秋季議会始まる、対EU協定・防衛費増強・メルコスールなど重要論点目白押し
スイス連邦議会の秋季会期(9月14日〜10月2日)が始まった。対EU第3次二国間協定案が初審議されるほか、南米関税同盟(メルコスール)との自由貿易協定や軍事費拡大など重要案件が目白押しだ。二重国籍などの議論も予定されている。
おすすめの記事
ニュースレターへの登録
秋季議会では、全州議会(上院)が3日間にわたり、EUとの第3次二国間協定案について審議する。協定は、両者の関係を深化・拡張させる包括的協定で、2024年末に両者が合意、スイス連邦内閣(政府)が今年3月に協定の最終案を閣議決定し、連邦議会に送付した。
焦点となるのはEU法をスイスが動的に取り入れる仕組み、賃金保護、スイスへの過度な移民流入が起きた場合に発動できるセーフガード条項だ。
9月28日からは、協定案を任意的レファレンダム(国民表決)に付すべきか、あるいは強制的レファレンダムに付すべきか議論される。任意のレファレンダム(新法公布後100日以内に有権者5万筆分の署名を集めることが要件)であれば、国民投票で有権者の過半数の承認があれば足りる。一方、複数の上院議員が求めるように強制的レファレンダムの対象となれば「州の過半数」の賛同も必要となり、より実現のハードルが上がる。
EUとの二国間協定批准に「州の過半数は必要か」?詳しい解説はこちら:
おすすめの記事
EUとの二国間協定批准に「州の過半数」は必要か?スイスで議論
外交政策委員会(主管委員会)は協定案を賛成多数で支持している。一方、経済委員会はより慎重な姿勢で、一部の上院議員は新たな協定を骨抜きにしようと、あちこちで小さな抵抗を試みているようだ。
二重国籍の是非が議論に
秋会期では、保守右派・国民党(SVP/CDU)の二重国籍をめぐる提案を議論する。SVPの議員発議は、スイスで帰化する外国人に対し、元の国籍を放棄することを義務付けるよう求めている。
その理由として「2カ国以上で二重選挙権を有するのは、『一人一票』という民主主義の根本原則を損なう。単一国籍者に比べて二重の政治的影響力を持つことになり不公平だ」と主張する。
二重国籍をめぐる議論は連邦議会で過去に繰り返し浮上している。今回も所管委員会は提案に反対するよう勧告している。
農業界、メルコスール協定賛成の見返りに補助金要求
国内では、メルコスール諸国(ブラジル・アルゼンチン・パラグアイ・ウルグアイ)との自由貿易協定をめぐる攻防が注目を集めそうだ。
国民議会(下院)は、左派と農業関係者の連合にけん引される形で、スイスが交渉したこの協定を意外にも否決した。今会期は上院に議論の舞台を移すが、可決される見通しは下院よりも高い。
強力な農業ロビーが補償を求める要求を通せば、メルコスール協定への反対を取り下げる構えだ。所管の上院委員会は農業向けに5億フラン規模の支援策(付随措置)を講じるよう提案している。この政治的妥協が成立すれば、すでに同協定を否決した下院も再審議を迫られる。
軍備増強、財源めぐり紛糾
安全保障政策も激しい議論を呼びそうだ。
スイス軍の防衛能力が不十分であり、財源確保が喫緊に必要だという点では大方の意見が一致している。ただ問題はその財源をどう確保するかだ。
今会期では通常の軍事予算(34億フラン)が下院に提出される。さらに、連邦政府が8月に打ち出した特別財源措置も審議される。通常なら債務削減に充てる税収の上振れ分を、軍備調達に振り向けるという案だ。
加えて、長期的な防衛力強化を目的とした軍備基金の設立をめぐっても対立が続いている。この基金には240億フランの割り当てを想定している。
地政学的リスクの高まりを議会が真剣に受け止めていることは、下院安全保障政策委員会が出した2つの提案にも表れている。
1つは、武力紛争が生じた場合に駅舎、トンネル、地下駐車場を避難施設として転用できるよう準備を整えるもの。もう1つは、病院、介護施設、刑務所などについて、安全上の理由から避難が必要になった場合の法的枠組みを整備するものだ。
つまり、スイス国内が戦場となる事態を想定した制度づくりを意味する。
国民発議も審議
秋季会期では、複数の国民発議(イニシアチブ)も審議される。
民主主義イニシアチブ:帰化手続きの簡素化を求める内容で、上院で審議される。スイスで生まれ育った移民2世や、長年スイスに在住する外国人について、現在より簡単な「簡易帰化」を認めるよう制度を拡大することを提案している。しかし、所管委員会はこの提案を否決するよう勧告している。
インクルージョン・イニシアチブ:障がい者が直面するさまざまな障壁の解消を求める内容で、下院で審議される。対案としてすでに「インクルージョン法」が提出されている。所管委員会はこの法を拡充するよう議会に求める一方、イニシアチブ自体については否決を勧告している。
「医療供給の安全保障を求める」イニシアチブ:医療、特に医薬品の安定供給を焦点とした内容。政府は直接対案として、供給不足への対策を講じる権限を国に付与する措置を提案している。下院で審議される。
フォアグラ・イニシアチブ:フォアグラなど強制的な過剰給餌によって生産された製品の輸入禁止を求める。下院はイニシアチブに反対し、代わりに輸入品への表示義務を定める間接的対案を支持した。今会期は上院が審議する。
毛皮イニシアチブ:動物虐待を伴う方法で生産された毛皮の輸入・販売禁止を求めている。上院で審議する。所管委員会は対案として動物保護法の改正を支持。イニシアチブ自体については否決を勧告している。
編集:Pauline Turuban、独語からの翻訳・校正:宇田薫、校正:大野瑠衣子
JTI基準に準拠
swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。
他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。