文民ハッカーの戦争関与、法的保護の境界線は?
軍に所属しないハッカーによるサイバー工作が世界中の武力衝突で行われている。こうした「文民ハッカー」の活動は、自身が攻撃される危険とともに、巻き添え被害のリスクも生む。国際人道法(IHL)が義務付ける文民保護との兼ね合いについて、議論の現在地をまとめた。
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一般市民が戦争中の敵対行為に関与した事例は、何世紀も前から存在する。例えば、英国の有志は第2次世界大戦中、空襲を察知して電話で通報し、早期警戒に寄与した。
現在では軍に属さない人々によるハッキングがその代表例になっている。文民ハッカーたちの活動は、ウクライナやシリア、アルメニア・アゼルバイジャン間、インド・パキスタン間、イスラエル・イラン間、イスラエル・ハマス間での軍事衝突で拡大し、今も続いている。また、現代の戦地では、スマートフォンさえあれば誰もが軍事情報の提供者になり得る。データを収集し、数秒で送信できるからだ。
赤十字国際委員会(ICRC)とジュネーブ国際人道法・人権アカデミーは2025年の共同報告書外部リンクで、国防に「社会のすべて」を動員しようとする戦略では戦争行為への文民の関与がますます直接的になり、広範囲に及ぶと警告した。
この傾向は多くの疑問を引き起こし、固有の問題を生む。一般市民が自らを危険にさらすだけではない。紛争への関与に伴い、国際人道法(IHL)における戦闘員・非戦闘員の区別と保護の可否が問われてくる。
赤十字国際委員会は、文民が能動的に敵対行為に参加すればするほど、戦闘員との区別が曖昧になると指摘する。
報告書の執筆に加わった赤十字国際委員会のティルマン・ローデンハウザー法律顧問は、同団体は「今日のいくつかの武力衝突において、文民が紛争当事者のためのスパイ行為に携帯電話を使ったと疑われ、銃撃・拘束された事案を記録してきた」と語る。
2022年からロシアの侵攻を受けるウクライナでは、文民によるハッキングがとりわけ活発だ。
一般市民の戦争関与の様相は、ロシアによるウクライナ侵攻で変容した。従来のように個別に情報を提供するのではなく、ネットワーク化され、リアルタイムで諜報活動に貢献するようになった。例えば、ウクライナのデジタル変革省は2022年3月、チャットボット「eボロフ(Vorog=敵)」を導入。兵の動きや不発弾の位置、ロシア軍による物資輸送を通報できるようにしている。
大量のデータを送ってサーバーやウェブサイトを停止させる「分散型サービス妨害(DDoS)」攻撃を仕掛け、敵の弱体化を狙うハクティビスト(政治・社会的な目標を達成するためハッキングを行う人々)らもいる。その典型が「ウクライナIT軍」を名乗る文民集団だ。ロシア側の標的を攻撃するためウクライナ政府が創設し、後ろ盾となっている。この集団は「侵略者の経済を麻痺させ、金融、インフラ、政府の主要サービスを妨害する」ことにより、ウクライナの勝利を後押しすることを目標に掲げている。
曖昧化する境界線
国際人道法はハッキングそのものを明示的に禁止しておらず、文民による軍事目標へのサイバー工作にも縛りはない。しかし、軍所属のハッカーとの区別が曖昧になるにつれ、文民ハッカーを非戦闘員として保護すべきかとの問いは難解さを増している。
国連もまた、戦争中の文民ハッカーと文民保護を懸案に挙げている。アントニオ・グテーレス事務総長は2025年5月、安全保障理事会に「武力衝突における情報通信技術(ICT)の使われ方は、国際人道法の遵守と文民保護について懸念を引き起こし続けている」と報告。エネルギーや交通・運輸、水供給、通信、保健・医療といった必須のインフラやサービスが、サイバー工作によって損壊、途絶する恐れがあるとも指摘した。
ウクライナの文民ハッカーによるロシア軍関係者へのハッキングは、多くの疑問を引き起こした。作戦に携わった有志の情報収集・分析集団「インフォームナパーム外部リンク」によると、ハクティビスト集団「サイバーフェニックス」のメンバーらは2026年2月までに、ロシア軍の要員数十人のアカウントに侵入。攻撃用ドローン(無人機)操縦者が使うシステムを監視し、手に入れたデータをウクライナ軍に提供した。
飛行経路や任務の内容をはじめ、提供された情報はドローン攻撃への防御力を高める働きをした。また、ドローン操縦者同士のやりとりを傍受・分析した結果、ベラルーシにある携帯電話基地局などの民生用インフラがロシアの飛行経路づくりに使われていることも判明した。
この作戦との関連は不明だが、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領外部リンクは6月、ベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領に対し、ウクライナ攻撃に使われている「通信塔の信号中継装置」を1週間以内に撤去するよう要求した。
赤十字国際委員会によれば、文民によるハッキングが大衆に害を及ぼす恐れもある。一般市民や民生用施設が直接の攻撃目標となったり、巻き添えを受けたりする可能性があるからだ。また、文民ハッカー自身や周囲の人々が軍事作戦の標的になるリスクも生じる。
国際人道法の規定
赤十字国際委員会は、文民ハッカーも国際人道法を遵守しなければならないと指摘する。同団体は一連の法規の遵守を監督、推進する立場にあり、2023年10月外部リンクには戦時中の文民ハッカーが守るべき8カ条の規則を公開。一般市民や病院への攻撃のほか、自動的に拡散し、軍民の区別なく損害を引き起こすツールの使用、大衆に恐怖を広める威嚇を禁止した。
その後、複数の組織が一般市民や民生用施設を攻撃しないと公に宣言した。例えばウクライナIT軍は2023年12月、8カ条の規則を遵守するすべての国内ハクティビスト集団を支持し、これらを遵守する集団のみと協力すると表明した。また、国際的ハッカー集団「アノニマス」は「戦闘員でない市民への攻撃を非難する」とXに投稿した。
共同報告書の執筆に加わったジュネーブ国際人道法・人権アカデミーのアンナ・グレープル氏は「国軍の一部とみなされたり、メンバーが敵対行為に直接加わったりした場合、そのハッカー集団は文民としての法的保護を失う可能性がある」と語る。
グレープル氏によれば、独立して活動している集団や、オンラインで公開されたルートを通じて緩やかに連携し、明確な指揮命令系統を持たない集団であれば、国軍の一部とみなされる可能性は極めて低い。ウクライナIT軍のメンバーであれ、サイバーフェニックスのメンバーであれ、正式なウクライナ軍の一員でない限り文民であることに変わりはない。ただし、こうした集団に所属する個人が敵対行為に直接参加すれば、保護を失う可能性がある。
政府の責任
共同報告書は政府の責任も指摘する。
国家には、軍事行動に近接する活動に文民を関与させないようにすることが求められる。また、文民ハッカーやテクノロジー企業など、自国領内での文民の国際人道法違反を防ぎ、戦争犯罪を犯した者を訴追する義務もある。
共同報告書によると、テクノロジー企業が紛争当事者にサービスやインフラを提供すれば、その活動によって法的地位が変化し、現実の影響を受ける恐れがある。例えば、軍のネットワークをサイバー攻撃から守ることは、従業員による敵対行為への直接参加に該当しかねない。場合により、自社施設が軍事目標になる可能性もある。被害を防ぐには、自社設備のうち軍向けと民間顧客向けの部分を切り離す必要がある。
2024年10月の赤十字・赤新月国際会議で採択された決議も、文民ハッカーが抱えるリスクや、文民ハッカーが法的な限度や影響に気づかないことへの懸念に言及した。赤十字国際委員会は同年9月以降、国際人道法への政治的取り組みを促す世界的イニシアチブ外部リンクを展開。各国や専門家らがその枠内で議論を重ね、基準の明確化を図っている。
多くの専門家は、文民ハッカー集団の保護喪失の判断基準を下げすぎないよう警告している。文民の広範なサイバー活動への軍事攻撃を合法化するリスクが生じるためだ。グレープル氏は一般的に合意されている目安として「DDoS攻撃を支援するアプリをダウンロードするだけで敵対行為への直接参加には相当しない」と説明している。
編集:Virginie Mangin/gw、英語からの翻訳:高取芳彦、校正:宇田薫
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