The Swiss voice in the world since 1935
トップ・ストーリー
スイスの民主主義
ニュースレターへの登録
トップ・ストーリー
ディベート
すべての議論を見る

再エネ普及でも化石燃料に依存? 中東情勢で顕在化するスイスのエネルギー事情

ガスコンロ
スイスは依然として天然ガスやその他の化石燃料への依存度が高い Keystone

中東での衝突を発端とするエネルギー危機は、スイスがどれほど石油と天然ガスに頼っているかを浮き彫りにした。この国の化石燃料依存に関する一般的な疑問への回答をまとめた。

おすすめの記事

国際エネルギー機関(IEA)外部リンクによると、中東での武力衝突は「世界の石油市場で過去最大の供給混乱」を引き起こしている。国際原油取引の約20%が通過するペルシャ湾のホルムズ海峡が封鎖されたことで、エネルギー価格の高騰や経済成長の鈍化、地政学的緊張の再燃といった影響が世界中に及んでいる。

スイスエネルギー基金(SES)はイランでの戦争について「集中型エネルギーシステムの脆弱性が改めて示された。スイスは化石燃料への依存によって自らに害をなしている」と主張する。4月末には気候・環境問題に取り組む国内NGO計7団体の連名で、石油と天然ガスに頼る現状を速やかに脱却するよう連邦政府に要求した。

スイスは発電部門の温室効果ガス排出の抑制で広く模範とみなされているが、依然として化石燃料に深く依存している。石油・ガスの年間輸入額は数十億フラン(10億フラン=約2040億円)に上り、これなしでは国が立ち行かなくなるだろう。

スイスのエネルギー源に占める化石燃料の割合は?

スイスの電気はほぼすべて、水力や太陽光、風力といった再生可能エネルギーと原子力で賄われている。化石燃料は燃やすと大気中に温室効果ガスを放出し、気候危機を大きく助長するが、国内発電量に占める割合は小さい(電源構成比2.3%=2025年)。下図の通り、その比率は欧州、そして世界でも最低の部類に入る。

外部リンクへ移動

しかし、電力以外のエネルギーにまで視野を広げると様相は一変する。スイスでは2024年、最終エネルギー消費の58%が化石燃料に由来していた。ここにはガソリンや暖房油、航空燃料といった石油製品(45.7%)や天然ガス(12.3%)が含まれる。

エネルギー管理を専門とする西スイス応用科学芸術大学(HES-SO)のステファン・ジュヌー教授は「スイスでは電力システムの化石燃料使用は比較的少ないが、最終エネルギー消費はまだ輸入炭化水素に深く依存している」と語る。

原油由来の製品は交通や暖房、工業生産に不可欠で、ガスは調理や住宅暖房を中心に使われる。

スイスの道路を走る自動車のうち、ガソリンかディーゼルで動くエンジン車の割合は9割を超える。化石燃料は建物でのエネルギー消費でも大勢を占め、住宅建築の6割で暖房向けのボイラーに使われている。

外部リンクへ移動

先進工業国の比較では、スイスの化石燃料依存は比較的軽い。この国の最終エネルギー消費に石油、ガス、石炭が占める割合はわずかながら60%を切り、一般的な65〜85%を下回る。ただし、北欧諸国のような脱炭素化の最先端を行く国々には、まだ後れを取っている。

スイスが消費する化石燃料の調達先は?

スイスは自国で消費する化石燃料を全て輸入している。2025年の原油調達先は主に米国で、一部はナイジェリアだった。なお、米国はホルムズ海峡封鎖後、世界最大の原油輸出国になっている。

スイスはガソリン、ディーゼルなどの石油精製品も輸入している。主な調達先は欧州連合(EU)諸国で、そのEU諸国の調達先は米国やノルウェー、サウジアラビアだ。

天然ガスもEU経由でスイスに入る。2025年に欧州が輸入したガスの4分の3はノルウェーやアルジェリアから気体で届き、液化天然ガス(LNG)の大部分は米国から運ばれた。

調達先の構成は信頼できる?

チューリヒ応用科学大学(ZHAW)で地政学・経済分析を手がけるカルドゥン・ディア・エディン氏はスイスインフォに対し、スイスのエネルギー安全保障は現時点で「平均を上回り」、長期的な石油・ガス供給は現状では「保証されている」と語る。

ディア・エディン氏によると、石油に関してスイスの状況は良好だ。調達先には地理的多様性と信頼性があり、関連設備は目下の地政学的衝突で直接の影響を受けていない。

一方、天然ガスの調達は石油に比べて微妙な状況にある。スイスは大規模なガス備蓄施設を欠き、近隣諸国を経由したガス輸入に頼っている。同氏によれば、直ちに供給不足のリスクが生じるわけではないが、現在の構図は政治的な依存につながり、情勢が極端に推移した際に悪影響をもたらしかねない。

おすすめの記事
中東での武力衝突により、スイスでもガソリンやディーゼル油が値上がりしている

おすすめの記事

エネルギー転換

中東情勢とスイス、石油・ガスは供給確保も影響免れず

このコンテンツが公開されたのは、 中東での武力衝突により世界の石油・ガス流通が妨げられている。事態の長期化や化石燃料の値上がりは、ペルシャ湾岸にエネルギー供給を直接依存しないスイスにも影響を及ぼす見通しだ。

もっと読む 中東情勢とスイス、石油・ガスは供給確保も影響免れず

ジュヌー氏によれば、スイスの現在の対米依存には問題がある。世界市場は変動が大きく、スイスはその動向に対して無防備だ。実際、米国産を中心とするLNGのコストやアジア諸国との競争は、輸入価格への影響を増している。

また、スイスは自前のLNG受け入れ基地を持たず、近隣諸国の再ガス化・輸送能力に依存している。緊張が高まったり各国が国内事情を優先したりする事態があれば、「従属的な立場」に置かれることになる。

化石燃料への支出額は?

政府統計に基づくスイスエネルギー基金のまとめによると、2015〜24年のスイスの化石燃料・核燃料輸入額は年間51億7000万〜111億6000万フランで、最低額は2016年、最高額は2022年に記録された。2022年はロシアのウクライナ侵攻とそれによる天然ガス価格の高騰により、輸入額が増加した。

また、2024年の輸入額を燃料種別に見ると、石油・石油精製品は61億7000万フラン、ガスは19億4000万フラン、核燃料は1億1900万フラン、石炭は1600万フランだった。

ペルシャ湾での化石燃料輸送の混乱は、スイスのエネルギー調達コストに影響を与える見通しだ。スイス連邦工科大学チューリヒ校(ETHZ)の研究者、シリル・ブルンナー氏の試算によると、上昇幅は年間50億フランに迫る可能性がある。

排出削減の中間目標、なぜ達成不能?

スイスも多くの国と同様、2050年までに温室効果ガスの排出量と吸収量を差し引きゼロにすることを目指している。中間目標として2030年までに1990年比50%の排出削減が求められるが、これは政府高官でさえ達成不能と考えている。

ジュヌー氏によれば、スイスのエネルギー移行を遅らせている要因は主に2つある。1つ目は、過去の石油価格が安すぎたせいで、値上がりがさほど家計に影響しないことだ。「よく言われるように、エネルギー消費に本物の変化を引き起こすには1バレル100ドル(約1万5900円)では安すぎる」

2つ目は、石油のエネルギー密度が高い(同じ体積に含まれるエネルギー量が多い)ことだ。この特徴のせいで、トラック燃料などの用途では信頼に足る代替手段がなかなか見つからない。ジュヌー氏は「エネルギー移行を促すには(化石燃料の)価格を引き上げるか、(代替エネルギーに)補助金を出すか、その両方が必要になる」と語る。

さらにジュヌー氏は、再エネへの移行を支援することは化石燃料依存の軽減だけでなく、貿易収支の改善にもつながると強調する。同氏は「化石燃料製品はすべて海外からもたらされるが、再エネは国内で生み出される」と述べ、自動車や暖房などの電化と再エネ発電の拡大を急ぐ必要があると主張する。

気候政策を専門とするETHZのアンソニー・パット教授は、こうした変化が勢いを欠いている責任は現在の連邦政府にあると批判。スイスインフォに対し、「現政権は交通手段の電化を重視せず、電気自動車(EV)の購入を妨げる主な要因に対処していない。具体的には、住宅地の充電インフラが不足している」と語る。

パット氏によれば、暖房システムも似た状況にある。この分野は不動産所有者にヒートポンプへの投資を促す改修助成制度が奏功するなど、比較的うまくいっているが、連邦内閣は予算削減を図る動きを続けている。同氏は、政府の選択が「進歩を遅らせかねない」と批判する。

外部リンクへ移動

中東での衝突がスイスの化石燃料依存に及ぼす影響は?

スイスはエネルギー調達をペルシャ湾岸に直接依存していないため、化石燃料の供給は途切れていない。しかし、世界市場での値上がりにより、ガソリンや暖房油の国内価格は上昇している。

スイスエネルギー基金のエネルギー・気候専門家マルセル・ヘンキ氏は、現状が触媒となり、化石燃料から離脱する必要があるとの認識が高まることを期待する。同氏はイタリアやドイツなど欧州諸国が実施した燃料減税外部リンクに触れ、スイスが「今の依存をさらに深める政策への誘惑に屈していない」ことは最初の吉兆だと評価する。

ジュヌー氏によれば、急速なエネルギー移行が差し迫って必要だという認識は高まっており、スイスの化石燃料依存は中期的に低減していく見通しだ。

緑の党(GPS/Les Verts)は急速かつ計画的に化石燃料から離脱するため、国としてのロードマップ(行程表)を定めるよう求めている。パット氏は「スイスが化石燃料への依存を軽減し、最終的に根絶する絶好機が訪れている。だが、その実現には適切な政策的支援が不可欠だ」と語っている。

編集:Veronica De Vore、英語からの翻訳:高取芳彦、校正:宇田薫

人気の記事

世界の読者と意見交換

swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。

他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部