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「心は今もスイス人」

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宗教的迫害、飢饉(ききん)、人口の急増、仕事不足・・・。いつの時代も、スイス人はさまざまな理由から新天地を求めて外国に移住してきた。こういった人々は 二重国籍なのだろうか?その場合、なぜ、そしてどの程度、スイス人であり続けるのだろうか?

 祖国を遠く離れて海を渡り、外国で暮らしているスイス人たちから、国籍取得に関する体験談、それにまつわる感情、動機について聞いた。

 国籍を申請した理由としては、恋愛もあれば、職業訓練を受けるのに国籍が必要だったといった現実的な理由もあった。

 しかし全体として共通する思いは、1970年代にイギリスに移住したマルト・リンジーさんの次のような言葉に集約できる。「別の国の国籍を取得したからといって、心はスイス人という事実は変わらない」

 また回答者の大半は、もしスイスのパスポート(国籍)を手放さなければならないとしたら(それを求める国は少ないが)、相当悩んでからでなければ決断できなかっただろうと答えた。

 チューリヒ出身でジャズ・バイオリニストとして活躍しているソフィ・リュッシ さんは、ブエノスアイレスで国籍申請手続きをしていた際、用紙にスイス国籍を放棄しなければならないと書かれていることに気づいた。だが、「絶対にそれは嫌だった」

 「書類に記入していた時、私はその部分を線で消した。結局、スイス国籍を放棄せずにアルゼンチン国籍をもらうことができた」。アルゼンチンは2010年7月より二重国籍を認めるようになっていたのだ。

これらのコメントは在外スイス人全員の意見を代表するものではない。本記事に記載された帰化関連の法律は変更される可能性がある。コメントの多くは、在外スイス人のためのオンライン上のプラットフォーム、SwissCommunity.org上での呼びかけに応えて寄せられたものだ。ご協力いただいた方々に感謝の意を表したい。

仕事の関係

 「心は今もスイス人だが、ニュージーランドに46年暮らした今では、この国の国民であること、そして二つの国籍を持っていることを誇らしく思っている」と言うのは、ベルン出身のエリカ・カーリーさんだ。1967年に移民支援プログラムを利用してニュージーランドに渡り、永住権を得た。

 4年後には国籍申請の資格を得た。正式な帰化式典がウェリントンで1973年に行われ、引き続きスイス国籍を保持することも認められた。

 連邦外務省の2012年の統計によると、現在、国外で生活する71万5710人のスイス人(二重国籍者を含む。囲み記事参照)のうち、ニュージーランドには6805人が暮らしている。

 「帰化したのは、ニュージーランドに長期的に滞在して働くつもりだったし、ここの政治にも参加したかったから。また、仕事の面でも便利だった。よく急なオーストラリア出張があるのだが、スイスのパスポート(国籍)のままなら再入国許可証を取得する必要があるので、とても大変だったはずだ」

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忠誠の誓い

 チューリヒ出身のカタリーナ・アレンさんもまた、カナダに10年暮らした後、職業上の理由から国籍を取得した。

 「当時は、外国籍では教員養成大学への入学が認められていなかった。私は教職を志していたので、帰化する必要があった」

 「手続きは非常に簡単で、第2の祖国に対する忠誠の誓いもした。スイス国籍はもちろん維持することができた」

 カナダには3万8959人のスイス人が暮らしている。アレンさんの両親は40年以上そこで生活しているが、国籍は取得していない。カナダのパスポートを持っていないきょうだいもいるが、問題にはならないという。

 「彼らが正式にカナダへの忠誠を誓っていないからといって、この国への貢献と愛情が減るわけではない」

義務と献身

 寄せられた回答の中には、忠誠と義務というテーマがよく登場した。

 「別の国に移住するなら、そこの市民となり市民としての義務を果たすのは当然だと思う」と言うのは、永住者ビザで2年間オーストラリアに暮らした後に国籍を申請したクラウディア・シュティルハルトさん。

 子どもが自動的にオーストラリア国籍を取得できるのも利点の一つだという。

「幸運なことにオーストラリアでは二重国籍が認められているので、それほど悩む必要はなかった。スイス国籍を放棄しなければならなかったとしたら、同じことをしたかどうか分からない」

スイス国外で生活するスイス人の数は約71万6千人。2013年1月に連邦外務省が発表した統計によると、2012年も数年前からの傾向が続いた。

在外スイス人の数は2011年の70万3640人から2012年には71万5710人となり、1.72%増加した。そのうち半数以上がヨーロッパ在住(44万2620人)であり、最多は隣国のフランス(18万6615人)、続いてドイツ(8万715人)、イタリア(5万91人)となっている。

ヨーロッパ域外在住ではアメリカが最も多く、7万6330人が暮らしている。イスラエル在住スイス人は1万5970人と、2007年から21.44%増加した。

一方、中央アフリカ西海岸にある島国サントメ・プリンシペや、太平洋に浮かぶ島国キリバス、ミクロネシアといった国には、スイス人は一人ずつしか住んでいない。

スイスの人口は2012年に800万人に達したが、在住者の約2割はスイス国籍を持っていない。

最新の2011年の数字によると、スイスを離れたスイス人は3万人をわずかに下回った。帰国したスイス人は2万4千人だった(「純移民数」のリンクを参照)。

煩雑な手続き

 「私たちはスイス人であり、これからもスイス人であり続ける!」と回答したのは、8人のスイス人が暮らすフランス領ポリネシア在住のペテロ・ケルバーさんだ。「赤いスイスのパスポートのためだけではなく、心のふるさとはいつまでもスイスだからだ」

  

 ケルバーさんによると、フランス領ポリネシアの国籍を取得したのには多くの理由がある。一つは社会に溶け込むためであり、それは権利と義務を受け入れることを意味する。しかしそれだけでなく、国籍を持っていないといろいろと面倒だからという理由もあった。

 「多くの国と同様、ここでも外国人は定期的に滞在許可証を申請しなければならず、国によってはその手続きがお役所的で非常に面倒なこともある。ある時点で、もうたくさんだという気持ちになる」

 「しかも、たとえ何年も暮らしていたとしても、ある日滞在許可が下りず、急に国を出なければならなくなるかもしれない。また当然、こういった手続きには全てお金がかかる」

 こういった理由から、大半の人は遅かれ早かれ国籍取得を考えるようになるとケルバーさん。フランス領ポリネシアの法律は、フランスの法律に多少手を加えただけのもので、スイスのようにフランス語を公用語とする国の出身者は3年滞在すれば帰化できるという。それ以外の国の出身者は5年だ。

 「申請してから1、2年後に地元の警察署に行って、フランス語の会話ができるかどうかをテストされた。それから数カ月後、書類を受け取りに来るようにとまた警察署に呼ばれた。一体何の書類なのか、見当もつかなかった。家に帰って見て初めて、フランス大統領の署名入りの手紙だと分かった。これでフランス国民になったというわけだ!」

 しかし、がっかりしたこともあるという。フランスなら「ワインを一杯やりながら担当職員と握手したりするが、ここフランス領ポリネシアではそれはなかった」ことだ。

単なるお客様でなく

 イザベル・ゴレイさんは両親ともスイス人だがモロッコで生まれ、1980年からはアルゼンチンで暮らしている。

 彼女にとって、アルゼンチンのパスポート(国籍)を持つことは価値観の問題だ。「ここに住み、ここで活動しているということは、アルゼンチンの社会に深く関わることだ。私はこの社会の一員であって、単なる渡り鳥ではない」

 「よく言うのは、私の人生は一本の木のようなもので、根っこはスイスにあり、枝がアルゼンチンに広がっている。そして木の実はみんなのものになるといいと思う」

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