おすすめの記事 国外からの工場Uターン、米国とイタリアが率先 このコンテンツが公開されたのは、 2017/05/17 企業は長年、生産拠点を国外に移転してきた。しかし、米国や欧州の企業の多くは工場を自国に戻したり、自国に近い場所に移したりするなどして工場のUターンを進めている。 こうした現象はリショアリングまたはニアショアリングと呼ばれる。リショアリングをする企業が増えているのはなぜだろうか?またリショアリングを行う企業が最も多い国はどこだろうか?雇用への影響は?識者たちに聞いた。用語 リショアリングとは、工場を移転先の国から本社のある国に移すこと、または国内の業者に生産業務を委託することを指す。 一方、工場を移転先の国から本社に地理的に最も近い国外拠点に移すこと、または隣国の業者に生産業務を委託することをニアショアリングという。 イタリアのラクイラ大学のルチアーノ・フラトッチ準教授は、リショアリングおよびニアショアリング戦略を研究するイタリアの大学共同研究グループのまとめ役を務めている。この研究グループはこれまで5年間、1980年代以降から現在までに工場を自国に戻した企業および自国の第三者に業務委託した企業数百社に関するデータを収集してきた。 「リショアリングは90年代中期から継続的に見られるもので、世界経済危機を境に顕著になった」とフラトッチ氏は語る。世界経済危機により、企業は徹底したコスト管理を迫られたが、その一方で米国も2桁の失業率を下げるために様々な政策を打ち出すようになった。 企業はとりわけ、中国から生産拠点を引き揚げようとしている。欧州企業の多くは極東からの移転を図っているが、米国企業の多くは東南アジアおよびインドからの移転を進めている。スイス・ティチーノ州商工会議所のルカ・アルベルトーニ会頭によると、リショアリングを積極的に行っているのは米国とイタリアの企業で、スイスではニアショアリングが時折行われるだけだ。 国内回帰の理由 工場を国外に移す唯一の理由に人件費が挙げられることが多いが、移転先の国々でも人件費が上がっている。例えば中国では人件費が年間15%上昇している。そのため、企業は高い輸送費や関税を相殺できるほどの人件費を節約できなくなった。 また、リショアリングの背景には消費者の要求が高くなっていることが挙げられる。工場が地理的に近ければ品質管理が徹底でき、研究開発部門と生産部門の連携も密接になり、輸送時間も短くなるからだ。さらにカスタマーサービスも迅速に行え、重要度が増している「メイド・イン」ラベルの表示もしやすくなる。 失業率の低下 工場が外国から自国にUターンするということは、その国にとっては喜ばしいことだ。なぜならそれは専門知識が自国に戻ってくるということであり、国内総生産(GDP)の上昇や貿易収支の改善につながるからだ。 一方、リショアリングによる雇用への影響はどの国も同じというわけではない。「2015年にリショアリングで生み出された雇用数は、同年にオフショアリング(国外移転)で失われた雇用数に等しかった。欧州はまだその段階に入っていない」とフラトッチ氏は語る。 スイスではロボットの活用が増えればリショアリングが促される可能性があると、アルベルトーニ氏は言う。ロボットの導入により一部の生産工程は単純になり、競争力が増すからだ。 同様にフラトッチ氏も、オートメーション化が人件費の高い国でリショアリングを促す可能性があると考える。そのため、リショアリングを行う企業にとって「金銭的な要因だけではなく、生産工程を革新的にするための要因が重要だ」と同氏は言う。 スイスの状況 スイスではリショアリングはあまり多くないが、アジアに一部の生産工程を業務委託していた企業がルーマニアやポーランドにニアショアリングをすることが増えていると、アルベルトーニ氏は言う。 スイスでは今後、「スイス・メイド」のラベルを表示するための規定が厳格化されるが、その影響について論じるのはまだ早い。しかし、ある産業分野はすでに新規定への対応を始めている。ティチーノ州時計製造者協会のオリヴィエロ・ペセンティ会長によると、同協会に加盟する時計ブランドの一部はリショアリングに着手したり、特に時計ケースの製造をリショアリングするかどうかを検討したりしているという。新規定ではムーブメントだけでは「スイス・メイド」のラベルを表示できないからだ。 スイスでリショアリングが少ない理由は、企業の種類にある。スイスには多国籍企業の経営部門や研究開発部門が置かれることが多いが、生産部門は少ない。また、化学企業や医薬企業などのスイスの基幹産業は、他国の同分野の企業と比べ、業務をあまり国外に委託しない。 だが「もしスイスの企業が国外に業務を移転していたとしても、すぐに自国に戻そうとはしないだろう。化学工場の再移転は衣服や靴の生産工場の再移転よりもはるかに複雑だからだ」とフラトッチ氏は説明する。また様々な研究によると、医薬産業はリショアリングへの関心がとても乏しいという。 ものづくりの「再建」 リショアリングが必ずしも放棄された工場を再建したり新工場を建てたりするわけではない。「リショアリングでは第三者への業務委託がよくある。言い換えると、工場を国内に戻し、地元の業者に業務委託することがよくあるということだ」とフラトッチ氏は語る。 またサービス産業が長い年月をかけて発展してきた国では、リショアリングはものづくり文化の再建という意味合いが強い。例えば米国では、手工業などの重要な専門技術の不足に対応するため、職業訓練や大学の講習を変更する計画が立ち上げられた。 一方、英国ではリショアリングを行う企業が増加し、空洞化した産業がそれに対応できずに問題になっていると、フラトッチ氏は指摘する。「しかし、適切な産業政策を行い、職業訓練に投資をすれば、この問題をある程度和らげることはできる」と同氏は付け加える。 もっと読む 国外からの工場Uターン、米国とイタリアが率先
おすすめの記事 ミニケーブルカー存続危機をどう救う? このコンテンツが公開されたのは、 2017/05/13 スイスには数百台のミニケーブルカーが存在するが、その半分は存続の危機に直面しているのが現状だ。山岳地帯に住む人々の暮らしに欠かせないこれらのケーブルカーを存続させるべく、エンジニアでケーブルカー専門家のレト・カナーレさんが問題解決に取り組んでいる。(SRF/swissinfo.ch) (英語からの翻訳・大野瑠衣子) もっと読む ミニケーブルカー存続危機をどう救う?
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おすすめの記事 成層圏を目指すソーラー飛行機、スイスで初の試験飛行 このコンテンツが公開されたのは、 2017/05/08 3年の開発期間を経て今月5日、スイス製のソーラー飛行機「ソーラーストラトス」がパイエルヌ飛行場を飛び立った。この飛行機は、12年にソーラーボートで世界一周を達成したクリーンテクノロジーの推進者・冒険家のラファエル・ドムジャンさんが考案したもの。18年には自らの操縦で成層圏飛行を目指す。ドムジャンさんにインタビューした。 ソーラーストラトス(Solar Stratos)は2人乗りの飛行機で、翼の表面積のうちの22平方メートルにソーラーパネルが取り付けられている。ロール(左右の傾き)やスピードを徐々に上げる一連のテストの後に5日、テストパイロットのダミアン・ヒシアーさんの操縦で高度300メートルを飛ぶ初の試験飛行が行われた。 「僕もチームも全員、喜びに沸き立っている。しかし、同時に少し心配もしている。なぜなら、過去3年間にやってきたことの全てがうまく機能するかどうか今、試されるからだ」と、ドムジャンさん(44歳)は試験飛行の直前に話した 。 このスイス人冒険家は、18年の終わりには高度25キロメートルの成層圏での飛行を計画している。もしこれが成功すれば、電気エンジンを備えたソーラー飛行機の世界記録を作り上げることになる。 ハードルを跳び越えて だがその前に、ドムジャンさんはいくつかのハードルを跳び超えなくてはならない。15歳でグライダーを操縦した経験はあるが、この小型実験飛行機を操縦するためには、フライトシュミレーターを使ってたくさんのことを学ばなければならない。 ステップ・バイ・ステップではあるが、この夏にはまず中程度の高度を飛行してみるつもりだという。次いで今年の終わりには、ソーラー・インパルスの操縦士、アンドレ・ボルシュベルクさんが10年に出した「有人ソーラー飛行機での高度9235メートルの飛行」という世界記録を打ち破るつもりだ。 ソーラー・インパルスが世界一周飛行を終了したのは昨年の7月。それからわずか10カ月後に、もう一つの超小型のソーラー飛行機がスイスの、しかも同じフランス語圏で誕生しようとしている。 ソーラー・インパルスに影響を受け スイスは日本の九州ほどの大きさの小さな国。 ソーラー・インパルスのもう一人の操縦士でヴォー州ローザンヌに住むベルトラン・ピカールさんと、隣州ヌーシャテルに住むドムジャンさんは、当然ながら友人だ。だから、この17年末の記録更新の旅には、二つある操縦席の一つにピカールさんを招待するつもりだ。 ピカールさんの家は、 代々知られた裕福な冒険家・発明家の家系だ。一方ドムジャンさんの家はどちらかといえば「平凡」で、両親はソーシャルワーカーだった。こんなドムジャンさんにとって、ピカールさんからの影響は多大だった。「ソーラー・インパルスが誕生するまでは、太陽光発電で何かの企画や冒険をすることは考えてもいなかった。03年にベルトランがソーラー飛行機での世界一周計画を打ち出したとき、その情熱が僕に伝染したのだ」 方向転換 ドムジャンさんほど、極端に人生の方向転換をした人はあまりいないかもしれない。今はクリーンテクノロジーの推進者・冒険家だが、以前は技術系の仕事や医療補助員、山のガイドなどをしていた。 前述のように03年のソーラー・インパルス計画発表が転換のきっかけとなったドムジャンさんは、同じ年に、両親の家の屋根にソーラーパネルを取り付け、次いでウェブ上でソーラーパネル設置を支援する会社を設立。その後、12年にソーラーパネルを取り付けたカタマランの船「トゥラノール・プラネットソーラー」で世界一周の旅を達成した。 このように、ソーラー・インパルスはドムジャンさんの人生を変える契機になったが、自分のソーラー飛行機を作る際にも多くの教訓を与えてくれている。「ソーラーストラトスの製作では、大きさが問題の要になると思った。機体が大きいとその製作やメンテナンスに多くのスタッフが必要で、そのスタッフの経費がかさむからだ」。実際のところ、ソーラー・インパルス計画が 約1億7200万フラン(約194億円)だったのに対し、ソーラーストラトスは1千万フラン(約11億円)に過ぎない。 また、ソーラー・インパルス2の機体の長さが22メートルで翼幅が72メートルなのに対し、ソーラーストラトスは機体8.5メートル、翼幅24.8メートルと半分以下。重さに至っては、前者が2300キログラムなのに対して後者はわずか350キログラムだ。 さらに軽量化 このように軽量で小型のソーラーストラトスだが、まだまだ改良すべき点が残っている。例えば、毎時20キロワットのリチウムイオン電池だ。これは、ほぼ50馬力に相当する二つの19キロワットのエンジン(小型のモーターバイク程度)の電源になる。 だが、このオーストリアのKleisel Electric社によって開発された電池が、成層圏の氷点下70度の凍りつくような寒さの中でどう機能するかは、まだはっきりとしていない。 「電池は大きな挑戦になる」とドムジャンさんも認める。「今年末の記録更新飛行のための電池は、正直なところまだ完成していない。一番軽くて、しかも効率の良い電池を入手することは大きな挑戦になる。また、高度飛行のためのプロペラも新しく製作しなくてはならない」 確かに、2人のパイロットの体重も含め「軽量化」が一番の課題だ。「飛行前に、僕がたとえ10キロ痩せたとしても問題は残る」とドムジャンさんは笑う。 限界に挑戦 軽量化は、ソーラーパネルでも重視された。ソーラーストラトスのパネルは、Sunpower社の製作で、ソーラー・インパルスにもトゥラノール・プラネットソーラーにも使用されたものだ。 このソーラーストラトスのわずか20キログラムのソーラーパネルは、ヌーシャテルにあるCSEM電子工学・マイクロテクノロジー研究センターでさらに改良された。 「飛行機を軽くするため、ソーラーパネルも軽くする必要があった。そして1平方メートルあたり1キログラムになるまで減量できた。現在市場に出ているソーラーパネルより10倍も軽くなった」とドムジャンさんは言う。 電池やソーラーパネルの軽量化を推し進めた後、機体そのものの軽量化はこれ以上望めないと考えたドムジャンさんは、 飛行中に太陽光電力を使う超軽量の「宇宙服」を身に着けることにした。これももう一つの「世界新記録」になることだろう。 この宇宙服は、ロシアのZvezda社の製作だ。同社は、世界初の有人宇宙飛行士、ユーリイ・ガガーリンや世界で初めて宇宙遊泳を行なったアレクセイ・レオーノフの宇宙服を作っている。 だが、こうした宇宙服を身に着けて狭いコックピットの中で飛行機の操縦を続けるには、特別な訓練が必要になるだろうとドムジャンさんは付け加える。 こうした記録的なチャレンジに挑みながらも、冷静さを失わないこの控えめな冒険家は、こう結んだ。「解決すべき問題にステップ・バイ・ステップで挑んでいるので、あまり心配はしていない。チームにも恵まれているし、もちろん細心の注意も払ってもいる。ソーラーストラトスにはパラシュートを備えてないので、(バックアップとしての)プランBは存在しない。それに、もしリスクがなければ、それは冒険ではない」成層圏でのソーラー飛行 ソーラーストラトスのチームは、成層圏に行って帰ってくる時間を5.5時間と見ている。成層圏に到達するのに2.5時間かかり、15分間そこに留まって太陽光や星の光などを眺めた後、3時間かけて地球に戻ってくる。 ドムジャンさんの広範囲に渡る目的の一つであるソーラー飛行は、「今日、ソーラー発電で驚くようなことが可能になる」を実証することにある。 もし今回のソーラー飛行が成功すれば、次はZero2Infinity社やWorld View社のような会社と提携し、より大きな機体の商用機の開発を考えているとドムジャンさんは話している。 もう一つの計画は、サテライトに取って代わる、ないしはサテライトをサポートするために成層圏用のソーラードローンを開発することだ。こうしたドローンは現在、フェイスブック社やグーグル社 によっても開発されている。 もっと読む 成層圏を目指すソーラー飛行機、スイスで初の試験飛行
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