落ち葉掃除がうるさい! チューリヒでブロワー禁止案めぐり住民投票
風圧で葉や埃を吹き飛ばす清掃用機械「ブロワー」の使用を厳しく規制する案が28日、チューリヒで住民投票にかけられる。
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ブロワーの発する騒音は、これまで各国メディアやインターネット掲示板で散々叩かれてきた。米経済紙ウォール・ストリート・ジャーナルは「悪の化身」と揶揄外部リンクし、俳優ケイト・ブランシェットさんはYouTubeの動画外部リンクで「人類にはびこる病を表すもの」であり、世界から消えてなくなるべきだと語った。
このブロワーが、チューリヒで政治問題化している。チューリヒ市の有権者は28日の住民投票で、ガソリン式ブロワー・掃除機の使用を市内全域で禁止する新法案の是非を判断する。電動式も落葉の多い10月から12月の期間しか使えず、その他の期間に使用するには事前許可が必要になる。
禁止案に賛成する人たちは、騒音がひどい、塵や細菌や「その他の危険な粒子」を空中に舞い上げる、生物多様性を損なう、落ち葉の除去という本来の目的以外にも用途が広がっていることなどを理由に挙げる。
緑の党は、ガソリン式について、化石燃料をわざわざ使ってまで「ブラシや熊手」で十分対応できる作業をする必要はないと訴える。
なぜ住民投票に?
発端は2022年、チューリヒ市の左派議員がブロワーの使用禁止案を市議会に提出したことだ。市政府が法案を起草し、議論と修正を経て2025年初めに可決された。これに対し右派政党が法律の施行に反対するレファレンダム(住民表決)を提起し、住民投票にかけられることになった。
市議会での討論中、法案に反対する右派議員が議場の真ん中で電動式ブロワーを振り回す一幕もあった。ヘアドライヤーとブロワーのどちらがうるさいかという実演すら行われた。
この一件は国内外メディアの注目を浴びた。単なるブロワーの騒音問題から、より広範な議論にも広がっていった。
仏紙ル・モンドは、善意ある都市左派と「アンチ・ウォーキズム」勢力との世界的な「文化戦争」の一端だと論じた外部リンク。数十年、左派が支配してきたチューリヒで右派が復讐を果たそうとしているのか、とも分析した。
独語圏日刊紙NZZの編集長も論説で、「ブロワーは肉食主義者、車を運転する人などと同じく、赤緑連合(中道左派、環境主義政党による勢力)の仕掛ける文化戦争のターゲットにされている」と分析。チューリヒ商工会議所も法律に反対する意見表明のなかで、「ビジネスに敵対的な」「蔓延する禁止文化」を嘆いた。
「いかにもチューリヒらしい話だ」と皮肉ったのはタブロイド紙ブリックだ。この法律は、スイスにおける都市と農村の感覚の違いを示す好例だとした。
他国でも禁止
しかし、今回のブロワー禁止案は、NZZが報じたように「チューリヒで最も不条理な論争の一つ」とは必ずしも言い切れない。他の都市でもすでに同様の規則が存在するからだ。
スイス第2の都市ジュネーブではブロワーを使用できる時期や時間帯が規則で決められている。米国では100以上の都市がガソリン式ブロワーの使用を禁止・制限している。カリフォルニア州はガソリン式芝刈り機を全面的に禁止している。
住民投票も小規模ながら米国で先例がある。2025年3月、フロリダ州ウィンターパーク(人口3万人)の有権者はブロワー禁止法を住民投票で否決した。
スイスは騒音の少ない国と言われている(英デイリー・メールはかつて「夜10時以降のトイレの水を流すことも禁止されている」と誤報したほど)が、一概にそうとも言えない。2020年の調査では、100万人が自宅近くで騒音公害に苦しんでいることが判明した。騒音(特に交通騒音)に関する苦情件数は増加傾向にあり、専門家は昨年スイス公共放送ラジオ(SRF)に対し、健康リスクが「大幅に過小評価されている」と指摘した。
実際、国内では騒音低減のための舗装や改造車の規制など対策を講じる自治体が増えている。
「騒がしい」歴史
スイスで騒音規制に関する住民投票が行われるのは今回が初めてではない。また、こうした投票がより広範な政治問題に及ぶのも初めてではない。
例えば2023年、ベルン州アーヴァンゲンに越してきた住民が、カウベルの音がうるさくて夜眠れないと苦情を申し立てた。これに対し地域の有権者は即座に、カウベル(と教会の鐘)は「昼夜を問わず」地域に歴史的・伝統的に存在することを認める、という条例を住民投票で可決した。
この事例は、一部の農村地域が都市化の中で自らのアイデンティティを再定義しようと苦闘している様子を象徴する事例として広く報じられた。
最近、槍玉に上がっているのは花火だ。昨年、大きな音のするロケット花火や爆竹の販売を禁止するイニシアチブ(国民発議)が提起された。今後数年内に国民投票が行われる予定だ。現在、連邦議会がこの件を議論している。世論調査では、有権者は禁止案支持に傾く。
チューリヒの投票はどうなる?
チューリヒでは投票前の世論調査が行われておらず、28日の結果がどうなるかは今のところ不明だ。チューリヒは左派色が強い都市ではあるが、それだけが投票結果を占う明確な指標とは必ずしもならない。2024年11月には、公的文書におけるジェンダーニュートラル言語を今後も使用する、という別の「文化戦争」をめぐる住民投票が行われたが、賛成は57%と「左派の圧勝」にはならなかった。
編集:Marc Leutenegger/ts、英語からの翻訳:宇田薫、校正:ムートゥ朋子
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