米国で起こったオピオイド危機をきっかけに、スイスの一部の医療専門家はオキシコドン(オピオイド系鎮痛剤)を含む薬物の過剰処方について警告を発している。専門家はまた、スイス当局に対し、中毒リスクを抑制する措置を講じるよう訴える。
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この記事は2019年10月31日に英語版で配信された記事を翻訳したものです。
10月、スイス・ドイツ語圏のオンライン雑誌レプブリーク誌とスイス公共放送(SRF)の報道番組「ルンドシャウ」が実施した、麻薬性鎮痛薬オピオイドの過剰投与による中毒や、医薬品がもたらす利益などを調べた調査外部リンクで明らかになった。
スイスでは、オピオイドの使用と依存症が増えている。ファーマ・スイス外部リンクによると、医院、薬局が処方したオキシコンチン(鎮痛薬の一種)を含むオピオイド系医薬品は10年前に比べて3倍以上に増えた。2013~2018年の間に、国内でオキシコドンの売上は倍増した。
スイス当局と製薬の専門家は危機のリスクを軽視している。両者は、オピオイドの広告と処方に関する規制は米国よりもスイスの方が厳しいと主張する。
しかし、調査によると、一部の医療専門家は、国内のオピオイドをめぐる現状を「危機的」と表現。オキシコドンに依存するスイス人が増えていると話す。
ベルンにあるサーレム病院のマルティン・サイラー医師はレプブリーク誌に「患者はこの薬の服用量を増やそうとする。ほぼ致死量に達するまで」と明かした。
ニーズを正当化
医薬品認可の規制機関スイスメディックは、乱用防止の追加的措置が必要になるような、オピオイド関連の副作用といった安全性を阻害する新たなシグナルはないという。
2014年以来、スイスメディックは10個の新しいオキシコドン含有薬を承認した。今年、9つの薬の延長を承認した。慢性の痛みでオピオイドを投与された患者の10〜15%が中毒になると試算される。アルコールとほぼ同じレベルだ。当局は、2018年にオキシコドンが原因で2人が死亡したと報告した。
スイスメディックはまた、このクラスの強力な鎮痛剤は、主に緩和ケアに使用されると主張する。
しかし、取材に応じた医師は、痛み緩和のため、オピオイドの処方を希望する患者が前より増えていると明かす。
「過去6年間の私の診療時間で、以前よりもはるかに多くの患者が、この活性成分を含む薬を服用したいと病院に来る。1日の投与量も過去3年間で増えた」とサイラー医師は話す。オキシコドンが軽い痛みのためにあまりにも頻繁に、そしてすぐに処方されることに懸念を抱いているという。
米国のオピオイド危機をめぐり、製薬業界を相手取った訴訟が2600件ある。「オキシコンチン」メーカーのパーデュー・ファーマだけでも、この薬剤のリスクに関して、公衆に誤解を与えたとして1000件以上の裁判がある。
責任転換
スイスメディックの広報担当ルカス・ヤッギ氏によると「オピオイドを賢く使用し、患者にリスクを知らせるのは担当の医師の役割だ」。
バーゼル大学病院のシュテファン・クレヘンビュール氏、スイスメディックの顧問も同意見だ。「患者は、薬がどう作用するか、また依存の可能性が高いことについて説明を受けなければならない」
医療専門家の中には、多忙を極める医師にあまりにも大きな責任を負わせると指摘する人もいる。多くの場合、医師は厄介な薬の問題を探して分析し、スイスメディックに報告書を書く時間がない。
インタビューを受けた医師の中には、手術後の最初の数日間のみ、オキシコドンを投与するように注意し、帰宅する患者には処方しなかったと語った人もいた。実際、多くの患者がオキシコドンを名指しで要求したという。
サイラー医師は「腰痛患者にオキシコドンを使用しないことにした」と話す。 「良心やヒポクラテスの誓い(医師の職業倫理に関する宣誓文)と、それ以外のものを両立させることはできない」
スイスリウマチ学会は、医師がオピオイドを慢性痛に処方しないよう勧めている。
サイラー医師は、スイスメディックが何も措置を講じなかった場合、一般市民や政治家からの批判を受けるリスクがあると話し、オキシコドン対策委員会の設立が第一歩だと指摘する。
クレヘンビュール氏は、必要に応じてオピオイド処方レベルのガイドラインの見直しや調整を行い、慢性痛へのオピオイド処方のリスクにも留意すべきだと話す。
オピオイドで富豪にーサックラー家とスイスのつながり
調査では、オキシコンチンメーカー、米パーデュー・ファーマを所有するサックラー家とスイスのつながりにも焦点を当てた。 9月、ニューヨーク州検察は、サックラー家がスイスやその他の隠し口座を使い、10億ドル(約1100億円)を自分たちに送金したと述べた。
バーゼルに登録してあるサックラー財団は、スイス国内の文化イベントも後援している。
パーデューの子会社ムンディファーマは、バーゼルに本社があり、スイスの医療システムに大規模な投資をしている。メディアの特別チームによる専門サイトpharmagelder.ch外部リンクによると、同社は2016~2018年、ジュネーブとベルンの病院などスイスで360万フランを寄付した。
(英語からの翻訳・宇田薫)
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