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スイス・カトリック教会で性的虐待 調査・改革はどこまで進む?

聖職者の手
虐待のニュースが流れて以来、全国のカトリック教会の上層部上級指導者らは容疑者に対する刑事告発を発表したり、改革を約束したりしている Keystone / Monika Flueckiger

スイスのローマ・カトリック教会に関する調査で、1950年以来1千件もの性的虐待があったことが分かった。バチカンからも高位聖職者に対する調査命令が発せられ、スイスのカトリック教会は対応に追われている。 

チューリヒ大学の歴史学者2人がスイス司教会議の委託を受け、1年間にわたる大規模調査を行った。12日発表された報告書は、聖職者510人による1002件の性的虐待があったと明らかにした。加害者は大半が男性だった。被害者921人の半数以上は男性・少年で、4分の3は未成年者だった。 

被害の半数以上は「司牧活動」中に、3割は学校や家庭、寄宿学校などの場で起きた。懺悔や相談中に起きた事例もあった。報告書は多くの被害が「隠ぺい、秘匿、矮小化」されていたと指摘した。 

報告書は「教会は世俗的な刑事訴追を免れ聖職者の地位を守るために、被告や有罪判決を受けた聖職者を組織的に配置換えし、場合によっては国外に移した。そうすることで、教区民の幸福と保護よりも、カトリック教会とその指導者の利益を優先した」とまとめた。 

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性的虐待1千件以上 スイスのカトリック聖職者ら関与

このコンテンツが公開されたのは、 スイスのカトリック教会に所属する聖職者や教団関係者による性的虐待が、1950年以降で1千件以上あったことが分かった。チューリヒ大学の歴史学者が2日、分析結果を公表した。

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調査では、教会当局が収集した何千ページに及ぶ文書を閲覧した。だが報告書は多くの情報源が適切に分析されておらず、場合によっては不正行為を隠ぺいするために文書を破棄していたと追及した。 

ローマ法王庁の在スイス大使館に資料の閲覧要求を拒否されたことも明らかにした。バチカンの史料調査にも「大きな障害」があったという。 

チューリヒ大は2026年までさらに研究を進める。そのための予算150万フラン(約2億5千万円)も確保されている。 

バチカンへの告発 

チューリヒ大の報告書が発表されるわずか2日前に、スイス司教会議はバチカンからスイスのカトリック高位聖職者による性的虐待を調査するよう命じられたと発表した。数人の現・元司教をはじめとする聖職者が虐待を隠ぺいした疑いがあるという。 

過去に性的暴行を行ったという告発もある。一部報道によると、バチカンは5月に告発文書を受け取ったことを受け、スイスのジョゼフ・ボヌマン司教を調査責任者に任命した。 

対応に追われる教会 

これら報道以来、スイス全国のカトリック教会の上層部は記者会見や声明などに追われた。立場表明や謝罪、容疑者に対する刑事告発、改革の約束など対応はさまざまだ。 

スイス司教会議は「教会機関として、私たちは大きな責任を負っている」と述べ、教会上層部が「この罪に向き合わなければならない」と表明した。 

カトリック教会による虐待事件の最初の告発は米国で起きた。1985年のドイル報告書は、ボストン大司教区が虐待事件の隠蔽に1千万ドルを費やしたことを明らかにした。ボストン・グローブ紙の記者たちは後に、巧妙な隠蔽システムをスクープした。これを受けて米カトリック教会は独立調査を委託。1950~2002年に虐待の可能性がある事件が1万667件、刑事事件が4392件あったことが分かった。 

アイルランドでは1995年、ある聖職者が子供90人を虐待した事件が国民の怒りを買った。同国政府は1997年、教会施設における組織的虐待事件の責任を認めた。2002年に正式な調査が行われ、後に教区や住宅での被害にも調査が及んだ。 

米国やアイルランドでの事件を受け、ドイツのカトリック教会は2002年に性的虐待への対処を指針(ガイドライン)にまとめた。だが2010年にベルリンのイエズス会学校での虐待が報じられ、初めて史料や人事記録が調査された。2014年の独立調査により、1670人の容疑者と3677人の被害者が特定された。 

フランスでは2016年に虐待事件が明るみに出たのを受け、司教と修道会は2018年に独立調査を委託した。1950年代以降、容疑者は2900〜3200人、被害者は33万人と推定された。 

ポルトガルは2021年、1950年以来の聖職者や教会職員による4800件超の虐待事件があったとする独立調査を発表した。 

2022年、イタリア司教会議は虐待事件に関する限定的な調査結果を発表した。被害者団体「Rete l’ABUSO」による報告書を除けば、告発に関する独立調査は行われていない。 

報道によるとスペインでも虐待の事実があったが、体系化された報告書はない。全国紙エル・パイスは2018年以来約1千件の被害があったと報じている。 

大半の国はカトリック教会員による虐待の実態を把握していない。教皇フランシスコは2023年春、透明性向上を約束した。 

出典:SRF 

ローザンヌ、ジュネーブ、フリブールのシャルル・モレロッド司教は「私たちは教会内の文化の変革に取り組んでいる」と宣言した。通報体制の整備や、聖職候補者の心理状態の監督、虐待を記録した文書の廃棄禁止などを盛り込んだ改革にも賛意を表明している。 

ただモレロッド氏とシオンのジャン・マリー・ラヴィー司教は虐待疑惑を無視してきたことで非難されており、辞任を迫られる可能性がある。モレロッド氏は13日、手術を受けるため病院に緊急搬送された。 

司教の権限見直し? 

性的虐待を調査する独立委員会CECARのシルヴィー・ペリンジャケ委員長は、フランス語圏のスイス公共放送(RTS)で「私たちは10年間、加害者に対し行動を求めて続けてきたが、何も動かなかった。被害者が今聞きたいのは『虐待があったのは事実で、制裁する方針だ』という言葉だ。だが教会は現時点で誰にも制裁を加えていない」と憤った。 

スイスの被害者支援団体SAPECのジャック・ヌッファー代表は、教会が構造的に「問題を引き起こし、あらゆる物事を遅らせている。司教はそれぞれ独立した存在で、全権を握っている」と嘆いた。 

内部統治を確実に変革するには、教会の信徒にもっと強い権限を与えるべき――ヴォー健康科学大学院の宗教社会学者、ローラン・アミオット・スーシェ氏はRTSでこう主張した。聖職者から成る評議会を通じて組織変革を促すには、草の根の要求が「ピラミッドの頂点」に届くことが重要だと語った。 

「司祭を一般人に仕立て直すことも試みるべきだ」(スーシェ氏) 

ヌッファー氏はこれを機に、被害者が名乗り出て過去の「容認できない行為」を告発するよう宗教学校や修道院が促すべきだと提案する。教会内の虐待問題を掘り起こすため、被害者のための全国的なコールセンターの設立や、法的、心理的、社会学的研究に人的・金銭的資源を費やすことも提唱した。 

だがそれだけでは不十分だ。ヌッファー氏はRTSで「司祭に心理テストを受けさせることも、改革の第一歩となるだろう。スイス司教会議が発表した措置は微調整の必要がある。現段階ではきれいごとを並べただけに過ぎず、何が実行されるか見極めなければならない。そうすれば、私たちも物事の明確化・効果化を後押しする役割を果たすことができる」 

英語からの翻訳:ムートゥ朋子

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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