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ダボス会議16日開幕 世界の抗議運動を止められるか

ブラジル議会の窓
今月8日に起きたブラジルの議会襲撃事件は、社会のもろさを改めて浮き彫りにした Keystone / Andre Coelho

世界景気の後退が懸念される2023年。16日に開幕する世界経済フォーラム(WEF)の年次総会、通称「ダボス会議」に参加する経済エリートたちは、各国に広がる社会不安を止められるのか。

2022年は燃料・食料の高騰により、世界各地で抗議デモや労働闘争が活発になった。スリランカや英国、ペルー、ブラジルでは国民の不満が政権交代につながり、今月8日にブラジルで起きた議会襲撃は2021年に米国で起きた同様の事件を想起させる。

「人々は社会に不満を抱き、なぜ協力するのか疑問に思い始めている」。米国の「パトリオティック・ミリオネアズ」のモリス・パール代表はこう語る。富裕層のためのコミュニティーでありながら、不平等撲滅のために富裕層にもっと課税すべきだと訴える団体だ。

「人々が怒るのは当然だ。システムが自分たちの不利になるように操作されていると考えていて、実際にそうなのだから。私たちは、富裕層が自発的に変わらない限り、石を投げて行進している彼らが代わりに物事を変えてしまうのではないかと恐れている」

エコノミストらは、世界中で家計への負担と痛みが増していくと予測する。

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国際通貨基金(IMF)は世界経済の3分の1が2023年に景気後退に陥る可能性があると警鐘を鳴らす。インフレ率は6.5%と22年の8.8%(予測)から伸び悩むとみるが、クリスタリナ・ゲオルギエバ専務理事は1日、米CBSテレビで「世界経済の大部分にとって厳しい、昨年よりも厳しい1年になるだろう」と語った。

貧困がさらに拡大

WEFの年次総会「ダボス会議」には毎年2500人の政財界エリートが参加し、50年以上にわたってスイスのスキーリゾート、ダボスの地で多くの危機を乗り越えるべく議論を交わしてきた。

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ダボス会議って?10の疑問に答えます

このコンテンツが公開されたのは、 毎年1月、スイス東部のダボスで開かれる世界経済フォーラム(WEF)の年次総会(ダボス会議)。世界のビジネスリーダーや首相らが一堂に会する会議だが、会議の参加費やメンバー企業の年会費はいくらなのか。また開催国のスイスは警備に一体どれくらいの予算を投じているのか。スイスインフォが調べた。 1.WEFとは  本部はジュネーブ。経済学者クラウス・シュワブ氏が1971年に非営利団体として創設。当初は欧州企業の経営力向上が目的だったが、現在では経済、環境など多様なテーマを議論する場に発展した。加盟企業はパートナー、メンバーの種別があり、WEFに年会費などとして出資している。 2.パートナーとは

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だが今回は、「世界をよくするために対話する」というWEFのミッションを達成するために、何から手を着ければいいのか分からない状態だ。

各国が2年間にわたる新型コロナウイルスのパンデミックに伴うロックダウンの余波を引きずる中、中国が国境を開いたためにウイルスが再び猛威を振るうとの懸念が広がる。

ロシアのウクライナ侵攻による犠牲が減る兆しはなく、エネルギー・食糧価格を押し上げている。

このため消費財の価格高騰に歯止めがかからず、世界各地で経済的に困窮する人が増加中だ。

国際援助NGOのオックスファム・インターナショナルは昨年5月のダボス会議で、パンデミックやインフレ、ウクライナ戦争によって、世界で2億6300万人が貧困に追い込まれると警鐘を鳴らした。

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オックスファムは低所得者ほど生活費の上昇による負担が大きいため、不平等が拡大し、社会的分裂が起きるとの懸念を示す。「現在進行中の新型コロナ危機は、政府や国際社会が過去20年間に起きた貧困の急拡大を防げなかったことをつまびらかにした。生活費の危機はそれに拍車をかけている」

スイスのような豊かな国でさえも、この苦境から完全に逃れることはできなかった。フラン高のおかげで2022年のインフレ率は2.8%に抑えられたが、それでも30年ぶりの高水準だ。

最新の政府統計によると、2019年にはスイスの人口850万人の8.7%に当たる73万5000人が貧困に陥った。慈善団体カリタスは、2000年以降のコロナ危機と22年のインフレにより、生活に困窮する人の割合はさらに増えたとみる。

カリタスの広報担当者リヴィア・ライカウフ氏によると、「以前から家計のやりくりが厳しかった人は、今や月末になると生活費が底をつく状態」の人が増えている。

カリタスが昨年まとめた調査によると、既に貧困ラインぎりぎりで暮らしている人が多いため、わずかな生活費の上昇でもスイスの貧困率は2倍に跳ね上がる。

「今後数週間~数カ月で状況はさらに悪化し、より多くの人が貧困に陥るとみなければならない」(ライカウフ氏)

WEFが世界を救う?

WEFは1月16日、「分断された世界における協力の姿」をテーマに1週間の年次総会、通称「ダボス会議」を開催する。ウクライナ戦争、中国と欧米の緊張の高まり、多くの国々での食糧不足、気候変動への取り組み方という未解決の問題を前に、「不確実性と脆弱性の10年」に直面する世界を憂う。

WEFが毎年発行する「グローバルリスクリポート」では、安定を脅かす短期的な懸念事項の第1位に「生活費の危機」が挙がった。

「経済的な圧力により中所得層の空洞化が続き、社会不安と政情不安の同時進行は新興市場にとどまらなくなる」。このため「世界中で政治体制の存亡の危機」を引き起こす可能性がある、と同リポートは警告した。

2022年のリポートで7位だった「社会的結束の低下と社会的分断」のリスクは不安定化要因の5位に上昇した。

WEFは、世界中の有力者が集まって喫緊の課題に取り組むことで、世界的課題を解決する一翼を担っていると自負する。

だが懐疑的な声もある。前出の「パトリオティック・ミリオネアズ」は昨年、公開書簡でWEFをこうこき下ろした。「確かなのは、今やダボス会議が世界から信頼されるに値しない存在だということだ。世界をより良くするための議論に膨大な時間を費やしながら、それは自己満足にすぎず、具体的な成果はほとんど生み出していない」

パール代表は1年たった今も変化がないとみている。swissinfo.chの取材に対し「WEFは不平等を象徴している。会議の出席者から参加費を徴収して儲けを得る。会議の運営者や参加者が不平等の拡大する今の流れを変えようとしている確かな証拠を見たことがない」と語った。

英語からの翻訳:ムートゥ朋子

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担当: Matthew Allen

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ダボス会議は増え続ける地球規模の問題に対する解毒剤なのか、それともさらなる不満を生む火種なのか?

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