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現代都市の姿をアートに映し出す ジアジア・チャン氏の芸術 

『鏡に映る自画像』(2016-2026)
『鏡に映る自画像』(2016-2026) Courtesy of the Artist

チューリヒを拠点に活動する中国出身のアーティスト、ジアジア・チャン氏の空間インスタレーション作品「Domestic News(国内ニュース)」が7月、米ニューヨークで公開された。万華鏡のようで意欲的なその作品は、映像、鏡、音声ナレーションや歌を用い、公共空間と私的空間の境界、テクノロジーや建築がどのように都市を形成していくのかを探っている。

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ニューヨークにあるスイス・インスティテュートの地下ギャラリーへ下りるとまず耳にするのは、コンクリートの階段室に響く、機械式掲示板の断続的なカチッ、カチッという音だ。掲示板には、色鮮やかなフラワーアレンジメントと真っ黒な無地の画面が交互に現れる。

この変わり続ける画像は、チャン氏が祖母の回顧録の中で読んだ、日中戦争中の日本軍による中国占領下の話に着想を得ている。祖母の記述によれば、窓辺に花が飾られている家は、秘密裏に政治活動集会を開いても安全な場所であることを示していた。花がなければそうでないことを意味していた。

飾り以上の意味を持つ花――ニューヨークで公開されたジアジア・チャン氏の空間インスタレーション作品の一部
飾り以上の意味を持つ花――ニューヨークで公開されたジアジア・チャン氏の空間インスタレーション作品の一部 Dan Bradica
花のない窓辺――第二次世界大戦中の日本軍による中国占領の記憶
花のない窓辺――第二次世界大戦中の日本軍による中国占領の記憶 Dan Bradica

このフレームに入ったディスプレイが、チャン氏にとって米国文化機関で初の個展となる「Domestic News(国内ニュース)」への入り口だ。階下のギャラリーは丸みを帯びた鏡張りの空間へと続き、5つのスクリーンに上海の風景が映し出される。背景には、歌や人の話し声が交錯するサウンドトラックが流れている。

チャン氏は都市の姿をありのままに描写するのではなく、現代都市の中でスペクタクル(視覚的な演出)や都市インフラ、日常生活がどのように絡み合っているのかを探る。

チャン氏はスイスインフォのインタビューで、展覧会のタイトルは人々が公的空間で「暗黙のコード化された言語」を通じてどのようにコミュニケーションを図っているか、そしてそこから生まれる変化の可能性を示唆していると語った。

「新聞というジャンルにおいて、『国内ニュース(Domestic news)』は非常に特異な分野だと思う」と言う。「私がより興味を持ったのは、この言葉が『domestic(家庭内の、国内の)』という私的なものと、『news(ニュース、公共の情報)』という公的なものの2つの要素から成り立っている点だ。この2つの領域の境界線は、時に曖昧になると感じている」

壮大かつ親密

スイス・インスティテュートの地下階に展示された空間インスタレーションの一部
スイス・インスティテュートの地下階に展示された空間インスタレーションの一部 Dan Bradica

展覧会に合わせ新たに制作されたインスタレーション作品は、映像、音、建築的要素を融合させ、現代上海の都市風景を万華鏡のように映し出す。

街の配達用バイクのドライバーたちに着想を得た、オートバイのサドル型スツールがある。腰かけると22分の映像ループが上海の街並みをクローズアップや広大なパノラマで映し出す。回転レストラン、夜の光にきらめく高層ビル群の頂上、ウェディングフォトを撮影するカップル、作業中の清掃員、交通の流れの中を行き交う人々、そして果てしないLEDスクリーンやデジタル広告の数々――。鏡張りの壁に反射して断片化するこうした光景は、壮大であると同時に親密さを感じさせ、絶えず変化し続ける上海のイメージを形作る。

鏡面にはデジタルスクリーンの映像だけでなくギャラリー全体も映る。スイス・インスティテュートのチーフ・キュレーター、アリソン・コプラン氏はこの空間を「多層的な空間環境」と表現する。映像に登場する人々と同じように、鑑賞者もまた「都市の建築、機械、そして情報の流れに包み込まれるような状態になる」と話す。同時に、窓や扉、反射は「その場所への出入り口」を暗示しているという。

映像
Courtesy of the Artist

映像はスイスの写真家、イジ・マコヴェック氏が撮影し、ロンドンを拠点とする作家、オレリア・グオ氏による音声テキストが添えられた。ナレーションは旅行記やニュース報道、法的文書など多様な資料を元に構成され、洪水やディアスポラの経験、結婚市場、そして革命への夢などが語られる。

サウンドトラックは映像の内容を直接解説するのではなく、映像と並走し、中国語と英語の間を絶えず行き来する。チャン氏は、近年多くの映像作品を制作してきたが、「このプロジェクトは、その空間的な形態や展示環境全体との一体感という点において、特に大胆な試みになった」と語る。

ジアジア・チャン氏のインスタレーション作品「Domestic News」で流れる映像の一部。2026年
ジアジア・チャン氏のインスタレーション作品「Domestic News」で流れる映像の一部。2026年 Courtesy of the Artist

鏡のように映し合う2つの都市

この作品はチャン氏が現在制作を進めている3章構成の大型映像プロジェクト、「Tables, Doors, Songs」(仮題)の一部だ。プロジェクトにはチャン氏の芸術的視点を形成してきた2つの都市、ニューヨークとチューリヒを扱った作品も含まれる予定だ。チャン氏は中国で生まれ、6歳の時に家族とスイスに移住した。建築を学んだあと、写真を究めるためにニューヨークに渡った。現在はチューリヒに住む。

この展覧会はチャン氏の建築的なバックグラウンドが随所に表れている。特に、都市の建築環境や垂直的な上下の動き、そして公共空間と私的空間の境界線への関心が強く反映されている。また、建築、文化、その他の側面における、上海とニューヨークの関係性について鑑賞者に思索を促す。地下ギャラリー内に広がる上海の新しい都市環境の洗練された輝きと、スイス・インスティテュートの正面入口の外に広がるニューヨークの街並みとのコントラストもその一例だ。

スイスで建築物を映像に収めるジアジア・チャン氏
スイスで建築物を映像に収めるジアジア・チャン氏 Mina Monsef

インスタレーション全体に広がる鏡面と同じように、「ニューヨークと上海は互いを映し合う関係にあり、どちらの都市がもう一方に影響を与えているのか判別しがたい時もある」とチャン氏は言う。「都市とは、本当にありとあらゆる事が起こる場所。もう1つの舞台としてニューヨークが存在することで、この2つの都市は即座に相互に映し合う関係になる。それは建築学的な側面だけではなく、何を追求しているのか、誰がその都市構造に参加でき、反対にどのような人々が排除されているか、という点にも表れている」

チャン氏は都市を「枠組み」として捉え、その中で構造的に何が起きているのかを探求している。展覧会では、文字情報や看板、広告、デジタルインターフェースがいかに都市環境を支配しているかや、テクノロジーが都市景観やそこを行き交う人々をどのように形成しているかにも焦点を当てる。

コプラン氏は、「ジアジアの作品で特筆すべきであり、ぜひ多くの人に見て欲しいのは、映像の中でデジタル技術や機械、広告がどのように機能していて、それが人間の経験の大部分に影響を与えているかという点だ。それは彼らにとっても、私たち全てにとっても、意識しているかどうかにかかわらず影響している」と話す。「ニューヨークから見れば、それは中国特有の異質なものに映るかもしれない。だが、そうしたものと自分自身の関わり方について、私たちが改めて考えるきっかけになるだろう」

「祝いの言葉」

このインスタレーションは始まりと同じ場所で幕を閉じる。そこにはライトアップされた噴水があり、「恭喜恭喜(ゴンシー・ゴンシー)」という歌が流れる。この楽曲は1945年の日中戦争末期に、日本軍による占領の終結と厳しい冬を乗り終えて春を迎えたことを祝うために作曲された。その後、中国本土では新年を祝う代表的な曲として親しまれるようになった。

チャン氏は、この楽曲は季節や年月、都市、国家、そして人生の循環を思い起こさせ、展覧会の多くのテーマと響き合っているという。作品全体が非常に断片的で、様々な方向へと展開していくため、この曲が全体をつなぎ留める役割を果たしているのかもしれないと付け加える。

「この新年の歌はよく耳にする曲で、誰もが知っている。その親しみやすさが、共有された空間を生み出し、上流と大衆の境界が一時的に消え去る。同時にこの歌は、1年という時間の循環、そしてその中でどのような物語が埋もれ、どのような物語が強調され、何が目に見えて、何がその循環の中に飲み込まれてしまうのかを問いかけている。この『歌』という要素はとても重要で、私たちが手掛ける別の章でも繰り返し使われる要素になるだろう」(チャン氏)

展示風景
Juhie Bhatia

編集:Catherine Hickley & Eduardo Simantob/ds 英語からの翻訳:由比かおり 校正:宇田薫

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