人工降雨で雨は増やせる?気象操作の限界と期待される用途
干ばつの深刻化を背景に、人工的に雨を降らせる技術への期待が世界各地で高まっている。しかしスイスの専門家は、必要なときに十分な量の雨を降らせることは難しく、干ばつの解決にはつながらないと指摘する。
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365日いつでもマッターホルンが見える――スイス南部ツェルマットの観光局長ダニエル・ルゲン氏は今年、このようなうたい文句を掲げた。同氏によると、スイスアルプスを望む同村は雲を散らす技術を活用し、この象徴的なランドマークをいつでも眺められる世界初の観光地になる。
毎年この名峰を訪れる数多くの観光客にとっては魅力的な話だ。しかし、ソーシャルメディアで公開された外部リンクこの発言は事実ではなく、エイプリルフールの企画だった。
もっとも、一部真実も含まれている。大気中に化学物質を散布し、雲の構造に影響を与えること自体は実際可能だからだ。この技術は雲を晴らすだけでなく、大気汚染の軽減や雹被害の抑制、降雨や降雪を増やす目的でも使われている。
この技術は「クラウドシーディング(雲の種まき)」と呼ばれ、約100年の歴史がある。スイスは、その研究の先駆けとなった国の1つだ。近年は、気候変動によって各地で干ばつが深刻化し外部リンク、利用可能な淡水資源が減少しているため、天候を人為的に操作する技術への関心が高まっている。
2025年には、干ばつの影響が地球上の陸地の約3分の1に及んだ。さらに2026年は、観測史上最も暑い年となる可能性がある。2000年代初め以降、スイスを含むヨーロッパの多くの地域では乾燥化が進んでいる。
>>下記の動画では、雲の形成と、クラウドシーディングによって雨が降るメカニズムを解説している。
「資源の無駄」
世界気象機関(WMO)によると現在、アメリカや中国、イランなど約50カ国がクラウドシーディングの実験に取り組んでいる。
ではこの技術を利用すれば、必要なときに雨を降らせることができるのか。連邦工科大学チューリヒ校(ETHZ)の大気物理学者、ウルリケ・ローマン教授は否定的な見方を示す。同氏は現在スイス国内でクラウドシーディングの実験外部リンクを主導し、雲の内部で起きる現象を研究している。
「多くの国が切迫した事情から人工降雨に投資している。土地の乾燥が進むにつれ、必要な降水量も増えているためだ。しかし、その効果は限定的だ。クラウドシーディングによって得られる水の量はごくわずかで、投入した資源に見合う成果は得られていない」
クラウドシーディングの仕組み
クラウドシーディングでは、雲の中に微細な粒子を散布する。粒子が凝結核となり、その周囲に水滴や氷の結晶が集まる。これが十分な大きさと重さになるまで成長すると、雨として、気温が低い場合には雪として地上に降る。
粒子は飛行機やドローンのほか、地上から発射する特殊なロケットで散布する。中でもヨウ化銀は結晶構造が氷に似ているため、最も多く使われている。
クラウドシーディングで使われるヨウ化銀は、数十gから数kg程度の少量であれば、問題はないとされている。自然界の土壌にも存在するためだ。ただし、同じ地域で長期的に使用した場合には、自然環境や人体に悪影響を及ぼす可能性がある。
人工降雨に適した雲はごくわずか
ETHZのローマン教授は、クラウドシーディングには形成された雲が必要であり、何もないところから雨を降らせることはできないと説明する。「我々は雲の微細構造を変え、含まれる水滴と氷の結晶のバランスを調整することはできる。しかし、雲の形成につながる気象条件を変えることはできない」
WMOは、形状や高度に基づいて雲を10種類外部リンクに分類している。しかし、その大半は薄すぎて降水をもたらさない。ローマン氏は「クラウドシーディングに本当に適した雲はごくわずかだ」と話す。
降水をもたらす代表的な雲は、上空へと発達して雷雨を伴う積乱雲と、低い高度に広がる暗灰色の乱層雲だ。「我々が干渉できるのは、雨が降る直前の雲だけだ」
人工降雨の成果
雲が存在する条件下では、人工降雨によって雨を降らせた事例もある。中国では、世界最大規模の気象改変事業を実施している。2014年以降、2万7000件以上のクラウドシーディング実験外部リンクを行い、投資額は20億ドル外部リンク(約3200億円)を超えた。
中国気象局は、2021年以降の人工降雨・降雪実験によって増えた降水量が、2025年末までに累計1680億トン外部リンクに上ったと報告した。これは、オリンピック用プール約6700万杯分に相当する。
アメリカやインド、パキスタン、イラン、アラブ首長国連邦、サウジアラビア、ロシア、タイ、オーストラリアなども、干ばつ対策の一環としてクラウドシーディングの実験や導入を進めてきた。最近では、インド政府が首都ニューデリーの大気汚染対策の一環で人工降雨を実施した。
雹被害の軽減
ヨーロッパでもクラウドシーディング事業は実施されているが、その規模はアジアや中東には及ばない。フランスやスペインでは、雹被害の軽減が目的だ。雲の中に粒子を散布すると、小さな雹が大量に形成されるため、大きな雹が少数降る場合に比べて被害を抑えられるという。
スイスは、この技術を雹対策にいち早く導入した。最初の実験は1950年代までさかのぼる。しかし、保険会社バロワーズが実施した近年の実験外部リンクを含め、同国の実験は効果が認められず、いずれも中止された。
効果の証明は困難
ETHZのローマン教授は、クラウドシーディングによって雨や雪を誘発すること自体は可能だと説明する。「ただし、それによって十分な量の降水が得られるわけではない」
例えば中国では、実験の対象地域が約500万㎢外部リンクと国土のおよそ半分にまで及んだ。そのため、局地的に見れば、実験によって増えた降水量はごくわずかだという。
さらに、その雨がクラウドシーディングによるものなのか、自然に降ったものなのかを厳密に区別することも不可能だ。「それを証明できる科学的データはない。比較対象となる全く同じ雲が存在しないためだ」
また、同氏は「クラウドシーディングは干ばつの解決策にはならない」と強調する。この技術は、降水のタイミングを多少前後させる程度にとどまるという。
水資源をめぐる対立の可能性
同氏は、人工降雨を目的としたクラウドシーディングには、利点を上回るリスクがあるとみる。大規模な気象改変(気候工学)と比べれば費用は抑えられるものの、広範囲で実施するには飛行機やドローンを多数投入する必要があり、費用は数百万ドル規模に膨らむ可能性がある。
さらに、ある地域で雨を降らせれば、別の地域の降水量が減る可能性がある。このことは地域間や国家間の緊張を生み、水資源をめぐる対立につながりかねない。「雲に含まれる水の量には限りがある。ある場所で雨を降らせれば、雲が移動する先の地域から水を『奪う』ことになる」
同氏によると、クラウドシーディングが成果を上げた数少ない事例は、環境汚染対策や雲を晴らす目的での活用だ。例えば中国は、2008年の北京オリンピック開会式が晴天となるよう、人工的に雲を晴らした。
「クラウドシーディングは、人工的に雨を降らせるよりも、雲を薄くしたり晴らしたりする目的の方が効果を発揮する」
もしツェルマットの観光局が、マッターホルン周辺をいつでも晴れにする構想を実現するなら、この見解は良い知らせと言えるだろう。
編集:Gabe Bullard / VdV、英語からの翻訳:本田未喜、校正:宇田薫
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