チューリヒとドゥイスブルクの違い
避難できる場所が十分にあることや綿密な安全対策と長年の経験を通し、チューリヒでは集団パニックが起こらないようにするとテクノイベントの「ストリートパレード」の主催者は言う。
ドイツの西部の町ドゥイスブルク ( Duisburg ) で開催された「ラブパレード」で7月24日、大勢の若者が身動きが取れなくなりパニックを起こし20人が圧死するという事件が起こった。
経験の積み重ね
8月14日にはドゥイスブルクに次いでチューリヒでもテクノ音楽に合わせて踊るイベント「ストリートパレード ( Street Parade ) が計画されている。
「『ラブパレード2010年 ( Love Parade 2010 ) 』で起こった事故に驚き狼狽 ( ろうばい ) しています。犠牲者、負傷者、遺族のみなさんと心は同じです」
とストリートパレードのサイトに哀悼文が載った。
7月24日のラブパレードでは20人が死亡し、500人以上が負傷した。重傷者も多く出た。出入り口が一つしかない貨物列車駅で開催されたラブパレードでは、若い男女がパニックに陥り大惨事となった。
「惨事の直後なので当然のことながら落ち込んでいる」
とチューリヒのストリートパレードの広報、シュテファン・エプリ氏は語る。犠牲者には哀悼の意を表すが、ストリートパレードを中止することは全く考えていない。ドゥイスベルクのラブパレードの主催者とは一切連絡をしたこともなければ協力関係にあったわけでもないという。
ラブパレードは1990年代にベルリンで始まったもの。「チューリヒは独自路線を歩んできた。将来も独立して活動していく」と言う。安全対策もチューリヒの地理に合わせたもので独自性のある対策だ。
「ストリートパレードはチューリヒ市内が会場となっており、人は何本もある道から集まってくる。その道が、危険から逃げる時にも使われる」
とエプリ氏。チューリヒ市警察、市の救援隊、消防隊と協力し、安全対策は年を追って精錬されてきたという。
経験と常連が安全のかなめ
チューリヒ市内、湖に近くリマット川にかかるゲイ橋 ( Quaibrücke ) は特にストリートパレードで人が集中する。橋の前後にあるステージは、人の流れを緩和する役割を果たすという。「人間は何かが起こっているところに行くから」とエプリ氏は言う。市警察と市行政から、ドゥイスベルク事件後、安全性をチェックするよう要請があったが「これまでの対策を完全に変えてしまう」必要はないという。経験もありそれを持続することが第一だという。
「今年で19回目だ。このように長い経験はおそらく、私たち以外誰も持っていない」
とエプリ氏は確信する。
今後、開催は見合わせられることになったが、チューリヒのストリートパレードの参加者数には影響は見られないとエプリ氏は見込んでいる。以前ラブパレードが中止になった時も、チューリヒにさらに大勢が来たということはなかった。また、事故があったことで参加を取りやめる人もいないと見る。
「アンケートの結果を見ると、チューリヒの場合は常連がいる。スイス人のほか南ドイツ、フランス、イタリア、ベルギーからテクノのトラックが来る」
ストリートパレードはトラックの荷台をステージとしてテクノ音楽に合わせ踊り明かす。ドイツのマスコミは、巨大なパレードの終焉を報道しているが、エプリ氏は完全にこれを否定する。大きな間違いが一回あったからといって、テクノ音楽の時代が終わるということはない。世界中いたるところで、週末にはテクノ音楽を流すクラブに若者たちが列をなして集まり、家でもテクノ音楽を聴いている。
「組織立っているし、スイスではテクノは続くと信じている」
エプリ氏がこう語らなければならないのは、チューリヒのストリートパレードが百万人の集客力があり、多くの収益を上げるからでもあるのだろう。
レナート・キュンツィ、swissinfo.ch
( 独語からの翻訳 佐藤夕美 )
7月26日チューリヒ市警察は、8月14日に開催が予定されるストリートパレードの安全性について調査するよう主催者に求めた。19回にわたる経験から「安全対策は非常に良い」とロベルト・ソース広報担当官は評価する。
イベントの中心地から伸びている脇道が万が一の場合の逃げ道になるという。脇道は駐車禁止として、完全に人が通れるようにする。救助隊員はイベントが行われるすべての道路で待機し、けが人や具合の悪くなった人を救助する。特に、ゲイ橋付近には集中して救急隊員を置く計画だ。
7月24日、ドイツ西部、ノルトハイム・ヴエストファーレン州 ( 州都デュッセルドルフ ) で開催されたテクノ音楽のイベント「ラブパレード」で、一カ所に人が集まり過ぎ大勢がパニックを起こし、20人が圧死、500人以上が負傷した。原因は解明中。
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