世帯課税vs個人課税、どっちが公平?スイスで「結婚罰」廃止めぐり国民投票
法律婚の共働き夫婦は、事実婚カップルよりも高い税金を課せられるーー。スイスで「結婚罰」と呼ばれるこの不平等を廃止する税制改正法案が、3月8日の国民投票にかけられる。何が問題になっているのか。
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何が変わる?
全ての人は婚姻状況に関わらず、世帯ごとではなく個人単位で課税されるーー。これが、今回の連邦法改正案の最も主要なポイントだ。法律婚カップルは事実婚カップルと同様、夫・妻それぞれの収入と資産に課税する。連邦税、州、市町村税の全てに適用される。
この記事は、原語の記事を日本語読者向けに特別に編集・加筆した記事です。このため原語の記事とは内容が異なる場合があります。日本語読者向けに編集部が特別に編集した記事の特集ページははこちらです。
「結婚罰」って何?
スイスでは、一定額以上の所得があるスイス国民と永住者は毎年、自営業か会社員かにかかわらず確定申告をしなければならない。現行の制度では、法律婚の共働き夫婦の場合、夫婦の資産と所得を合算して累進課税する。
所得を合計するとより高い税率が課せられるため、特に高所得かつ所得が同等の共働き夫婦では税負担が重くなる。これがいわゆる「結婚罰」だ。ただ、全ての法律婚カップルが一律に高い税金を支払っているわけではなく、片働き、あるいは配偶者の一方の所得が著しく少ない世帯では、逆に税負担が有利になるゆがみも生じている。
州税レベルでは、すでに一部の州が、共同課税される所得を半分に分割して税率を決定する是正措置をとっている。連邦レベルでも配偶者控除などの緩和措置はあるが、税のペナルティー、あるいは逆にボーナスを受けている夫婦は65万組に上る。
誰が得をし、誰が損する?税収への影響は?
収入が同程度の共働き夫婦が減税の恩恵を最も受け、片働きの夫婦、夫婦間の所得格差が大きいカップルでは税負担が増える。
例えば夫婦の所得が合計20万フランで、それぞれが10万フラン(約2000万円、比率50:50)の場合、税負担はこれまでの6733フランから2696フランに減る。一方、片働き(100:0)では8566フランから1万1321フランに増える。
連邦税務局の試算によると、納税者の50%は減税、36%は変化なし、14%が増税となる。
子どもを持つ夫婦やひとり親への過度の負担を防ぐため、連邦税の児童扶養控除を引き上げ、夫婦間で均等に分配する。
議会に出された試算では、2026年ベースでは6億3000万フラン(約12億円)の税収減となる見込み。うち5億フランが連邦政府、1億3000万フランが州政府の減収になる。
なぜ国民投票に?
今回投票に付される法改正案は、中道右派・急進民主党(FDP/PLR)女性部が2021年に提起した国民発議(イニシアチブ)「婚姻状態に関係ない個人課税を外部リンク」に対する政府の「間接的提案」だ。憲法改正案である国民発議に対し、連邦法改正の方が同じ目的を早く達成できるとして策定した。
スイスの国民投票の仕組みとして、有効な署名が集まり成立した国民発議(イニシアチブ)は、投票にかけられる前にスイス議会(上下院)で審議し、賛成・反対の立場を表明するか、独自の対案を提起するかを決める。間接的対案は憲法改正ではなく連邦法改正で同様の目的を達成することが目的で、国民発議を提起した人は自分の提案を取り下げるかどうかを決められる。取り下げない場合は国民発議が国民投票にかけられ、可決されれば国民発議が発効、否決されると間接的対案が発効する。
政府の間接的対案をめぐる議会での議論は白熱した。左派の社会民主党(SP/PS)、緑の党、急進民主党、中道の自由緑の党からなる超党派が改正案を支持。中央党と保守系右派・国民党は改正案に強く反対した。2025年の採決では、僅差で可決された。
ただ結婚罰廃止を求める声は、1980年代に最高裁で違憲判決が出されたときから強まっていた。またイニシアチブとは別に、連邦議会では結婚罰解消を求める動議が2020年に出されていた。そこから25年かけて、ようやく個人課税が議会で可決された格好だ。
だが再び「待った」がかかった。政府・議会の決定を国民投票にかけるレファレンダム(国民表決)が提起されたためだ。
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レファレンダムとは?
結婚罰の解消に反対しているのは誰?
レファレンダムを提起したのは、国民党(SVP/UDC)、中央党(Die Mitte/Le Centre)、福音国民党、連邦民主同盟でつくる保守政党連合だ。レファレンダムはスイス農業連合や様々な家族支援団体の支援を取り付け、6万5000筆以上の有効署名を集めた。レファレンダムの成立には5万人以上の署名が必要だ。
保守派連合は、改正で最も不利益をこうむるのは片働き世帯、または夫婦の収入格差が大きい世帯だと主張。高収入の共働き世帯が最も恩恵を受け、これが新たな不平等を生むと批判している。
さらに、一部の州も「州のレファレンダム」と呼ばれる制度を利用し、制度改正に反対を表明した。ザンクト・ガレン州、オプヴァルデン準州、ヴァレー(ヴァリス)州、アッペンツェル・インナーローデン準州、アッペンツェル・アウサーローデン準州、シュヴィーツ州、アールガウ州、ウーリ州、ニトヴァルデン準州、トゥールガウ州の10州が名を連ねる。
これらの州は、一律的な個人課税制度を導入した場合、170万件の追加納税申告書を処理しなければならず、事務作業量とコストが大幅に増加すると訴える。
州のレファレンダムは、1874年の連邦憲法制定で制度が導入されて以降、実際に行われたのは今回が2度目だ。
賛成派の主張は?
イニシアチブを提起した急進民主党女性部は、全てのカップルが婚姻の有無に関わらず平等な立場に置かれることになり、その意味で、ここ数十年で最も重要な平等権改革だと訴える。
賛成派の主張は主に以下の通りだ。
所得が上がることで累進課税の不利益を被ることがなくなるため、女性の就労、キャリア意欲を促進し、スイスの多くの分野に影響を与えている熟練労働者不足にも対処できる。政府は結婚罰の廃止により、最大4万4000人の正社員雇用が創出されると見積もる。
スイスでは、働く女性の10人に6人が正社員雇用ではあるが週の労働時間が少ないパートタイム勤務をしており、この割合はヨーロッパでも極めて高い。
結婚罰の廃止が否決されたらどうなる?
仮に法改正案が否決された場合、急進民主党女性部はいったん撤回したイニシアチブ原案を「再起動」し、国民投票にかけることができる。その場合、2026年秋の国民投票で、中央党が提起済みの別の結婚罰解消案と同時に是非が問われる可能性がある。
中央党の案は一律に個人課税に移行するのではなく、夫婦に対して通常の共同課税による税額計算と、事実婚と仮定した場合の税額計算の二通りを行い、低い方の税額を適用するなどの措置が盛り込まれている。政府と国民議会(下院)はすでにこの提案を否決・反対している。全州議会(上院)の採決は今後行われる予定だ。
編集:Pauline Turuban、英語からの翻訳・追記編集:宇田薫、校正:ムートゥ朋子
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