危ぶまれるコロンビアの和平実現

長期内戦の傷跡が癒えない南米コロンビアで人権問題に取り組むルース・マリナ・モンソン・シフエンテス弁護士は、和平実現に対する国際社会からの支援を途切れさせてはならないと警鐘を鳴らす。コロンビアが今必要としているのは、暴力の渦中にある小規模コミュニティに配慮した和平政策だという。

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コロンビアでは政府と左翼ゲリラ・コロンビア革命軍(FARC)との間で53年にわたり内戦が続き、22万人以上が死亡した。2016年に和平合意を主導したフアン・マヌエル・サントス大統領(当時)は同年ノーベル平和賞を受賞した。刑法と犯罪学を専門とする法律家であるモンソン氏は、サントス氏とならび和平プロセスにおいて中心的な役割を担った人物だ。
同氏は2018~2023年まで、和平合意に基づき創設された「行方不明者捜索ユニット(UBPD)」の初代トップを務めた。数十年にもわたり武力紛争が続いたコロンビアでは、届け出のあった行方不明者の数が10万人を超える。
モンソン氏は現在、非政府組織(NGO)Otras Voces外部リンク(もうひとつの声、の意)の代表を務める傍ら、PeaceWomen Across the Globe外部リンクのメンバーとしても活動を展開している。デボラ・シブラー事務局長率いる PeaceWomen Across the Globeは、スイスで立ち上げられた非営利組織(NPO)であり、平和活動に従事する女性たちを支援している。
モンソン氏は先ごろシブラー氏とともにスイスを訪れ、スイス連邦外務省の担当官との会合、さらには連邦議会議員との会談に臨み、コロンビアの現状について詳細な報告を行った。swissinfo.chはこの機会をとらえ、同氏に話を聞いた。

swissinfo.ch:赤十字国際委員会(ICRC)によると、コロンビアは現在、2016年にコロンビア革命軍(FARC)との和平合意が結ばれて以来、人道上最悪の状況にあると言われ、多くのコミュニティが、ゲリラ組織の分派グループ間の争いの前線に巻き込まれています。和平の実現は、今でも可能だとお考えですか?
ルース・マリナ・モンソン・シフエンテス氏:武装勢力間の抗争に関連して、とりわけ危機的な状況にある地域が国内に3つ存在します。南西部に位置するカウカ県の状況が最もひどく、ベネズエラと国境を接するノルテ・デ・サンタンデル県のカタトゥンボも非常に危険な状況です。
また、北西部のチョコ県は、おそらく被害が最も甚大な地域でしょう。同地では、先住民が屈することなく草の根の抵抗運動を続けており、そのため暴力行為がより残虐なものになっています。
チョコ県は、これまでも国家の力が及ばない地域でした。南北に長く広がっており、連携して抵抗運動を展開する機会が非常に限られています。
だからこそ、これらの地域を適切にカバーし、変化を目に見える形で示すことのできる、そして人々がトンネルの先に光を見出せるような和平政策が必要なのです。これらのコミュニティは対立など望んでいません。人々の願いは、尊厳ある生活です。
私たちは、これらのコミュニティと、そこで暮らす人々を支えなければなりません。平和とは地域住民とともに築かれるものであり、暴力を終わらせる道はあるのだということ、そしてこれらの地域が今後再び見捨てられるようなことはない、というメッセージを伝えていかなければなりません。

swissinfo.ch:多くの、そして相互に競合する利害関係が存在しますが、それでもなお、和平合意の履行と話し合いの継続は可能だと信じていますか?
モンソン氏:私は、グスタボ・ペトロ現政権の和平政策を信じています。ペトロ大統領の政策は、ビジョンとしてよく練られています。単に武力をともなう暴力行為を終わらせることを目標にするだけでなく、不法採掘、麻薬取引、不平等、コミュニティにおける正義の欠如といった紛争につながり得る分野の対策も考慮されています。
これこそが、ペトロ大統領の掲げる「全面的和平」アプローチの定義です。とはいえ、政策を実行に移すにあたっては政治の意志に加えて、一定の条件が揃うことが必要であり、それなくして地域コミュニティに平和が訪れることはありません。
swissinfo.ch:「全面的和平」というゴールへ向けて、これまでどのような進展がありましたか?また目標達成への障害となっているものは何でしょうか?
モンソン氏:現政権は、すでにいくつかのことを成し遂げています。たとえば、農村部の人々にとって不可欠と言える、土地や農地の再配分が挙げられます。これまで一切そのような対策が取られてこなかった地域でも、国土庁(ANT)が土地の割り当てを行っています。
他方、その他の施策、たとえばヘルスケア、教育、住宅、地域コミュニティにおける経済的な機会などが挙げられますが、これらについては財源が必要です。しかし、コロンビア議会は和平政策に今までのところ十分対応しきれていません。それどころか、意図的に政策の推進を阻んできました。
swissinfo.ch:目下の最大のリスクは何でしょうか?
モンソン氏:現時点での最大のリスクは、武力紛争にまつわる旧弊的な考えが、これまでの努力を台無しにしてしまうことです。ここで言う努力には、コロンビアと現政権によるものだけでなく、国際社会からの貢献も含まれると私は考えています。
和平へ向けた取り組みと交渉が現在の水準にあるのは、こうした国際的な支援があってこそだということを、私たちは認識しなければなりません。
国際的な支援がなければ、取り組みはもっと遅れていたことでしょう。なぜなら、和平実現への意志は地域社会から生まれるのであって、その逆、つまり既得権益のために紛争状態の維持を望むような、人々の命を守る政策の推進を妨害するような古いタイプの政治家から生まれるものではないからです。
武力紛争は、単に誰かが武器を手にしたから発生するのではありません。そうではなく、土地や権力が公平に分配されず、少数の人々の手に集中しているコロンビアのような社会における、根深い不平等や人々が感じる疎外感の表出として起こるのです。システムとして、政治参加や、異なる考えを述べることのできる場が抑圧されているのです。

swissinfo.ch:スイスは2001年以来、コロンビアの和平へ向けた取り組みを積極的に支援してきました。具体的な成果につながっていますか?
モンソン氏:スイスは、ノルウェー、スペイン、ドイツと同様、コミュニティや地域と密接に関わり、いくつものプロジェクトを支援し、人権保護のためのイニシアチブを推進してきました。
スイスをはじめとする国々が継続的な活動を展開し、また2016年の和平合意内容の履行へ向けて支援できるのも、その取り組みを通して形成された人的ネットワークのおかげです。
これらの国際的な支援組織は、和平交渉の段階になってはじめて姿を現したのではなく、それ以前からコロンビアの置かれた状況をよく理解していました。これは和平プロセスにおいて非常に重要な意味を持ちましたし、今でもそうだと言えます。
コロンビアの地域社会は、スイスを非常に信頼できる国だと評価しています。スイスの側も、コロンビアにおける行方不明者捜索の重要性を認識してくれています。

swissinfo.ch:コロンビアの大統領選挙を1年後に控えたタイミングでのベルン訪問となりましたが、スイスに対するメッセージをお聞かせください。
モンソン氏:国際社会に対する私のメッセージは次の通りです。コロンビアの紛争解決を実現するための支援を、特に政治的な支援を断念してはなりません。
現下の紛争はある意味、和平合意後、新たに再燃したものです。なぜなら、国内に今なお武装勢力の残党が多数存在しているからです。しかし、現政権は確固たる意思をもって解決の道を模索しています。
多種多様な武装勢力とのあいだで解決策を模索するのは、容易なことではありません。その点において、国際社会のプレゼンスは、交渉の意志を維持し続けるための「保証」のような役割を果たしています。
地域コミュニティに尊厳ある生活への展望を与えようとしない、それどころか、すべてを和平合意前の状態に戻そうとする勢力が存在します。選挙の時期が近づき、緊迫の度合いが増すコロンビアでは、未来への展望が危機に瀕しています。
swissinfo.ch:コロンビアの和平に対して、女性として何か望むことはありますか?
モンソン氏:私たちを取り巻く暴力的な環境のせいで、人々が、平和の実現のために戦い続ける勇気を失ってしまわないことを願います。
平和と人権の問題に注力する1人の女性としては、政治情勢に対する責任感のようなものが社会に生まれること、誰もが言いたいことを言える社会が実現すること、そして人々が、すべての人の生命や尊厳、自由の損失につながるご都合主義的な争いに惑わされなくなることを願っています。
コロンビアの人権状況
和平交渉と停戦合意にもかかわらず、コロンビアの市民は武力紛争とそれにともなう人権侵害や国際人道法への違反行為に苦しみ続けている。
最も大きな被害を受けているのが、先住民族、アフリカ系コロンビア人、零細農業コミュニティである。
行方不明者の捜索は難航しており、その数はいまだに増え続けている。政府当局によって保護措置の改善が図られたにもかからず、人権活動家も暴力の犠牲になっている。
出典:アムネスティ・インターナショナル
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編集:Marc Leutenegger、独語からの翻訳:鈴木ファストアーベント理恵、校正:ムートゥ朋子

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