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新型コロナ 世界中で人工呼吸器が不足、解決策は

Torbjørn Netland

連邦工科大学チューリヒ校(ETHZ)の研究者トービヨーン・ネットランド氏は、人工呼吸器の生産供給に国際的なアプローチを取るべきだと提唱する。そのために見直すべき6つの分野とは?

伝染病の蔓延は感情的な問題だ。ひとたび友人や自分の愛する人の命が関わると、私たちの反応は往々にして「国境を閉めろ!」とか「飛行機を飛ばすな!」となる。これは自然なリアクションで、全くもって理解できる。

個人レベルでは隔離が(感染拡大防止に)必要だが、同じ手法を異なる状況で使うと逆効果になることもある。例えば、人工呼吸器の場合だ。

今、世界中の保健省が同じような酷いジレンマに直面している。昨年は7万7千台の生産で世界の需要は満たされた。だが今年4月、ニューヨーク市だけで新しく3万台が必要になる模様だ。コロナ危機で世界全体の需要がどれほどになるのか、誰も予想がつかない。

大量の機器をどう調達するか?

どこも同じだが、目先のことしか見えない政治家は、国内での増産が人工呼吸器不足を解消する手だと考える。確かに、一部の製品や国ではそれが解決につながるかもしれない。

だが人工呼吸器メーカーの所在地と、700個以上の必要部品の仕入先を考えれば、機器を確保したり、3Dプリンターを駆使したり、あるいはその場しのぎの装置を作ったりすることが最善な方法でないことは明らかだ。短期的には、世界で最も確立された人工呼吸器メーカーに、より早く、多くの機器を大量生産してもらうことが唯一の道だろう。

トービヨーン・ネットランド
連邦工科大学チューリヒ校(ETHZ)で生産・運用管理講座を受け持つトービヨーン・ネットランド氏 Copyright: ETH Zurich/Giulia Marthaler

ところが、今こそ出番のグローバルサプライチェーンは、残念ながら縮小の一途をたどっている。このようなシステムが今、パンデミックを引き起こした要素の1つだと言われ、信用さえも失っている。私たちはできるだけ多くのCOVID-19感染者の命を救いたいのだろうか?そうであれば、人工呼吸器メーカーの生産能力を妨げるのではなく、世界的に増やすべきだ。

一丸となって舵を取れ

大手の人工呼吸器メーカーなら、生産ライン全体を変える必要がないという利点がある。コスト効率も優れている。

ただ落とし穴はある。一部のメーカーはすでに3~5割増しで生産しているが、それでも通常の5倍、10倍という今求められる需要を満たすことは不可能だ。

メーカーはサプライチェーン支援を必要としている。ただ私は、世界保健機関(WHO)が人工呼吸器の生産と輸送を一括管理すべきだと言っているのではない。

そうではなく、人工呼吸器のメーカーとサプライチェーン、大手物流企業、各国の郵便局、そして国の軍事調達機関が協働すべきではないだろうか。

見直すべき6つの分野

第1に、人工呼吸器のサプライチェーンをマッピングする。平常時は信頼できる下請業者と提携するだけで十分だが、非常時の場合、製造元はどの部品が必要で入手先はどこなのかを把握する必要がある。どのパーツが最も不足しているか?そのパーツは必要なのか、あるいは調達しやすい代替品で生産可能なのか?

第2に、供給ルートを合理化する。これらのパーツを製造業者に届ける最良の方法と、生産能力の拡大に必要なものを考えてみる。業界間でのサプライチェーンの重複を解消し、出荷の簡易化を図れないか?ハブ空港を活用し、グローバルで迅速な物流ネットワークを確立できないか?

第3に、需要を予測する。需要が高まっている場所、次のウイルス感染の震源地になりそうな場所はどこか。インペリアル・カレッジ・ロンドンなど一流の研究センターは、最新情報を毎日更新している。こういった分析を活用すれば、人工呼吸器の注文を公正に、また効率的に管理できる。

ウイルスに国境はない。ならば我々も国境を超えて行動すべきだ。 トービヨーン・ネットランド

第4に、さらなる支援を募る。そうしたら、このサプライチェーンの各レベルで、どの企業がまだ余力があるかを考えてみる。英国では、掃除機メーカーが自社考案の新規デバイスを作り始めている。実用的なノウハウを持つ企業は他にないか?

第5に、オペレーターを訓練する。あるメーカーは最近、ドイツの週刊誌デア・シュピーゲルに対し、最も難しいのは人工呼吸器を操作できる人員を確保することだと述べた。そうであれば機械を簡素化し、ユーザーフレンドリーにできないか?

マニュアルの改善、研修の簡略化・デジタル化の必要はないだろうか?数カ月後に人工呼吸器が着いたときに間に合うよう、医療関係者の研修を今から始められないか?

第6に、代替品を探す。まずは上記のタスクを優先すべきだが、世界的危機が続く限り代替品も探さなければならない。大半の救急車には人工呼吸器が標準装備されている。緊急事態の間は、この予備の可動式マスクを転用できる。

ローテクな機器、例えば1952年のポリオ(急性灰白髄炎)流行時、コペンハーゲンで命を救ったハンドポンプなどを、一部の国で使えないか?

最後に、この緊急事態の中で、グローバルで戦略的な観点を見失ってはいけない。Covid-19のパンデミックが引き起こす医療問題を効果的・効率的に解決するには、幅広く体系的な視点が欠かせない。ウイルスに国境は関係ない。ならば我々も国境の枠を超えて行動すべきだ。

本投稿は、連邦工科大学チューリヒ校のブログ外部リンクと世界経済フォーラムの資料外部リンクに掲載された内容を転載しています。

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