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日産、生きがい、高畑勲… スイスのメディアが報じた日本のニュース

高畑勲展のようす
スイス西部ローザンヌの現代デザイン応用美術館mudacでは4月24日~9月27日、高畑勲展を開催中 KEYSTONE/Jean-Christophe Bott

スイスの主要報道機関が4月22日~28日に伝えた日本関連のニュースから、①中国に苦戦し、中国に救われる日産②スイス人社会学者が読み解く「生きがい」③ローザンヌで高畑勲展、の3件を要約して紹介します。

スイスの山や小さな村を歩いていると、驚くほど既視感のある風景に出会います。温かみのある木窓、家具のサイズ感、牧草と岩肌のコンビネーション……それらをアニメで再現できたのは、制作陣の綿密なロケハンがあったからです。ローザンヌの高畑勲展を紹介したスイスメディアも、そろってそのこだわりに触れていました。スイスインフォが2019年に配信したロケハン秘話と合わせてご高覧ください。

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中国に苦戦し、中国に救われる日産

経営難に直面する日産自動車。イバン・エスピノーサ社長のもとで復活を目指す同社の動向は、スイスのメディアにも注目されています。フランス語圏大手紙ル・タンは、日産の世界戦略と、その中での中国市場の存在感を描く仏紙ル・モンド外部リンクの解説記事を転載しました。

「スティーブン・マー氏は1枚の写真で、自動車業界全体、そして特に日産が直面する問題を的確に言い表した」。記事が冒頭で紹介したのは、日産の元最高財務責任者(CFO)で今は中国事業を率いるマー氏が、今月13日の新型モデル試乗会で記者団に見せた写真です。中国・小米集団(シャオミ)の自動車子会社「シャオミオート」の上海本社を写したもので、午後11時40分でも電灯の8割が灯っていました。マー氏は「CFO時代は確かに忙しかったが、今の中国人の仕事ぶりに比べたら何でもない」と語ります。

この1枚が示すのは「中国市場の勢い」です。記事は、日産の中国市場での販売数は2018年の150万台から2024年の70万台へと激減したことを引用し、「横浜のエンジニアたちは、これまで認めようとしなかった事実を認めざるを得なかった。中国のエンジニアから学ぶべきことが山ほどある、ということを」と綴りました。

一方で記事は、中国市場を単なる「脅威」としてではなく、再建の鍵となる可能性にも言及しました。「中国市場との競争は、日産を2度目の倒産の危機に追い込んだが、今度は中国市場が日産を救うかもしれない」。マー氏によれば、日産は「『中国のために中国で開発する』のではなく、『世界のために中国で開発する』」戦略で、中国に拠点をおくことで現地のサプライヤーを活用し、迅速・低コストで新モデルを開発できるといいます。横浜の日本本社はデザインを承認するだけで、「それ以外のことはすべて中国のチームが自由に決定できた」と記事は説明します。

これについて、記事は「象徴的な内燃機関車を生み出してきた日本のエンジニアたちは、もはやその才能を失ってしまったのだろうか?」と嘆いてみせます。そして日産の最大市場であるアメリカではドナルド・トランプ政権の関税政策が、欧州では複雑な規制が販売回復の足かせになっていると解説しました。

「今、自動車市場の基準を定めているのは中国だ」。記事はエスピノーサCEOの言葉を借りて、日産の世界戦略を次のように総括しました。「大胆なデザインで際立ったモデルを投入し、中国のスピードに合わせて開発を進め、パートナー企業との連携でコスト削減を図ることで、中国市場を羅針盤として、非常に機敏な動きを実現する」。しかしそれでグループ再建に成功するかどうかは「一か八かの勝負だ」と結びました。(出典:ル・タン外部リンク/フランス語)

スイス人社会学者が読み解く「生きがい」

日本語の「生き甲斐」という言葉は日本発の概念として、外国でもそのまま「Ikigai」という言葉で紹介されています。スイスのタブロイド紙ブリック有料版は、Ikigaiとは何か、なぜヨーロッパでも注目されているのかを、東スイス応用化学大学の社会学者サビーナ・ミソッホ外部リンク教授にインタビューしています。

老年学を専門とし、2017年に日本で研究中に偶然Ikigaiという概念に出会ったというミソッホ氏は、Ikigaiは「単なるライフスタイルの流行」ではない、と強調します。「Ikigaiは私たちが多くを学ぶことができる学習モデルだ」

なぜIkigaiが長寿をもたらすかについて、ミソッホ氏は次のように説明します。Ikigaiは自分の人生をコントロールできている、社会とつながっているという実感で、それは今だけではなく未来についても当てはまります。つまり「Ikigaiとは未来志向の生き方で、強い生き方を持つ人は、毎日前を向いている」。それは特に高齢者にとって重要なことで、「彼らは過去を嘆くのではなく、高齢でも自信を持って未来を見据えている」と記事は指摘します。

ミソッホ氏は、Ikigaiは「心理社会的要因の相互作用」だといい、その要因として「人生に対する前向きな姿勢」「忙しく責任感を持っているという感覚(毎日起きる価値のある何か)」「しっかりとした社会への統合」を挙げました。そしてまさに、沖縄の高齢者は社会に深くつながっており、自分の仕事に意義と充実感を感じ続けられるのだといいます。

記事は脳科学者の茂木健一郎氏の著書「IKIGAI」(2018年)から「小さなことから始める」「手放すことを学ぶ」などIkigaiを得るための5つの要素を紹介。ミソッホ氏は「これらが些細なことにみえても、まさにそれがIkigaiの本質だ」と読み解きます。

欧州でIkigaiが注目されているのは、欧州社会が速さや効率の追求という「異なる方向に向かっている」からだと語り、「沖縄の高齢者たちは、それとは対照的な生き方によっていかに満足感と健康が得られるかを示してくれる」と解説しました。(出典:ブリック外部リンク/ドイツ語)

ローザンヌで高畑勲展

スイス西部ローザンヌにある現代デザイン応用美術館(mudac)で24日、日本を代表するアニメーション映画監督、高畑勲(1935~2018年)をテーマにした回顧展が始まりました。スイスを舞台にしたアニメ「アルプスの少女ハイジ」を監督した同氏の名はスイスでも知られており、フランス語圏メディアが手厚く報じています。

「高畑勲は自ら絵を描くことはなかったが、チームに自身のビジョンを浸透させる術を知っていた、真の芸術家」。こう評したのは大手紙ル・タンです。

同紙は高畑が芸術家を志すきっかけとなった出来事にも触れています。1955年、映画館で見かけたフランスの詩人・脚本家ジャック・プレヴェールの作品「やぶにらみの暴君」のポスターが、進路に大きな影響を与えました。イタリア語圏のスイス公共放送(RSI)も、ポッドキャストでこのエピソードを紹介しました。ローザンヌの高畑勲展外部リンクでキュレーターを務めたザビエル・カワ・トポル氏は、「自分がまさに傑作を目の当たりにしていることに気づき、アニメーションが持つ可能性――すなわち、アニメーションが極めて高い水準の詩的な芸術となり得ること、さらには世界に対して政治的な視点を投げかけることもできることを発見した」と解説しています。

高畑は同作を繰り返し鑑賞・研究し、「宗教建築から印象派に至るまで、西洋美術から多大な影響を受けた」(ル・タン)。今回の回顧展では高畑とヨーロッパ、とくにフランスとのつながりを掘り下げているといいます。

カワ・トポル氏はRSIで、日本アニメの受け止められ方についても解説しました。「ヨーロッパではアニメーションは長い間過小評価され、注目に値しない子ども向けの作品と見なされてきた」。さらに、「少なくとも1970年代~80年代にかけては日本人に対する文化的偏見も影響し、これらの作品は本来あるべき姿、すなわち芸術の一形態として全く評価されていなかった」と言います。

日本アニメが芸術として評価されるようになったのは、映画「千と千尋の神隠し」の国際的な成功でした。宮崎駿監督に比べると一般的な知名度は限定的な高畑でしたが、カワ・トポル氏は「明らかに優れた知性の持ち主であり、西洋の文化、芸術、歴史に対して非常に独特な趣味と強い関心を培ってきた人物」と絶賛。「アニメーションの可能性について深く考察し、その境界を広げ、実験を重ねながら、日本のみならず国際的にも決定的な影響を与えることになる現代アニメーションの礎を築いた」と強調しました。

フランス語圏のスイス公共放送(RTS)ではmudacのマルコ・コンスタンティーニ館長が展覧会の見どころを語りました。高畑のスケッチやデッサン、絵コンテなどさまざまな資料を「細心の注意を払って」日本から輸送してきたとのこと。「高畑のデッサンを展示できること、そして必要な技術的専門知識を持っていることを証明するために、1年半以上にわたる協議、交渉、渡航、外交努力を重ねてきた」

RTSは、高畑はディスニー映画に出てくるような善悪が明瞭なキャラクターではなく、「登場人物の心理、そのニュアンス、矛盾、神経症に深く関心を寄せていた」と続けます。また「物語と舞台装置の一貫性も重要な要素であり、力強く真実味のあるリアリティを生み出すことを求めた」と紹介しています。

RTSはさらに、「高畑勲の作品は、その鮮やかで詩的、そして夢のような物語に加え、日本文化と西洋文化に対する異文化的な視点によって、老若男女を問わず人々を魅了し続けている」と締めくくりました。(出典:ル・タン外部リンクRTS外部リンク/フランス語、RSI外部リンク/イタリア語)

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ヨハンナ・シュピーリの名作「ハイジ」に関してはもう1つニュースが。日本人にとってハイジといえば高畑アニメですが、地元スイスでは繰り返し映像化されています。映画化だけでもその数10本以上。そして次なるプロジェクトは、ドイツ語圏のスイス公共放送(SRF)とドイツのRTLが共同制作する連続ドラマで、2027年に放送予定です。

プロジェクト自体は昨年2月に発表外部リンクされていましたが、いよいよ来月、撮影が始まるそうです。ロケ地はスイス南東部グラウビュンデン州のヴァル・ブレガリアで、キャストは未公表。果たしてどのようなハイジが描かれるのでしょうか。

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ハイジが再びTV映像化、スイスで撮影へ

このコンテンツが公開されたのは、 スイス南東部グラウビュンデン州のヴァル・ブレガリアで、来月からハイジの新たな映像化作品の撮影が始まる。シリーズは2027年、ドイツとスイスで放送される予定だ。

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校閲:大野瑠衣子

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