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トランプ氏の「磁石」への執着、スイスのハイテク産業が窮地に?

2024年、世界の希土類鉱石生産量の約60%、および分離・精製能力の90%を中国が占めていた
2024年、世界の希土類鉱石生産量の約60%、および分離・精製能力の90%を中国が占めていた EPA/QILAI SHEN

中国と米国がレアアース(希土類)の支配権をめぐり競い合うなか、スイスのハイテク産業に欠かせない供給網が脅かされるリスクが高まっている。

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ドナルド・トランプ米大統領は7月、ペンシルベニア州で開かれた防衛関連イベントで、同氏独特のスタイルで投資家に磁石の重要性を繰り返し訴えた。

「マグネット(磁石)をやってほしい。誰か、やってくれ。皆さんは優秀な方々だ。マグネットだ、いいか?もうかる方法を教えよう。マグネットをやれ。皆さんは素晴らしいことをたくさんやっている。マグネットをやれ。なぜなら、まだ持っていないが、手に入れるところまで近づいているものが1つある。だからマグネットをやれ」

一部のメディアはこれが80歳のトランプ氏の「年寄りの物忘れ」だったと推測。別のメディアは大統領の息子が関連ビジネスに関心を持っているために出た発言だと指摘した。しかしこの発言が如実に示すのは、米国がハイテク磁石という難解な世界とその製造に必要なレアアースを、中国との覇権争いの鍵と見なしているということだ。

この国際的なサプライチェーンをめぐる争いは、兵器から風力タービン、時計に至るまで幅広い製品メーカーに影響を及ぼす。特にスイスのような小国にとっては、ハイテク産業に不可欠な素材、つまりレアアース供給への安定したアクセスが死活問題となる。

トランプ氏が演説した場所から東へ約1万2500km、中国南部の江西省贛州(かんしゅう)市はレアアースの一大産地だ。この地域の鉱山から採掘されるサマリウムは合金に加工された後、世界各地へ輸出される。スイス・アールガウ州ルップフィヒにある企業アーノルド・マグネティック・テクノロジーズは、このサマリウムをサマリウムコバルト磁石に加工し、航空宇宙や産業用モーター、その他の精密技術に供給している。

中国がレアアース生産を支配

同社は中国の原材料メーカーとの取引を「鉱山から磁石まで」のサプライチェーンと表現する。しかし、重要鉱物をめぐる米中間の緊張が高まるにつれ、貿易関税や輸出規制の脅威も増している。

同社は2025年末、英国とベルギーの企業との新たな提携を発表。「西側諸国由来」の信頼性の高いレアアース素材の確保に乗り出した。

同社のマット・ブレイク最高経営責任者(CEO)は業界誌「マニュファクチャリング・トゥデイ」に「レアアース鉱物の供給安全保障をめぐる状況が、近い将来に解消されることはない」と語った。「中国は当面、世界のレアアースサプライチェーンにおいて重要な位置を占め続けるだろう。(中略)そのため、サプライチェーンのリスク軽減に向けた多面的なアプローチを採用し、調達戦略の多様化を進めている」

「レア」という名称がついてはいるが、レアアースは実際には希少ではない。しかしその生産は中国が支配している。中国は数十年かけて、採掘から精製、加工を大規模に発展させた。2024年には世界のレアアース鉱山産出量の約60%、分離・精製能力の約90%を占めるに至った。その規模の大きさが他国の市場参入を阻んでいる。

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貿易摩擦が小さかった時代はそれで問題なかった。しかし近年、米国、欧州、日本は、中国が格安で製品を輸出し、競合国の製造基盤を空洞化させ、防衛や戦略的インフラなどの分野に欠かせない供給網を握ろうとしていると懸念する。こうした懸念は、中国がウクライナ戦争でロシア側についたことでさらに高まった。

「かつては現代産業を動かすだけの商品と見なされていたレアアースやその他の重要原材料が、今や単純な貿易品ではなく、戦略的資産や地政学的ツールとして使われるようになっている」と語るのは、ESM財団のアレッサンドラ・フール専務理事だ。195年設立の同財団は資源の乏しいスイスが必要な物資を確保できるよう、レアメタルの研究を行っている。

「一部の重要原材料については近年、採掘能力の多様化が進んでいるが、多くの素材の加工能力は今も中国に集中している」とフール氏は述べた。

中国は2023年、米国が中国への先端半導体の販売を制限したことへの対抗措置として、欧州諸国を含む一部の鉱物の輸出を制限した。その後も日本などの競合に対し、さらなる規制を相次いで導入した。

国際エネルギー機関(IEA)はこの動きについて「エネルギー、自動車、防衛、半導体、航空宇宙、産業用モーター、AIデータセンターなど多くの戦略的分野が、規制対象となった中国産レアアース元素を含む製品や部品に依存している。世界のサプライチェーンに甚大な影響を与えかねない」と警告した。

主要経済国はさまざまな対策を講じている。

米国は投資と安全保障政策に裏打ちされた重要鉱物パートナーシップのネットワーク構築を進めている。日本は素材備蓄を積み上げ、海外の鉱山プロジェクトに投資しているほか、オーストラリアのライナス・レア・アースなどの生産者と提携を結んでいる。欧州連合(EU)の「重要原材料法(CRM法)」は、域内での戦略原材料の採掘量を年間消費量の10%にまで高めるほか、プロセッシングの量を同40%、リサイクル量を25%にまで引き上げることを目標としている。

独自の貿易規制を設ける国も増えている。経済協力開発機構(OECD)の統計によると、重要素材に対する規制は2009年から2024年の間に5倍に増え、レアアース輸出の約45%がこうした制限に直面している。OECDは「輸入国である工業国は、自国の経済安全保障へのリスクをますます強く認識するようになっている」と指摘する。

しかし、こうした選択肢の多くは、国内市場が小さく、長年にわたる自由貿易の恩恵を受けてきたスイスのような小国には現実的ではない。スイスが直接輸入するレアアース金属・化合物は年間30t未満だが、多くの国内メーカーがこれらの物質から作られた部品に依存している。

スイスの機械・電機・金属産業の主要業界団体スイスメムのマルティン・ヒツェル会長は「スイスのテクノロジー産業は、中国産のレアアースやその他重要原材料に大きく依存している」と語る。「サプライチェーンが寸断された場合、短期間で代替調達先を見つけることはほぼ無理だ」

「スイスは米中の世界的な覇権争いにおいて『巻き添え被害』を受けるリスクにさらされている」とも述べた。スイスは国際的な貿易摩擦に何ら関与していないにもかかわらず、中国の輸出規制はスイスの産業界にも影響を及ぼしている。

2026年4月に行われたスイスメム会員企業への調査によると、約3分の1の会員企業の輸入品が中国の輸出規制の対象だった。「影響を受けた企業のうち、半数以上が納期の遅延や供給の混乱を経験している」とヒツェル氏は語る。

連携・リサイクル・代替材料に活路

ESM財団のフール氏によると、スイス企業はコスト上昇や規制の複雑化といった間接的な打撃も受けている。

スイスには、自給自足を高めるために必要な市場規模、国際的な影響力、鉱物資源のいずれもが不足している、とフール氏は言う。また、国主導の投資で海外資源を大規模に確保する日本の戦略をそのまま模倣することもできない。

最善策はアーノルド・マグネティックと同様、供給源を可能な限り多様化することかもしれない。

スイスはすでに、インドネシアなどの資源国との関係を強化している。インドネシアは、電池やクリーンエネルギー技術に使われる鉱物の主要生産国の一つだ。ギー・パルムラン経済相は2025年のインドネシア訪問時、原材料とサプライチェーンに関する協力強化に向けた予備的な意向表明に署名した。

ヒツェル氏によると、スイスと中国の間では、既存の自由貿易協定を基盤とした外交チャンネルが設けられつつある。このチャンネルを通じ、スイス企業が資材調達で直面する問題に対処する方針だ。

電気自動車のバッテリーなど廃棄製品から出る鉱物の工業的リサイクルも、「スイスが輸入重要原材料への依存を減らすための最も有望な長期的手段の一つになり得る」とフール氏は話す。

連邦工科大学チューリヒ校(ETHZ)の研究者たちは、電子廃棄物からレアアース元素を抽出する技術を開発し、そのプロセスを商業化するスピンオフ企業「REEcover」を立ち上げた。また、使用量の削減や希少元素の代替材料の開発、あるいはそれらに依存しない全く新しい製品の開発方法に取り組む研究者もいる。

とはいえ、こうした取り組みはまだ初期段階にあるか、問題の一部に対処するにとどまっている。

「パートナーシップは一般的に、世界市場のリスクや供給の混乱、地政学的緊張を取り除くことはできない」とフール氏は言う。「スイスの対応は、小国でありながら高度にグローバル化した経済国という固有の立場を反映したものでなければならない」

米国、中国、EUの対立が続き、トランプ氏が磁石へのこだわりを持ち続ける限り、世界の小国にとっては、それが実現可能な最善の対応策なのかもしれない。

編集:Tony Barrett/vm/gw、英語からの翻訳:宇田薫、校正:大野瑠衣子

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