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アラブ・アフリカ諸国は、なぜ中国に味方するのか

ウルムチの路上をパトロールする中国憲兵隊
新疆ウイグル自治区の区都ウルムチの路上をパトロールする中国憲兵隊 Keystone / Eugene Hoshiko

国連の重要決議では、必ずと言っていいほど中国支持に回るアラブ・アフリカ諸国。その背景には、同じ権威主義体制への肩入れはもとより、アフリカにおける中国の経済的影響力がある。

8月31日、ミチェル・バチェレ国連人権高等弁務官が新疆ウイグル自治区における中国の弾圧政策を非難する国連人権報告書を公表すると、英米諸国は矢継ぎ早に「懸念」を表明した。米国はこれ以前にも、イスラム系少数民族ウイグル族に対する中国政府の弾圧を「ジェノサイド(集団虐殺)」と認定している。

長く待ち望まれていた同報告書が公表されたのは、バチェレ氏任期満了のわずか数分前だった。報告書は、中国政府は中国の西部地域でウイグル族や他のイスラム教徒の身柄を「恣意的かつ差別的に拘束」しており、人道に対する罪に当たる可能性があると指摘する。

先進諸国とは対照的に、アジア・アフリカのイスラム諸国は沈黙を守った。その後、パキスタンを代表とする70カ国が国連人権理事会で共同声明を発表。中国の内政に干渉するのをやめるべきだと米国や欧州を強くけん制した。声明にはアルジェリア、モロッコ、サウジアラビア、エジプト、チュニジア、バーレーンなどアラブ14カ国が名を連ねる。報告書の発表から1カ月近く経過してからのことだ。

続いて今月6日の人権理事会では、来年2月の次回会合でウイグル問題を討議するよう求めた動議が反対多数で否決された。アフリカ諸国は3カ国を除き全て反対に回った。ベニンとガンビアは棄権、賛成はソマリアだけだった。中国は投票前、水面下で激しいロビー活動を繰り広げていた。

中国代表は採決後「今回は中国だったが、どの発展途上国も、将来いつ標的になるか分からない」とコメントした。

エジプトの学者リーム・アブデル・マジッド氏は「イスラム教徒が多数派を占める国は、中国非難決議に際しては棄権を選ぶか、または国際フォーラムへの出席や中国との2国間会合などの機会に首脳や代表が、単独あるいは共同の声明の中で公然と支持する」と述べる。同氏は環境平和と人間の安全保障を研究し、中国とイスラム系ウイグル族に関する論文を発表している。

しかし、こうした行動は、イスラム諸国やアフリカ諸国が国連でこれまで発表した他の声明に矛盾する。例えばイスラム協力機構(OIC)に加盟するイスラム諸国は、ミャンマー国軍によるイスラム少数民族ロヒンギャ族への差別政策に対しては、ロヒンギャ族保護のために迅速に動いている。

中国支持の理由は、安定維持や独裁政権への肩入れといった内政上の思惑だけにとどまらない。そこには、南半球における経済支援といった中国の「ソフトパワー」面での攻勢が大きく反映されている。世界第2位の経済大国に成長した中国に財政面で依存する国は多い。

トラクターに乗るイスラム教徒のウイグル人
カシュガルでトラクターに乗るイスラム教徒のウイグル人。中国の少数民族ウイグル族の拠点カシュガルは、2千年以上にわたりシルクロード交易の要衝だった Keystone / Elizabeth Dalziel

分離主義勢力拡大への危惧

専門家は、人権(あるいは人権侵害)や人道支援の問題となると、権威主義的な政府は互いに連帯感を示すと指摘する。

国連がこうした問題を扱う場合、アフリカやイスラム諸国が中国支持に回ることがほぼ定例化している。一例として2020年6月の人権理事会では、中国の香港における国家安全維持法導入決定を非難する動議に、アフリカ25カ国が反対票を投じた。同法の施行で香港の反体制派は厳罰に直面し、香港の自治終焉につながった。

イエメン人作家のアーメド・アルアーマディ氏はswissinfo.chの取材に応じ「これらアラブ・アフリカ諸国の大多数は、腐敗した政権が統治している。合法性も疑わしければ国民の幸福を達成する能力も無い。権力を支えているのは国民ではなく外部への忠誠だ」と語った。

エジプト・カイロの国立社会犯罪研究センターで政治学を教えるハナン・カマル・アブ・サキン助教は、支持の根底には「国内の分離主義者グループの勢力拡大への懸念」もあると説明する。

その具体例として同氏は、サウジアラビアの安定とバーレーンの統一を戦略的に脅かす南部のシーア派コミュニティー、成功すればイラク、シリア、イラン、トルコなど全周辺国をリスクにさらすクルド人の独立運動などを挙げる。一方、モロッコが実効支配する西サハラでは、住民が独立国家の承認を求め続けている。

「人権を内政問題であり干渉すべきでないものとみなすことで、親中派の立場が正当化されている」(サキン氏)

新疆ウイグル自治区における措置はテロ対策として必要、というのが、中国政府が国際的に押し通そうとするシナリオだ。同地域の情勢は現在安定しており経済も繁栄しているとも主張する。

経済同盟の強化

このように提携関係の形成には政権の類似性が影響しているが、最も重要なのは、次第に中国が戦略的貿易相手国や地域の重要プロジェクトへの投資国へと変貌を遂げてきた点だ。アフリカ諸国が中国支持を正当化する際、しばしば持ち出される理屈だ。

21年9月発行の「中国・アフリカ 経済・貿易関係年次報告書」外部リンクによると、中国は12年連続でアフリカ最大の貿易相手国となった。中国・アフリカの2国間貿易は新型コロナウイルス感染拡大とそれに伴うロックダウン(都市封鎖)による経済の減速にもかかわらず、20年には1870億ドル(約28兆円)に達した。

同報告書によると、21年の中国・アフリカの2国間貿易は7月末までに1390億ドルと、40.5%の伸びを記録した。

中国のアフリカでの投資先は大半がサービス部門だが、科学研究、技術、輸送、保管などの新しい分野でも投資額が倍増している。特に南アフリカとエチオピアなどが顕著で、雇用創出や技術革新の促進といった効果を生んでいる。

中国が、その巨大経済圏構想「一帯一路」の枠内で協定を締結したアラブ国家は18カ国を数える。同構想はアジアと欧州を陸海の幅広いインフラプロジェクトでつなぐことを目指しており、その建設地の多くは中東にある。

こうした経済的結束の強さを示すかのように、中国とアラブ諸国は今年、初の中国・アラブ首脳会議をサウジアラビアで開催する。中国・アラブ諸国協力フォーラム第10回閣僚級会議も中国で開催される予定だ。

ただし、中国への依存はしばしば代償を伴う。最近も中国はアフリカ・アラブ諸国に対し、ウイグル問題を討議しようという欧米主導の動議に賛成しないよう、強力なロビー活動を展開した。

一方、識者らは、アフリカ諸国には過度の中国依存への嫌気もあると分析する。中国支持については多くの国で疑問が投げかけられている。ウクライナ戦争により、西側民主主義国の側かそれ以外か、立ち位置を明確にするプレッシャーも増している。アラブ・アフリカ諸国の一部がこれを躊躇(ちゅうちょ)するのは、数百万ドルに上る中国の銀行融資分に貸し倒れの恐れありとして、中国政府が海外投資の縮小をほのめかしたせいもある。

中国は現在、アフリカ最大の2国間債権者だ。ケニアを始め数カ国では、2国間債務の貸し手の72%が中国という事態に、「借金漬け外交に陥る危険性がある」との議論が国内で湧き起こった。

前出のエジプト人研究者マジッド氏は「アラブ・アフリカ諸国の中国支持は、人権の絡むテーマにおいては強まる傾向にあるが、他の問題では様々な要因からまだ限定的だ」と話す。

アラブ・アフリカ諸国は、現在進行中の米中貿易戦争を巡ってはどちらか一方につくことを拒み、中国が新型コロナウイルスの起源やサイバーセキュリティーといったテーマで唱える説には賛意を公言していない。軍事・安全保障同盟への参加はことごとく見送っている。

マジッド氏は「中国との同盟関係を左右するのは、国内の分離主義運動、政情不安やテロ組織の拡大など、こうした国々には付き物の変動的要素だろう。これらの問題は厄介で短期間では解決が難しいことから、中国支持路線は今後も長く続くと予想される」と付け加えた。

編集:Virginie Mangin、英語からの翻訳:フュレマン直美

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