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シャーロック・ホームズ 根強い人気の秘密とは

写真左よりモリアーティ教授役のピーター・ホロックス、シャーロック・ホームズ役のフィリップ・ポーター、ワトソン役のチャールズ・ミラー。2026年5月3日、ライヘンバッハの滝におけるホームズとモリアーティの運命の対決を再現したイベントにて
写真左よりモリアーティ教授役のピーター・ホロックス、シャーロック・ホームズ役のフィリップ・ポーター、ワトソン役のチャールズ・ミラー。2026年5月3日、ライヘンバッハの滝におけるホームズとモリアーティの運命の対決を再現したイベントにて Copyright 2026 The Associated Press. All Rights Reserved

ある晴れた5月の朝。スイス・アルプスの澄んだ青空には時おり綿雲が浮かぶ。太陽は輝いているが空気は冷たい。殺人にはうってつけの天気――私たちは皆そう考えた。

私たちがこれから加担する殺人は、暴力的だ。しかし、衝動的な怒りによるものではない。それどころか長期にわたり準備されてきた。ここに集合するまでの数カ月間、私たちは様々な指示を受け取り、別名を用意することや変装することを促された。スイスと英国の政府機関が絡んでいたことは、後日判明した。一体、この件にはどれほど高い権威が関わっているのか。

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高いといえば、私たちが今待機している細い小道は標高2700フィート(約823メートル)にある。道の脇には滝があり、はるか頭上の岩の割れ目からほとばしり出た水は、数百メートル下の滝つぼめがけて落下する。足を滑らせれば一巻の終わりだ。私たちの前には男が2人立っている。1人はタキシードにシルクハット、黒いマントと、19世紀ならばオペラにでも出かけそうな身なりをしており、もう1人はツイードのケープに鳥打帽といういでたちだ。不意に叫び声が上がり、シルクハットの男が襲いかかる。お互いを押し出そうと、崖っぷちでの揉み合いが始まった。

ほどなくして鳥打帽の勝利かと思われたその時、2人は取っ組み合いを止めた。そして服装の乱れを整えると、また一から戦い始めた。テレビニュース用にできるだけ良い映像を撮るためだ。そう、これは私たちロンドン・シャーロック・ホームズ協会が10年に一度開催する、ライヘンバッハの滝への巡礼の一幕なのだ。

ライヘンバッハの滝は1891年、我らがヒーロー・ホームズが、宿敵ジェームズ・モリアーティ教授(別名「犯罪界のナポレオン」)と組み合ったまま、死へと転落した場所だ。これを記念して私たち約60人は、3日間にわたりビクトリア朝風の服装でスイスを巡っている。ばかげている、と思う気持ちも心の片隅にはあった。自分はそこまでホームズにハマってはいないではないか。シルクハットとフロックコートの下で汗をかきつつ、私はそう自問した。

とにかくここへ到着した私は、参加の理由を「アーサー・コナン・ドイル卿の創作物が残した巨大な文化的足跡への関心」で通した。ホームズの兄マイクロフトは1893年の作品「ギリシャ語通訳」で「どこにいてもシャーロックの名を耳にする」と言ったが、確かに彼は誰よりも正確に将来を予言していた。

ホームズは、スクリーン上で演じられる架空の人物としてはサンタクロースやドラキュラと並んで常にランキングの上位を占める。ホームズ物を読んだことがない人でもそれが誰かは知っている。私たちがホームズを目にする機会はこれからさらに増えるはずだ。というのもドイル作品の著作権が切れ、誰でも自由に脚色できるようになったからだ。

現在放送中の作品には、ホームズの相棒が現代を舞台に再び医師として働き始めるシリーズ「ワトソン」と、ガイ・リッチー監督による、いかにもガイ・リッチーらしい演出の「ヤング・シャーロック」がある。来年にはレイフ・スポール主演の「The Death of Sherlock Holmes(仮訳:シャーロック・ホームズの死)」も公開される。以上はテレビシリーズのみだが、シャーロック・ホームズ・マガジン編集者のエイドリアン・ブラッディー氏によると、同誌が書評で取り上げるスピンオフ小説は年間80本以上に上るという。また、ベイカー街の目と鼻の先にあるリージェントパーク野外シアターでは先日、新しい演目「シャーロック・ホームズ」がスタートした。

これらに加えて現実世界の足跡もある。地下鉄ベイカーストリート駅構内の、一目でそれと分かる横顔を描いたタイル絵だけではない。駅の外にも彫像が立つ。世界で少なくとも5体あるホームズ像の1つだ。先月私が訪ねたホームズゆかりのミュージアムは3カ所を数え、昨年はレゴからホームズ・セットが発売された。

だが、ホームズの奇妙な一生で最も個人的興味をそそられるのは、これらとは別の一面、すなわち人々がホームズ宛てに手紙を書くという現象だ。最も古い手紙の記録は1890年にさかのぼる。送り主はフィラデルフィアのたばこ屋で、たばこの灰についてのホームズの著書(ホームズは、140種類を区別できると豪語していた)を1冊送ってほしいという内容だった。人々は長い間コナン・ドイル気付でホームズに手紙を送った。ドイルはホームズの住所をベイカー街221Bとしたが、ここまで大きい番地は当時存在していなかったのだ。ところが1930年初め、2つのことが起こった。1つ目は、市当局がベイカー街の延長線上にあった道路区間をベイカー街に統合することを決め、北側に200より大きい番地を付けたこと。2つ目は、アビーロード住宅金融組合がベイカー街に新しい本社を建て、そこに219から229までの番地が割り当てられたこと。つまり、実質的に221Bを含む区画が出現した。1935年、最初の手紙が同行に舞い込んだ。

金融組合側はお遊びに付き合う程度の軽い気持ちで返事を出し始めた。それが、結果的には長期にわたる活動につながった。手紙係の秘書は、ホームズ氏は本にも書かれているようにサセックス州で引退生活を送っています、としたためた。手紙は何十年もの間大量に舞い込んだ。手紙の内容はスピーチをしてくれというもの、サインが欲しいというもの、そしてもちろん事件を解決してほしいものなど様々だった。今日も手紙は届き続けている。ただし、(金融組合の後身である)アビー・ナショナル銀行がスペインのサンタンデール銀行の傘下に入ってからは、受取人は同じ通りにあるシャーロック・ホームズ・ミュージアムに変わった。

さて、ここでこの件における自分の利害関係を明らかにしなければなるまい。実は私は近々小説シリーズを出版する。その物語が、現代においてホームズへの手紙をさばく秘書が手紙に書かれた事件の解決に乗り出す、という設定なのだ。秘書は自分のヒーローのやり方を真似るが、もちろん本を読んで想像したほどことはうまく運ばない。

小説の下調べを始めてすぐに知ったことだが、ホームズを使って楽しんでいたのはアビーロード住宅金融組合だけではなかった。1930年代には著名作家らのグループにより「ザ・ゲーム」なるものが考案されていた。ルールはシンプルで、ホームズを実在の人物に見立て、物語から読み取れる範囲で彼の生涯の様々な事実を集めようというものだ。

「ザ・ゲーム」は当初、風刺的神学の試みだった。福音書にみられる矛盾は別の作者によって書かれたことの証明だ、と主張する聖書学者らを茶化してやろうと、ロナルド・ノックスというカトリック神父兼探偵小説作家がホームズシリーズにおける矛盾を論ずるエッセイを発表したのが始まりだ。コナン・ドイルは、執筆のスピードが速い一方で細部のチェックには弱かった。そのためワトソンは、その時々で独身だったり、既婚者だったり、あるいはやもめ暮らしだったりする。戦争で負った傷もその性質と場所が時と共に変化した。これらを根拠にノックスは、ホームズシリーズを同一人物が書いたことはあり得ないと断定し、作者2人説を主張した。

ノックスが何を意図していたにせよ、その説は反響を呼んだ。そしてこうしたテーマを議論する場として英国にシャーロック・ホームズ協会が設立された。ホームズの熱狂的ファンであるミステリー作家ドロシー・L・セイヤーズは「これは英米でも選りすぐりの冗談好きな人々の道楽になった」と書いた。「ローズ(訳註:ロンドンにあるクリケットの聖地)で行われるカウンティ・クリケット大会のように厳粛にプレイすべしというのがこのゲームのルールだ。ほんの少しでも誇張や茶化しが入れば雰囲気を壊す」

「恐ろしい場所」

私たちのスイス旅行もこの精神に則り行われた。参加者は全員、ホームズシリーズ(別名:正典)から登場人物を選んで扮装するよう指示された。旅行中はずっとその扮装で過ごす決まりだ。それを知って私はためらった。だが、執筆予定のシリーズの下調べには絶好のチャンスだと自分に言い聞かせた。私の主人公は寝ても覚めてもシャーロック、という設定なのだ。

そのうち、選んだキャラクターを申告せよとの催促が届いた。これ以上は先延ばしできない。作品を一通り調べたところ、「ブルース・パーティントン設計書」に出てくるバレンタイン・ウォルター大佐という悪党が「背がとても高くハンサムで、薄いヒゲを生やした50代の男」と描写されており、この設定のうち3つは自分にも難なく再現できそうだと分かった。

集合場所はローザンヌだ。私は、ホームズにならい鉄道でスイスに向かった。ホームズのスイス行きは、悪党モリアーティの追跡を振り切る試みだった。私のスーツケースは普通5日間の旅に選ぶものより大きかったが、フロックコートを入れることがそもそも普通ではない。ホテルの部屋でコスチュームに着替えた私は、鏡で自分の姿をチェックした。我ながらなかなか粋だ。その一方で滑稽ではないかという不安も浮かんだ。これまで3人の首相にインタビューを行いチヌーク(訳註:軍用大型輸送ヘリコプター)でカブールに飛んだ人間として、私は真面目に扱われることを要求する。

少なくともロビーで仲間を見つけるのは簡単だった。女性陣はかさばるドレスに身を包み、男性陣はロイヤルアスコット(訳註:英王室主催の競馬イベント)さながらのいでたちだ。唯一の例外はケンブリッジ大ラグビー部員に扮した男性だった。そう、「スリークォーターの失踪」のキャラクターだ。グループの人々に対してはすぐに親しみの感情が湧いた。最近は、どのような集まりでも自分が最年少の1人だとそうした気持ちになる。それでも自分は真の意味では仲間ではないのだからと、距離を置くため1人柱に寄りかかった。そんな自分の姿が鏡に映っているのがふと目に入り、シニカルで超然とした態度というものは、シルクハット姿では演出し難いことを悟った。

そんな私に1人の女性が勢いよく近づいてきた。「私たちもうワクワクしてしまって!あなたはどのキャラクター?」。その勢いに気押された私は答えを忘れてしまった。「一度役を頂戴したら、それを手放すことはまずないね」。そう話しかけてきたのはモリアーティに扮した男性だ。この男性は見事なまでに邪悪な雰囲気を漂わせていたが、後になって普段は法廷弁護士なのだと知った。

知名度的にはホームズに勝るとも劣らないモリアーティだが、実際に登場するのはたったの2作品だ。ドイルは、スーパー探偵にふさわしいスーパー悪党としてモリアーティを「最後の問題」に登場させた。1893年までに長編2本と短編集2本を発表した作家は、自らが生んだ探偵にうんざりしていた。彼自身は歴史小説を自分の代表作とみなしており、ホームズ物がこれらの存在をかすませていると感じていた。

スイス旅行でライヘンバッハの滝を訪れた時ドイルは、ホームズを死なせる方法を探していた。ライヘンバッハの滝は、水が「途方もない深淵へと落ちて行く」「恐ろしい場所」であり、ホームズが宿敵と格闘の末英雄的な最後を迎えるにぴったりな場所だった。

ライヘンバッハの滝でつかみ合うホームズとモリアーティ
ライヘンバッハの滝でつかみ合うホームズとモリアーティ Copyright 2026 The Associated Press. All Rights Reserved

今や水の大半が水力発電に回されることもあり、滝の水量はかつてほど圧倒的ではない。そもそも水があること自体、当局が私たちの訪問のためにやむを得ず戻したからだとの噂も立った。当日は英国大使館からも1人がオブザーバーとして参加した。目の前の光景を真に受けてホームズとモリアーティを深淵に追う者が出た場合に備えたのかもしれない。

この時点では凝った服装にもすっかり慣れた私だが、旅行2日目にはディナーのためホテルに戻りタキシードに着替える時間を確保したところ、今夜はホワイトタイ(訳註:最上級の正装)だとモリアーティに教えられることもあった。イベントの参加者は主に男性だ。だが、男性のみではない。ターナー夫人に扮するヘザー・オーウェンさんがいる。ターナー夫人は編集上のミスが生んだキャラクターで、「ボヘミアの醜聞」を書いた時、ドイルは、ホームズの下宿の女主人の名前がハドスン夫人だということを失念していた。古参メンバーであるオーウェンさんは、このイベントは「全員で作り上げるゲーム」だと話す。彼女にとっては後期ビクトリア朝のスタイルを体験できるのも魅力だ。「それは1つの時代の縮図なのです」

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他の女性たちはパートナーに頼まれての参加であることを認めた。米国在住のジョーン・ブランクスティーンさんは、身につけたビクトリア朝風ドレスを指しつつ「離婚することにでもなったら、私がどれだけのことを耐えてきたかを裁判官に見せてやる」と冗談めかした。一方、夫のチャールズさんは、彼が扮する「空き家の冒険」の登場人物でホームズを殺そうとしたセバスチャン・モラン大佐が使ったであろう空気銃のタイプについて熱弁を振るっている。チャールズさんの枕元には子どもの頃から必ず「正典」が置かれているという。

1903年に出版された「空き家の冒険」は、ドイルが読者の声に屈してホームズを生き返らせたストーリーだ。世間がドイルに求めているのはホームズ物だという事実を受け入れたという意味で、作家にとっては敗北を意味した。だが、いずれにせよホームズの復活は最初から考慮に入っていたのかもしれない。「最後の事件」においてホームズの遺体が結局見つからなかった点は、注目に値する。ホームズ復活への道を残すからだ。

スーパーヒーロー第1号

ホームズの死への反響は凄まじかった。ロンドンの人々は喪章を付けて街を歩いたと伝えられる。ドイルの元には誹謗の手紙が届いた。もしもティーンエイジャーがテイラー・スウィフトやハリー・スタイルズと実際に知り合いであるかのように思い込む、いわゆるパラソーシャル関係を現代の現象と考える人がいるならば、再考すべきだろう。

第二次世界大戦による活動休止を経て1951年に改めて設立されたシャーロック・ホームズ協会の存在自体が、その証だ。本来、文学関係の同好会は、登場人物ではなく作者を対象とする。

シャーロック・ホームズ役のフィリップ・ポーターとアイリーン・アドラー役のジュリー・ポーター
シャーロック・ホームズ役のフィリップ・ポーターとアイリーン・アドラー役のジュリー・ポーター Copyright 2026 The Associated Press. All Rights Reserved

私は、話をした人全員にホームズの魅力を尋ねた。カナダから来たローラ・スパークスさんは、ホームズは「欠点の多いところが良い」と話した。その他、ホームズを観察と推理というパワーを備えたスーパーヒーローのはしりとみる人たちもいる。ホームズは時代の産物だった。物語は、後期ビクトリア朝らしい技術や未来への楽観的見方に満ちている。ホームズの科学的アプローチ法は、世界は知り尽くし、理解し、意のままにできる、という信条を体現している。

そしてもちろん物語自体の魅力がある。執筆から出版まで7週間足らずという「バスカヴィル家の犬」は、現代のハリウッド作品よろしく3幕構造でぐいぐいと展開する、お手本のようなスリラー作品だ。ストーリーは「フーダニット(誰が犯人か)」ではなく――悪党の名は物語の3分の2の時点で明かされる――「ハウダニット(どのようにして行ったか)」を軸とする。つまり、湿地を徘徊する謎の獣とは何かを探るミステリーだ。元ハリウッドの脚本家でベストセラーとなった「シャーロック・ホームズの事件簿」シリーズ全6巻の作者ボニー・マクバード氏は、ドイルのスタイルについて「奇妙なことにほとんど映画的。同時代の作家らとは異なり、対話を多用する一方で情景描写は簡潔且つ記憶に残りやすい。場面設定は手際よく済ませ、映画のように迫力ある語り口でアクションを展開する」と分析する。

しかし、なんと言ってもファンの心をとらえるのはホームズとワトソンの関係性だ。対照的だが切っても切れないこの2人組は、文学版バディ・ストーリーの傑作の1つに数えられる。ワトソンの人生には名前すら与えられない妻が5人ほど現れては消えるが、ホームズのポジションは不動だ。

リージェントパーク野外シアターで芝居の脚本を担当するジョエル・ホーウッド氏は「ホームズはきわめて完成されている。そんなキャラクターを描き込めることは喜びでしかない」と話す。「コナン・ドイルが作ったおもちゃで遊ぶようなものだ。最も難しいのは、ホームズが当然のことながら完全にオーディエンスのものだという点。ホームズというあまりにも愛されるキャラクターを作り出したドイルは、彼を死なせることすらできなかった」

ドイルの生存中すらホームズは彼だけのものではなかった。例えばあのシルエットも、特徴的なパーツは他人が考案したものだ。ホームズに鳥打帽をかぶせたのは、当時ホームズシリーズが連載されていた雑誌ストランド・マガジンの挿絵家シドニー・パジェットだったし、ホームズの口にカーブを描くパイプをくわえさせたのは、舞台でホームズを演じた俳優ウィリアム・ジレットだった。

シャーロキアンと呼ばれる熱心なホームズファンにとって、映画化は功罪相半ばする。ベネディクト・カンバーバッチが主役を演じたBBCの現代版シリーズは、熱心なファンへのサービスを脚本に仕込んだ。例えば初回放送分では、ワトソンの傷が場所を変えるという、原作の矛盾をめぐるエピソードが盛り込まれている。「ヤング・シャーロック」について協会メンバーの反応は控えめに言って「賛否入り混じる」。だが、翻案者の側には作者からの許可という大義名分がある。ホームズを結婚させても良いかと俳優のジレットに尋ねられたドイルの答えは「結婚するなり殺すなり、君の好きにしてくれ」だった。

こうした話題を夜更けまでホテルのバーで語らううちに、私は自分の客観的オブザーバーという立ち位置が自己欺瞞であることに気が付いた。20年前妻がグラナダTVの古典版シリーズのDVDをプレゼントしてくれたこと、携帯電話を新調してまずダウンロードした書籍がホームズシリーズだったこと、息子が生まれたその日に「ボヘミアの醜聞」を読んでいる自分の写真があること。これらには全て理由があった。そしてそんな人間はたくさん存在する。ライヘンバッハの滝の縁でホームズとモリアーティが撮影用に取っ組み合いをするのを見ていた時、鳥打帽をかぶった若い中国人女性が角を曲がってやってきた。マンチェスター大学の学生で、自分のヒーローの死に場所に1人で巡礼するためこの週末を選んで来たという。自分のヒーローが現実の姿となって目の前にいるのを見て、彼女は言葉を失った。生みの親が彼を殺そうとしてから1世紀あまり。シャーロック・ホームズは今日もまだ、人々にそうしたインパクトを与え続けている。

Copyright The Financial Times Limited 2026

英語からの翻訳:フュレマン直美、校正:大野瑠衣子

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