The Swiss voice in the world since 1935
トップ・ストーリー
スイスの民主主義
ニュースレターへの登録

列車に乗ってスイスからデンマークへ 24時間の旅

電車の窓から外を眺めている少女
スイスからスカンジナビアまで列車を乗り継いで旅するのは、どんなものなのだろうか? Kristian Brandt / SWI swissinfo.ch

スイス議会がバーゼル・マルメ間を乗り換えなしでつなぐ夜行列車計画への補助金を否決した。そこで私は、飛行機にはない夜行列車の魅力と欠点を知るために、娘を連れてこのルートを旅してみた。

夜7時半、娘とともにチューリヒでオーストリア連邦鉄道(ÖBB)の「ナイトジェット」に乗り込んだ。娘はわくわくしていた。娘にとって、夜行列車は冒険以外の何物でもない。私にとっては、環境にやさしくて便利な移動手段だ。飛行機のほうが早いが、列車は排出ガスが少ない。移動時間は増すが、寝て過ごせばいい。

チケットは2日前に予約した。簡易寝台のある4人用コンパートメントの2席で合計199ユーロ(約3万7000円)だった。豪華とはいえないが、ベッドで寝ることができる。

コンパートメントは狭く、上段の寝台は壁に折りたたまれていた。チューリヒからバーゼルまでは私たち親子だけだったので、荷物の整理や着替えがやりやすかった。

バーゼルで2人の乗客が加わった。ローザンヌから来たジェラルディーヌさんとヴァンサンさんだ。1週間の休暇だという。

「夜行列車の旅を体験してみたかったんです」とヴァンサンさんがいった。「それに環境的にも、たった1週間のために、電車が通じている場所に飛行機で行くのはどうかと思って」

4人はハンブルクまで道連れとなった。そこからはそれぞれ電車を乗り換えてデンマークに向かう。私たち親子はストルーア、ふたりはコペンハーゲンを目指す。

ジェラルディーヌさんは、「乗り換えは苦になりません」というが、こうも付け加えた。「でも直通があれば、そっちにしていたと思います。そのほうがずっと楽ですから」

じつは、コペンハーゲンまでの直通列車の計画は存在した。バーゼルからコペンハーゲン経由でスウェーデンのマルメにいたる路線だ。しかし昨年末、スイス議会が連邦補助金の拠出を否決し、計画は白紙に戻った。私と娘にとっては、直通の夜行列車を使わずにスカンジナビアまで鉄道で行くのがどんな感じなのかを知ることも、旅の目的だった。列車は定刻に出発し、夜の闇を進んだ。チェスで遊んでから、午後10時半ごろに明かりを消した。

1時間の遅れ

9時間後、朝食(それぞれパン2個とジャム、コーヒーまたは紅茶)をとりながら、私は同室の旅仲間に眠れたかと尋ねてみた。

ジェラルディーヌさんは、「とてもよく眠れた」という。「ぐっすり眠れたので、これならまた乗ってもいいかも」

ヴァンサンさんもうなずいた。「豪華な旅を期待するわけにはいきません。とても質素ですが、じゅうぶんです。いい経験になりました」

ここまではすべてが順調に思えた。ところが、ドイツのブレーメンを過ぎたあたりでふと時刻表を見てみると、予定より1時間遅れていることがわかった。

つまり、乗り換えの列車に間に合わない。もし、白紙になったバーゼル・マルメ間直通の夜行列車が実現していて、予定のダイヤどおりに運行していたなら、このナイトジェットがハンブルクに到着するより15分も早く、コペンハーゲンに到着していたはずだ。

ところが、ナイトジェットが約2時間の遅れでようやくハンブルクに到着すると、駅員から「デンマーク行きの列車は運行上の問題ですべて運休になったので、代替バスを用意している」と告げられた。残りはバスで移動することになった。また、その駅員が、今持っているチケットがそのまま使えると保証してくれた。これはいつもそうとは限らない。乗り継ぎに失敗すると、国をまたぐ別々の鉄道会社に改めて予約や払い戻し請求をする面倒が生じることもある。

外部リンクへ移動

列車からバスへ

小雪のなか、バス乗り場を見つけた。ヴァンサンさんに鉄道旅の感想を聞いてみた。

「まだポジティブなままです」が第一声だった。「バーゼルからコペンハーゲンまで直通列車があればいいのに、と思わせてくれる体験でしたね。これも冒険の一部と思うことにします」

ハンブルク到着から90分後、デンマークへ向かうバスに乗った。列車に比べると設備は見劣りする。バスは満席で、トイレには鍵がかかっていた。

デンマークのフレゼレシアという都市に予定より35分遅れで到着した。ここで次の乗り換え列車を逃すと、私たち親子はストルーアに予定よりおよそ4時間も遅れて到着する羽目になる。ジェラルディーヌさんとヴァンサンさんに別れを告げ、停留所で静止する前に乗降口の近くに移動した。バスのドアが開くとすぐ、駅のホームへと急いだ。何とか列車に乗り込めた。あと数分遅れていたら、間に合わなかっただろう。

午後5時に目的地に到着した。ほっとしたと同時にくたくたでもあった。飛行機を使わずにたどり着けたという達成感はあったが、この旅がいかに綱渡りだったかも痛感した。接続を1回でも逃せば、もとから長い旅にさらに数時間が加わるのだから。

おすすめの記事
あらゆる報告から判断すると、社会は夜行列車の復活という考えを支持しているようだ。

おすすめの記事

排出削減

欧州の夜行列車、需要はあるのに広がらないのはなぜ?

このコンテンツが公開されたのは、 陸続きのヨーロッパでは夜行列車の人気が高く、チケットは数カ月前から完売だ。新路線への需要も旺盛だが、車両の老朽化や資金不足、インフラの限界などが足かせとなっている。

もっと読む 欧州の夜行列車、需要はあるのに広がらないのはなぜ?

鉄道旅行の問題点

デンマークや北欧の鉄道ファンのあいだでは、バーゼル・マルメ間の夜行列車計画の中止に失望の声が広がった。「悲劇」とまでいう人もいた。

北欧諸国間の協力と移動を推進するNGO「ノルディック・アソシエーション・コペンハーゲン」のイエッペ・ストランベア会長は、「マルメとバーゼルをつなぐ夜行列車は北欧とヨーロッパを結ぶ路線を大きく活性化させ、環境面でも多大な恩恵をもたらしたはずです。飛行機ではなく列車を選ぶことでホテル代を節約できるので、多くの人が喜んだことでしょう」と語る。

スイス国民党(SVP/UDC)のラルス・グッギスベルク連邦議員は、ドイツ語圏のスイス公共放送(SRF)の討論番組「Arena」に出演して、そのような路線は不要だと主張した。今のままでも、ハンブルクまで夜行列車で行って、翌朝に別の列車に乗り換えることができる、と。まさに私がやったことだ。

しかし今回の旅で明らかになったように、国境をまたぐ鉄道旅行では、複数の鉄道会社のダイヤが問題なく機能していることが前提になる。

ドイツで線路工事が行われていた影響で、帰宅する日はスイス行きの夜行列車が運行していなかった。そのため午前6時に出発しなければならず、フリブールに着いたのは15時間後の午後9時だった。

帰りのチケット代は2人で140ユーロ(約2万2600円)だった。ハンブルクまでの199ユーロとデンマークまでの70ユーロを合わせると、総額で400〜450ユーロ(約7万3000〜8万3000円)に達する。手荷物込みの往復フライトであれば1人あたり約250ユーロ(約4万6000円)で、2人分となるとやや高くなるが、所要時間は段違いに短い。

もちろん、飛行機旅行にも面倒はある。通常、航空会社は出発の少なくとも2時間前に空港に来るよう案内する。到着後の手荷物受け取りに時間がかかることもあれば、鉄道と同じで、遅延やキャンセルも起こりうる。

2025年のデータによると、ナイトジェットを含むÖBBの長距離列車の約82%が定刻の5分以内に到着した。一方、ヨーロッパ内の短距離フライトのうち、定刻の15分以内に到着するのは約71%だ。

外部リンクへ移動

しかし、ヨーロッパの主要な空港間では毎日複数の便が飛んでいるのに対し、鉄道の場合、遅延の可能性に加え、都市間の列車の本数が少ないことも、環境にやさしい旅を不便・不快なものにしてしまっている。次のフライトを空港で待つのとは違い、列車の旅では目的地までの道中で、駅から駅へと移動しながらそのたびに窓口でチケットを買い直すことにもなりかねない。

払い戻しに難あり

列車でトラブルが起きた場合、複雑な対処が必要になる。飛行機の予約は、ひとつの契約を結ぶことを意味する。予約さえあれば、問題が発生しても別の便への変更が行われる。それが乗客の権利として保証されている。国境を越える鉄道の旅では、そうはいかない。

私の場合、遅延は全行程に影響したにもかかわらず、ナイトジェットとその先の行程を別々の鉄道会社で予約していたため、払い戻しを受けたのはチューリヒ・ハンブルク区間のみで、チケット代全体の25%にとどまった。ハンブルクから先の区間での乗り継ぎ失敗は補償の対象外だった。

ヨーロッパ各国で行われた複数の調査を総合すると、料金が手ごろでサービスが信頼できるのなら、多くの人が夜行列車の利用を検討すると予想できる。飛行機の代わりに5時間以上列車に乗ってもいいという人も多く、予約がもっと簡単になれば長距離鉄道を利用したいという人もかなりの数に上る。

ヨーロッパは数十年をかけて航空市場を統一した。対照的に、夜行列車網は今もつぎはぎだらけだ。

編集:Gabe Bullard、英語からの翻訳:長谷川圭、校正:ムートゥ朋子

ÖBBの発表によると、ナイトジェットの年間利用者数は150万人を超え、チューリヒ、バーゼル、ウィーンとハンブルク、ベルリン、アムステルダム、ローマ、ミラノなどといった主要都市を結ぶナイトジェットのネットワークはほぼ満席の状態が続いている。インフラ、車両、国境をまたぐ調整の難しさが路線の拡大を阻んでいる。

人気の記事

世界の読者と意見交換

swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。

他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部