The Swiss voice in the world since 1935
パーソナルフィード

ログインしてフィードにトピックを追加しましょう。

今すぐ登録
お気に入りリスト

ログインして記事を保存リストに追加しましょう。

今すぐ登録

ジュネーブとチューリヒ、移住先に選ぶなら?

言語、仕事文化、税制といった面で、ジュネーブとチューリヒは大きく異なる
言語、仕事文化、税制といった面で、ジュネーブとチューリヒは大きく異なる Keystone

不安定な世界情勢が続く中、スイスの2大都市、ジュネーブとチューリヒに移住者が集まっている。しかし、両都市の暮らしは大きく異なり、どちらを移住先に選ぶかは簡単ではない。

スイスは長年、安定した国として評価されてきた。英大手不動産コンサルティング会社ナイト・フランクの報告書によると、今年初めに中東で軍事攻撃が始まった後、数週間のうちにスイス国内の短期賃貸住宅への需要が急増した。とりわけ、ジュネーブとチューリヒというスイスの2つの主要な湖畔都市が「セーフヘイブン(安全な避難先)」として人々を引きつけたようだ。

外部リンクへ移動
FT

こうした動きは、近年増えてきた外国人不動産購入者のスイスへの移住に続くものだ。2011年から2024年にかけて、ジュネーブへの純流入数は86%増加した。同期間のチューリヒの伸びは5%にとどまったが、2024年にチューリヒに流入した人は約1万6000人と、ジュネーブの9000人を上回った。

ナイト・フランク住宅部門パートナーのアレックス・コッホ・ドゥ・ゴーレインド氏は「現在の世界情勢や紛争により、『セーフヘイブン』を求める移住が増えている。一貫して政治的中立を保ってきたスイスは、まさにその1つだ」と語る。

「強い通貨フラン、非常に低い金利、世界水準の教育制度、それにアルプスの美しさが加われば、スイスの根強い人気の理由がわかるだろう。パーティーライフを求めてジュネーブやチューリヒに来る人は少ないかもしれないが、そういう目的ならサンモリッツやヴェルビエに行くべきだ。自分や家族の安全、アウトドア中心のライフスタイル、過度な税金を課されない場所を求めるなら、両都市はその条件すべてを満たしている」

コッホ・ドゥ・ゴーレインド氏は「このように人々を引きつけてきた両都市だが、ジュネーブとチューリヒは驚くほど異なる」と続ける。「ジュネーブはフランス語圏で、国連本部や多数の大手商社が集まる外交の中心地だ。一方、チューリヒはドイツ語圏で、都市としてはるかに大きく、金融の中心地となっている」

そして、移住先を検討する上で非常に重要な点として、両都市の「税制」の違いを挙げた。

「ジュネーブには『フォルフェ・フィスカル(forfait fiscal)』と呼ばれる一括課税があるが、チューリヒにはない。この制度は、所得ではなく支出を基準にして課税するものだ。スイス国内で働いていない外国人居住者は、世界全体の所得や資産ではなく、生活費を基準に課税される選択肢がある」

スイスの所得税は、連邦税・州税・市町村税の3層から構成される。チューリヒから南へ23kmに位置する風光明媚な湖畔の町ツークが、近年、富裕層の移住者を不思議なほど多く引きつけている理由の一つはこの所得税だ。ツークはニューヨーク、ドバイ、ロンドンのような華やかな都市に比べたら地味な街かもしれないが、所得税率がスイスで最も低い州の1つだ。

連邦税はスイス全土で一律で、上限11.5%に抑えられているが、州税については26の州がそれぞれ独自の税率を設定でき、さらに市町村税も加算される。したがって、最終的な所得税率は、ツーク州の約22%からジュネーブ州の最高水準43%までかなりの幅がある。前述の一括税は、21の州で利用可能だ。

こうした税制に加え、スイスへの移住を複雑にしているのは、外国人による不動産所有を厳しく規制する制度があることだ。

「原則として、わずかな例外を除けば、住宅不動産を購入できるのはスイス国籍保持者か、スイス居住者に限られる。そのため、外国人が不動産を購入するには、居住許可を取得することが必須だ」と、高級物件の購入アドバイザリーを手掛けるプロパティ・ヴィジョン・インターナショナル提携先、ジュネーブ・ホームズのコリン・ウールコック氏は説明する。「居住許可には大きく分けて、2種類ある。1つはスイス国内での就労に紐づいた一般的なもの、もう一つはフォルフェ・フィスカルによるものだ。後者によりスイスへ移住した人々の多くは、1000万ポンド(約21億円)を超える住宅を購入している」

28年間ジュネーブに暮らす、南米出身で元銀行員のウールコック氏は、ジュネーブとチューリヒは良い競争関係にあると言う。「チューリヒはジュネーブの3倍の規模で、より裕福、スイスのビジネスの中心地だ。ジュネーブはもっと小さなリーグで戦っていて、リラックスした雰囲気だが、チューリヒはより組織的で整然としている。ジュネーブはヨーロッパの中心に位置し、何事もスムーズに運び、山にも近く、レマン湖畔での生活の質はとても高い。20〜30代の人達にとってジュネーブは、おしゃれで活気のある街ではないかもしれないが」と彼は笑いながら続ける。「その他の年代の人々にとっては素晴らしい街だ」

スイスの山岳リゾート開発を手がけるアンデルマット・スイス・アルプス不動産部門の最高経営責任者(CEO)で英国出身のラッセル・コリンズ氏は6年前、チューリヒ近郊のキュスナハトへ移住した。8歳と6歳の子どもたちはインターナショナルスクールに通い、コリンズ氏は毎日50分かけてアンデルマットへ通勤している。

おすすめの記事
高層ビルからの夜景

おすすめの記事

住める家がない 世界の各都市を悩ます住宅危機、有効な対策は?

このコンテンツが公開されたのは、 空き物権がない、あっても価格が高すぎる――世界各地で住宅危機が発生するなか、国や自治体がさまざまな対策に乗り出している。だが安易な介入は副作用もある。

もっと読む 住める家がない 世界の各都市を悩ます住宅危機、有効な対策は?

「チューリヒはグローバルな金融センターの雰囲気と、村のような温かさの両方を備えている」と彼は言う。「夏になると、仕事の前か後に湖畔のバディ(公共遊泳スポット)にひと泳ぎしに行くのがオフィスワーカーのお決まりの習慣だ。私たちも子供が学校から帰ると、家族でよく出かける」。そして、こう続けた。「チューリヒは本当の個性がある街で、キャリアと生活の質のどちらかを選ばなければならないと感じたことは一度もない」

コッホ・ドゥ・ゴーレインド氏は「チューリヒは、いつも雪があるアンデルマットに近く、冬の週末スキーには理想的な場所だが、スキー愛好家はむしろジュネーブを選ぶだろう」と言う。「ヴィラールやヴェルビエをはじめ、すぐ近くに素晴らしいスキーリゾートがある。フランスアルプスも近く、シャモニーやメジェヴもある。ただその分、週末は人々が山へ向かい、ジュネーブは静かだ。そういう意味でもチューリヒはジュネーブより活気がある。夕方は確実にイベントが多く、週末も人が多い」

ジュネーブは1960年代に国際バカロレア(IB)プログラムが初めて導入された場所だが、どちらの都市にも名門インターナショナルスクールが数多く存在する。また、両都市ともに国際線が充実した空港があるが、目的地や直行便の多さという点ではチューリヒが優位に立つ。しかし、興味深いことに、ジュネーブの居住者の方が国際色豊かだ。「外国籍を持つ住民は41%以上にのぼる」と、富裕層向け不動産アドバイザリーを手掛けるエンゲル&ヴォルカーズプライベートオフィス、ジュネーブ支店のアドバイザー、コスタス・ダンバシナス氏は指摘する。

ナイト・フランクによると、絶対額ではジュネーブの不動産の方が高額だが、価格上昇率ではチューリヒの方が高い。ジュネーブの最高価格は1㎡あたり2万6895フラン(約510万円)で、過去5年間に19%上昇。チューリヒは1㎡あたり2万5527フランで、同期間に27%上昇した。

スイス移住への需要が高まる一方で、質の高い優良物件の供給は賃貸、売買ともに不足している。「チューリヒの最大の制約は、物件が非常に限られていることだ。湖畔の一等地にある優良物件はめったに市場に出ず、出れば価格は高騰する」と、チューリヒの有力不動産会社ジネスタ・イモビリエンのCEO、クロード・ジネスタ氏は語る。「人口増加、外国人駐在員の流入、住宅不足によって、チューリッヒは逼迫している」

不動産評価の専門機関、ヴュースト・パートナーによる2026年第1四半期のデータによると、マンション物件はチューリヒの方がジュネーブより高額だ。

不動産価格は地域によって大きく異なる。ジュネーブでは、レマン湖左岸に位置するコロニーは右岸の一部で気になる飛行機・鉄道・自動車の騒音からも離れていて、最高級住宅地の筆頭だ。コッホ・ドゥ・ゴーレインド氏は「ジュネーブで1000万フランを超える住宅は、大半がコロニーかその近くのコロンジュ・ベルリヴ地区にある」と語る。「チューリヒで同等のエリアは、西向きのツォリコンと、いわゆる『ゴールドコースト』に位置するキュスナハトだが、売りに出される物件は極めて少ない状況だ」

エンゲル&ヴォルカーズプライベートオフィス、チューリヒ支店のマネージングパートナー、ニキ・トメット氏は「税制やそれぞれの地域の良さなどはさておき、最終的には国際的なスイスの2つの異なる側面のどちらを選ぶかということだ。ジュネーブには外交ネットワークがあり、チューリヒは経済・金融の中心地だ」と語る。

多くの場合、選択は仕事や経済的な事情によって決まる。トメット氏は「銀行やテック企業、企業本社などで働き、ヨーロッパ各地を飛び回って最大のビジネスチャンスを求めている人は、チューリヒを選ぶ」と続ける。「外交やコモディティ取引に携わり、フランス文化を好み、国際色豊かな社交環境を望む人は、ジュネーブを選ぶ」

米ワシントンからスイスに来た国連幹部は両都市を検討したが、ジュネーブの専門的ネットワーク、外交エコシステム、国際機関の集まりを理由にジュネーブを選んだ。一方、ベルリンから来たテック創業者は、チューリヒのベンチャーキャピタル・コミュニティ、連邦工科大学チューリヒ校(ETHZ)に代表される人材基盤、充実したイノベーション環境を理由にチューリヒを選んだ。ロンドンを拠点とする銀行員は、プライベートバンキングの伝統を持つジュネーブと、規模とキャリアの機会のあるチューリヒの両方を秤に掛けたが、最終的にはパートナーの機会と学校環境を重視してチューリヒに落ち着いた。

では、ジュネーブ、チューリヒのどちらもしっくりこない場合、他のどの都市が候補にあがるだろうか。

コッホ・ドゥ・ゴーレインド氏は「ルツェルンは楽しい街で、チューリヒから電車で45分、税制も悪くない」と言う。「ジュネーブ以外ならローザンヌも良いだろう。学生街で活気があり、丘が多いため体力は必要だ。ルガーノも最近よく話題に上る。スキー場からは遠くなりますが、イタリア的なライフスタイルとスイスの効率性を兼ね備えている」

そして、最後にこう述べた。「スイスへの移住は税金を逃れるためと批判されることがよくあるが、必ずしもそうではない。確かに富裕層を呼び込む税制優遇はあるが、人々を引きつけ、移住への大きな動機となるのは、安全とライフスタイルだ」

Copyright The Financial Times Limited 2026

英語からの翻訳:竹原ベナルディス真紀子、校正:大野瑠衣子

人気の記事

世界の読者と意見交換

swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。

他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部