合 ( EU ) の幻想だと思います。
ETCSは今までのヨーロッパ鉄道計画の中で、一番貧弱なプロジェクトです。なにしろビジネス面がきちんとしてないのですから。
各国が違うシステムでやるほうが簡単だと思いますね。ただ機関車を変えればいいのですから。スイスはそれをやっていて成功しています。異なるネットワークの電化システムを統一するなんてお金が掛かり過ぎて無理でしょう
swissinfo: あなたの後任者が行うべき課題はなんでしょうか?
ヴァイベル: まず、テクノロジーです。最も古い転轍機はなんと1904年のもので、それを新しいものとうまく接続させなければなりません。
またサービスの質と正確さを高めるのは日々の仕事です。毎日、技術的な問題、列車そのものの問題、列車に飛び込んだ自殺者、レールに乗り上げた車など、100件以上の問題が起こるのです。
年金の問題は完全には解決できないでしょう。しかしスイス連邦鉄道所有の不動産を処理して、15億フラン ( 約1440億円 ) を使って問題解決の方向性を探ることになるでしょう。
退職までに残された日々を使って、2つのことを仕上げたいと思っています。まず、年金基金の我々の提案を政府が承認してくれることです。次に、労働者との新しい集団契約を労働組合と結ぶことです。
聞き手 swissinfo、マシュー・アレン 里信邦子 ( さとのぶ くにこ ) 意訳
スイス鉄道網は3000キロメートル以上に及び、世界で最高の鉄道網を誇る国々の一つ。
2005年、延べ2億7600万人 (人口約725万人) の鉄道利用者、5600万トンの貨物輸送を記録した。
スイス連邦鉄道は2004年の4300万フラン ( 約42億円 ) の黒字を出した後で、昨年1億6600万フラン ( 約160億円 ) の赤字を出した。
ヴァイベル氏はスイス連邦鉄道 ( SBB/CFF ) に1978年入社。1993年に総裁に就任。
総裁として、スイス連邦鉄道を政府の管理下から政府所有の株式会社の形に変えた。
ヴァイベル氏はまた2002年からパリにある世界鉄道組合 ( UIC ) の会長を4年間務めた。UICは市場の自由化と他の輸送手段との競争等の問題を扱いながら、各国の鉄道サービスのコーディネートを行っている。
ヴァイベル氏は同時に、鉄道輸送の規則面を扱う国際鉄道委員会 ( International Rail Transport committee ) の議長も務めた。
ヴァイベル氏の大きな業績の一つが「鉄道2000」。これはスイス鉄道網を再編成するもので、第一段階で59億フラン ( 約5660億円 ) かかった。
この計画は130のインフラのプロジェクトから成り、またベルンとチューリヒを結ぶ新しい鉄道建設も含まれている。
計画は1980年に作られ、20年の実施期間があった。
2004年12月に作られた新しいプロジェクトのお陰で、列車の本数が12%増え、長距離列車の半分以上が少なくとも5分間の時間節約を成し遂げた。
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