
Z世代狙いで進むスイーツの「不健康化」

食品会社にとって、いまやZ世代は収益向上の鍵だ。スイーツが大好きでソーシャルメディアのトレンドに敏感なこの世代を狙ったマーケティングが進む一方、健康への影響も懸念される。
Z世代(1997~2012年生まれ)はミレニアル世代とアルファ世代の中間にあたる。世界人口の25%を占め、史上最大の消費者層へと急速に成長しつつある。市場調査大手ニールセンIQ/GfKとワールド・データ・ラボが昨年発表した共同レポート「Spend Z外部リンク」によれば、この世代の購買力は2030年までに12兆ドル(約1774兆円)に達し、世界の消費支出の18.7%を占める見込みだ。
レポートはまた、2029年までにZ世代の購買力はベビーブーマー世代(1946~64年生まれ)を上回り、最も裕福な世代になるとも指摘。Z世代の消費は今後10年間で年平均4%のペースで成長すると見込まれている。
スイス食品大手ネスレのような企業の今後の成長にとって、Z世代の消費者は計り知れない可能性を秘めている。しかし、過去世代ほど簡単に心をつかめるわけではない。Spend Zのレポートによれば、Z世代は特定のブランドに固執する傾向が少なく、67%がノーブランド(プライベートブランド)も、全国展開の有名ブランドも、製品の品質は変わらないと考えているという。
ストレス食いにつけ込む高カロリー商品
Z世代の財布を開かせる方法の1つは、彼らの「ご褒美欲」に訴えることだ。特にストレスを感じているときが狙い目である。国際食品情報協議会(IFIC)の2022年のレポート外部リンクによると、米国の調査対象者のうち、 自分が「大きなストレスを感じている」と回答した割合はZ世代が33%と最も高く、ミレニアル世代は29%、X世代は25%、ベビーブーマー世代は10%だった。さらに、今年1月に発表されたZ世代の健康・ウェルネス意識に関する調査外部リンクでは、6割がストレスを紛らわすために不健康な飲食物に手を伸ばすと回答している。
Z世代にとっては、自分に合った食品を選ぶ行為自体がストレスとなっている。嗜好品ブランド専門のブランディングエージェンシー、Method 1の最近の分析「Being Good by Being Bad外部リンク(仮訳:ダメなことしてラクになる)」は、健康志向と嗜好品欲求の間で葛藤するZ世代の姿を浮き彫りにしている。分析によると、この世代は自分のアイデンティティーや価値観と一致する飲食物を選ばなくてはならないと考えており、それが並外れたプレッシャーになっている。そして、このプレッシャーが生むストレスを解消しようとご褒美感のあるスイーツに手を出し、結果として、さらに罪悪感を抱くようになるという。
Method 1でブランド部門を統括するアリソン・アーリング・ジョージ氏は「Z世代はインスタグラムにグリーンスムージーや日々のエクササイズを投稿しながら、裏ではストレス食いをしている。昼間はマクロ栄養素(炭水化物、脂質、たんぱく質)の摂取量と瞑想の連続日数を記録しつつ、深夜になると日常のストレスに押しつぶされそうになり、味の濃い高カロリー食品に手を伸ばしてしまう」と解説する。
今年8月に英蘭系食品・日用品大手ユニリーバが発売したアイスクリーム「コルネット・マックス」は、後ろめたさを覚えつつも嗜好品に手を出してしまう心理を企業が巧みに活用した例だ。同社はウェブサイト外部リンクで「コルネット・マックスは、やり過ぎを楽しむトレンド、『マキシマリズム(過剰主義)』を愛するZ世代にアピールするよう開発された」と、この新商品のターゲット層を明確に述べている。
コルネット・マックスは、チョコレート味のプレートがトッピングされ、ソースがたっぷりと絡んだ濃厚な味わいが特徴だ。従来品に比べてカロリーもかなりのもので、定番の「コルネット・クラシコ チョコレートバニラ」が100gあたり272kcal、脂質15gなのに対し、コルネット・マックスの「ヘーゼルナッツ&チョコレート」は、100gあたり349kcal、脂質19gだ。
マキシマリズム路線を採っているのはユニリーバだけではない。ハーゲンダッツ(ネスレブランド)の新商品「エクストラーズ」シリーズも、クッキーバター(クッキー風味のペースト)やファッジブラウニーが入るなどヘルシーとは言えないラインナップで、やはりカロリーが高めだ。たとえば「クッキーバター・クランブル」は4分の3カップあたり430kcalなのに対し、クラシックな「チョコレート」は同量で370kcal。1食あたり約15%多い計算となる。
ネスレは2024年の年次報告で「カナダで発売したハーゲンダッツの新商品『エクストラーズ』の各フレーバーは、若い世代のアイスクリーム消費者に響くよう特別に開発されており、刺激的な味わいと五感で楽しめる体験を提供している」と述べている。
TikTokトレンドに便乗?
Z世代のもう1つの特徴は、購買力の過半数を新興国が占める初めての世代である点だ。ちなみに、欧州と北米のZ世代は全体のわずか10%で、消費支出に占める割合も44%にとどまる。
新興国のZ世代の消費者の一例が、マレーシアの首都クアラルンプールのマラヤ大学で経済学を専攻する3年生のLock Chun Yieさん(22)だ。Lockさんは2024年に、ネスレのマレーシア支社によって、国内の大学生12人のブランドアンバサダー「ネスレ・ユース・インフルエンサー」の1人に選ばれた。
ユース・インフルエンサーの役割は、ソーシャルメディアを通じて学生の間にネスレ製品の話題を発信することだ。無報酬だが、ネスレから特別ギフトが贈られ、同社でのワークプレイスメント(就労体験型学生派遣)の優先権を得るなどの特典がある。
スイスインフォの取材に「ネスレ製品で一番好きなのは、チョコレート味のミロです」と答えたLockさんは「私はネスレと学生コミュニティの橋渡し役として活動しています。就職フェアなど学内イベントの企画運営を手伝い、インスタグラムのストーリーズを活用してネスレのイベントを宣伝し、参加者やボランティアを集めています」と話す。
食品会社は、Z世代にアプローチし、この世代の「ご褒美感のあるスイーツ」への欲求を満たすため、ソーシャルメディアの力にますます頼るようになっている。2021年11~12月、英国の独立系財団ネスタは国内の13~16歳の若者284人を対象に、インターネットで目にした飲食物の広告データをクラウドソーシングで収集するプロジェクトを実施した。調査結果によると、この世代向けの広告の70%以上が、わずか4つのソーシャルメディア・プラットフォームから発信されていた。さらに、収集された4879件の広告のうち、70%以上が不健康な飲食物であると評価された。
食品会社が若者に栄養価の低い商品を販売するためにソーシャルメディアを活用した戦略としては、ネスレがTikTokのトレンド「ダーティーソーダ」に乗じた例が挙げられる。ダーティーソーダは、ソーダにフレーバーシロップやクリームなどを加え、氷の上に注いで作るドリンクだ。
ネスレはドクターペッパーとコラボし、ダーティーソーダ向けの特製クリーマー(非乳製品で長期保存可能なクリームなどの代替品)を開発した。
同社は今年2月に発表した2024年の年次報告で「ドクターペッパーとの共同開発によるコーヒーメイトシリーズの新商品『ダーティーソーダ ココナッツライム』は、TikTokで話題沸騰の『ダーティーソーダ』トレンドを活かし、この代表的ブランドの新しい楽しみ方を広げている」と述べている。
クリーマー大さじ1杯(15ml)をソーダに加えると、もともと不健康な炭酸飲料にさらに35kcalが上乗せされる。そのクリーマーには遺伝子組み換え原料も含まれている。
オーストラリアのディーキン大学で「Global Centre for Preventive Health and Nutrition(仮訳:予防保健・栄養グローバルセンター)」の共同ディレクターを務めるキャサリン・バックホラー氏は「ドクターペッパーとのコラボレーションでTikTokの『ダーティーソーダ』トレンドに乗ったネスレの事例は、食品産業が常に子どもたちの健康よりも利益を優先している実態を示している。不健康な食生活はさまざまな慢性疾患の代表的なリスク要因だが、このようなインターネット上の一見無害に見えるマーケティング手法は、子どもたちの健康的な成長を阻む環境を作ってしまっている」と話す。
バックホラー氏は、TikTok上の不健康な飲食物のマーケティングを調査した初の科学論文「Turning users into ‘unofficial brand ambassadors’外部リンク(仮訳:ユーザーを『非公式ブランドアンバサダー』に変える)」の共著者の1人だ。この研究によると、調査対象のマーケティング動画のうち、92%が企業から報酬を得ていないユーザーが自主的に投稿したもので、その73%が好意的な内容だった。これは、ユーザー生成コンテンツを通じて、消費者自身が意図せず広告の制作者や拡散者になっていることを示している。
なお、ネスレは10代の若者に新製品を宣伝するために、ソーシャルメディアで爆発的人気となったトレンドに便乗したわけではない、としている。
同社の広報担当者は「当社は長年、子ども向けマーケティングに関しては社会的責任を意識した取り組みを自主的に行っており、厳格な基準を設けている。16歳未満の子どもについては、ソーシャルメディアも含め、すべての広告媒体での有料広告を制限している。この方針はインフルエンサーとのパートナーシップにも適用され、18歳未満のインフルエンサーとは契約しない」としている。
しかし、その方針に背くことなく若年層の心をつかむ方法はほかにもある。たとえば、圧倒的なフォロワー数を誇る35歳のインフルエンサーと契約する、といった具合だ。今年5月、ネスレはTikTokで8200万人のフォロワーを擁する米国の映像クリエイター、ザック・キング氏とのパートナーシップを発表外部リンクした。マジックやイリュージョン動画の投稿で話題となり、TikTok史上最多再生記録外部リンクを持つ同氏は、ネスレ初のグローバル・インフルエンサーに起用された。
「ザック・キング氏のファン層は若く多様で、新商品『ネスカフェ エスプレッソベース』のスピリットと合致している」。ネスレのコーヒーブランド責任者であるデビッド・レニー氏はパートナーシップ発表に際し、こう述べている。
編集:Virginie Mangin/ts、英語からの翻訳:吉田奈保子、校閲:大野瑠衣子

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