物価高騰を抑えるため、スイス国立銀行(中央銀行)は為替政策の修正を余儀なくされている
© Keystone / Ti-press / Alessandro Crinari
スイス国立銀行(中央銀行、SNB)の外貨購入が衰えている。根強いフラン高は輸出企業にとって痛手だが、インフレ抑制には通貨高を容認するしかないためだ。
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SNBが今年1~3月に外国為替市場で購入した外貨は57億フラン(約8千億円)相当と、前の期の126億フランから減少した。
SNBの外貨買い・フラン売り介入は年々規模が縮小している。21年通年では211億フランと、コロナ禍が深刻だった20年の1100億フランを大きく下回った。
5月末時点の外貨準備高外部リンクは9590億フランと、21年末の9660億フランからやや減った。
SNBは先月16日、インフレ率の急進に備えて政策金利をマイナス0.75%から0.25%に引き上げた。トーマス・ジョルダン総裁は同日、「現在の環境は、為替相場の動きを踏まえても不確実性が大きい。フランが過度に上昇した場合には外貨を購入する構えだ。だがフランが下落すれば、外貨の売却も検討する」と述べた。
「SNBは成り行きを注意深く観察し、スイスの物価が中期的に安定するようあらゆる状況で必要な措置を講じる」
その後、フランは対ユーロで緩やかな上昇を続けている。市場関係者は、SNBがインフレ抑制に政策転換したことを反映した値動きだとみる。
インフレ率は約30年ぶりの高さに
スイスのインフレ率は他国に比べ低かったが、ここへきてじわじわと上がりつつある。5月の消費者物価指数(CPI)上昇率は総合で前年比3.4%と、燃料高を背景に1993年以来の高さに達した。SNBは2022年通年のインフレ率見通しを2.9%と、3月時点の2.2%から引き上げている。
米国の8.6%や英国の9%超と比べると、スイスの物価上昇は抑えられている。フラン高が輸入物価の上昇を一部相殺するためだ。
クレディ・スイスはSNBが年内に再度利上げし、「外貨買い介入を停止する可能性が高い」と指摘する。「ただフラン相場が実質的に上昇しない限り影響は限られるため、為替介入でインフレを抑えることは現実的ではないとみている」。1ユーロ=0.80フラン前後にフランが下落しない限り、インフレ率を2%未満に抑えることはできないという。
同社はSNBが最後に外貨準備を売却したのは2019年末で、1ユーロ=1.04フランを上回ってフラン高が進むと再びフラン売り介入に踏み込む可能性があると分析する。
一方、フラン高はスイスの輸出企業や観光業界にとっては重荷になる。
英語からの翻訳:ムートゥ朋子
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