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AIは雇用を奪うのか?スイスのクリエイティブ産業で高まる不安

アトリエで働く女性
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人工知能(AI)による飛躍的な経済効果が期待されるスイスでは、クリエイティブ産業で働く人たちが窮地に立たされている。AIの登場により世界中の雇用市場が地殻変動を起こす中、そのメリットとデメリットが見えてきた。

複数の調査によると、スイスは欧州諸国と比べ最もAIの恩恵を受け、GDP(国内総生産)が11%も成長する可能性がある。特に成長が予想されるのは金融および製薬業界で、その他の分野でも変革が見込まれる。ライターやプログラマー、ビジュアル・デザイナーといったクリエイティブかつ高度な技術を求められる職種の人たちは、既に大きく変わりつつある雇用市場の影響を如実に感じている。

ハーバード・ビジネス・スクールの研究者、オズゲ・デミルジ氏は、「生成AIの登場は、テクノロジー分野で近年最大級のショックを与えた。人々や企業への影響は避けられない」と言う。生成AIがフリーランスの職種に与える影響について、同氏がスイスを含む200カ国以上で行った国際的な調査外部リンクでは、対話型AI「Chat(チャット)GPT」の登場からわずか8カ月で、ライティングとコーディングの仕事が2割消滅していた。また、画像制作の仕事も2割弱減少した。「生成AIは非常にダイナミックな技術なので、ほぼ全ての職種が影響を受けるだろう。問題は、誰が最もうまく適応できるかだ」

研究では、フリーランス業務の仲介を行う大手プラットフォームの大規模なデータベースを分析し、その結果とグーグルの検索トレンドをChatGPTが登場する前後で比較した。デミルキ氏らは、「ChatGPT ライティング」や「ChatGPT コーディング」といった検索ワードが、他のタイプの業務と比べて著しく上昇していることを指摘し、「これが需要減少の説明になるかもしれない」とした。

同じことがスイスでも言える。デジタル改革を巡る問題に取り組むチューリヒ大学の学術機関「デジタル・ソサエティ・イニシアチブ(DSI)」が行った調査外部リンクでは、回答者のほぼ4分の3が、教師やウェブデザイナー、ジャーナリストなどの仕事をAIに任せる準備があると回答した。また、これらの産業に従事する回答者は、大工など力仕事中心の回答者より、職場でChatGPTを活用することに前向きだった。

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「イラストレーターとして23年のキャリアを持つ私が、AIに置き換えられた」

ChatGPTの市場投入から2年も経たずして、スイスのクリエイティブ業界では既に生成AIに仕事を奪われたという声が出始めている。スイスの2大メディアグループの1つ「リンギア(Ringier)」が出版する週刊紙で20年以上働いたフリーのイラストレーター(匿名希望、女性)は、swissinfo.chの取材に対し、昨年7月以降、自分の仕事は生成AIが作成するコンテンツに置き換えられたと語る。会社から送られてきた英文の契約解除通知書もChatGPで作成されたようなものだったと言う。「23年もいた私に個人的なねぎらいの言葉もなく、ChatGPT任せの文書を使ったことが腹立だしい」

女性によると、同週刊紙は契約解除後、AIが作成した画像やコラージュを掲載し始めた。ここ数年、収入が着実に減っていることには気づいていた。以前はイラスト1枚で1千フラン(約17万円)だったギャラが、今や2枚で400フラン。「生き残りが厳しくなっていたのは確かだが、ここまで早く交代させられるとは思っていなかった」

一方、リンギア側は、フリーランスへの外注業務をAIに置き換えたり、AIで作成した文書でスタッフを解雇したりする事実はないと否定。効率アップのために見出しを提案させたり、外部ソースから記事の草稿を書かせたりすることはあっても、人事通達にAIを使うことはないとswissinfo.chに回答した。

ロボットのイラスト

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AI作成のビジュアルに切り替える企業が増加

画像生成をAIに任せる企業が増えるにつれ、クリエーターはますます追い詰められている。スイスの下着ブランド「カリダ(Calida)」は最近、生成AI技術の限界と可能性を探るため、AIが作成したビジュアルを使った「テストキャンペーン外部リンク」を実施した。他の国際的なファッションブランド外部リンクも同様のキャンペーンを展開しており、人間のデザイナーがほぼ、あるいは全く関与せずに作成されたイメージ画像を使っている。これに対し世界中のビジュアルアーティストらは、自分たちの作品を同意なしに、著作権料を払うこともなくAIの画像生成トレーニングに使用したとして、AI企業を訴えている外部リンク

フリーランスで医療・科学デザイナー兼イラストレーターの仕事をするスイス人、タマラ・エップリ氏も、こうした変化を実感している。仕事と賃金が減ったのは、厳しい経済状況下で企業がコストを切り詰めたのが主な原因としつつ、AIがもたらす脅威も認める。

自身も、ブレインストーミングや翻訳、ライティング、コーディングなどによくChatGPTを活用するというが、AIで満足のいく画像を生成するのはまだ難しいと話す。「安定した結果を出せないことが多く、それをコントロールするのがとても難しい」

パソコンでイラストを描く女性の後ろ姿
医療・科学デザイナー兼イラストレーターのタマラ・エップリ氏も、AIがもたらす変化を実感している tamaraaepli.ch

AIはジャーナリストの敵か味方か?

AIはジャーナリストやライターといった職種にも影響を与えている。スイスの大手メディアグループに勤めるフランス語圏のジャーナリストは、自分の業務が今後はAI翻訳で処理されるため、お払い箱になったと話す。「私が記事を書かなくても、ドイツ語ジャーナリストの記事を自動翻訳ツールでフランス語に翻訳し、外部の人間にチェックさせれば済むと言われた」と匿名を条件にスイス通信(Keystone-SDA)に語った。スイスの小売り最大手ミグロが発行する広報誌「ミグロマガジン(Migros-Magazin)」に執筆するフランス語圏のジャーナリスト数名も同様の懸念を表明している。

フリーランスの科学ジャーナリスト、マルティナ・フーバー氏は、最近の厳しい局面は直接的にはAIのせいではなく、報酬の低下と、メディア組織がフリーランスに正当な報酬を支払うことなくコンテンツを置き換える傾向が強まっているせいだとしている。それでも、AIは決して自分の仕事を完全には置き換えられないと確信する。「AIには『真実』の概念がない。そのため常に人間が正当性をチェックする必要がある」

フーバー氏はこれまで、インタビューの文字起こしといった手間がかかる作業の時間短縮にAIツールを使ったことがあるが、感想はおおむね肯定的だった。

全体的な影響はまだ不透明

AIが労働市場に与える影響について研究するベルン大学のクリスティアン・グシュヴェント氏は、生成AIを巡る体験を異質に感じるのは極めて普通だと話す。「ChatGPTのようなソフトウェアの影響が、全体として労働者にプラスになるのかマイナスになるのかはまだ不透明だ」。また、生成AIは雇用の喪失につながる反面、生産性の向上や新たな雇用の創出にもつながると予測する。

生成AIは、肉体労働者より、主に高い教育水準と専門性を持つ労働者への脅威だ。だが同時にチャンスでもある。

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「AIの浸透が進む多くの職種でも、労働者がAIをうまく活用し、仕事の質を向上できれば、必ずしも完全に置き換えられるとは限らない」とグシュヴェント氏は言う。その一方で、失業リスクの軽減には、AIに置き換えられる可能性のある労働者のスキル強化に向けた政策が必要だと国際通貨基金(IMF)の最近の調査外部リンクは示唆している。

スイスの労働者は、AI技術を巡る職場の変化に対応するため、失業リスクの低い職種を優先し始めている。約6千人を対象に行われた調査外部リンクによると、スイス国民は、自動化による置き換えリスクが低く、より雇用が安定した職に就けるなら、収入が2割低くてもあまり高い技能を必要としない分野で働いても構わないと考えている。かつてリンギアから業務委託を受けていたイラストレーターの女性も、失業リスクが低めの異業種も視野に入れて求職中だ。「イラストレーションでは生計を立てられない。AIのせいで、クリエイティブな仕事としてのイラストレーションは死んだ」

編集:Veronica De Vore/gw、英語からの翻訳:シュミット一恵、校正:大野瑠衣子

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