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カシス外相「私からスイスファーストという言葉を聞くことは絶対にない」

イグナツィオ・カシス
スイスのイグナツィオ・カシス外相 Keystone / Jean-christophe Bott

スイスのイグナツィオ・カシス外務相は、広がりを増したこの世界で、スイスのアイデンティティの意義を強化しようとしている。外相はこのほど、今後10年の国の外交政策がどうあるべきかを示す「2028年のスイス外交政策のビジョン」を策定。スイスインフォは外相に独占インタビューし、その意図を聞いた。

スイスインフォ:あなたはこの国の心理状態をよくご存知ですね。広がりを増したこの世界で、スイスのアイデンティティの意義をどのように強化していきたいと考えていますか。

イグナツィオ・カシス:「どのように」ではなく「何」が本来問われるべきです。 10年後の世界で、スイスはどんなチャンスを追求したいのか。私たちはどちらの方向に向かっているのか。ここに価値、ポジション、そしてビジョンが出てくる。発展のカギとなるものを知る必要があります。つまりデジタル化、気候変動、移民についてですね。私たちは、これらすべてがスイスに与える試練、多くはチャンスですが、それに集中しなければなりません。「どのようにするか」はその後です。

スイスインフォ:スイスは大国ではなく、欧州連合の一部でもありません。(他国に与える)政治的影響力も小さいです。大国が助けを必要とするとき、スイスは仲裁役をかって出てきましたが、スイスはこの日和見主義の役割から解放されるべきではないでしょうか?

カシス :自国の歴史を通観すると、スイスは事後対応型でした。しかし、私はチャンスに導かれるスイスについて話しましたね。 「日和見主義」には違った意味があります。否定的な意味合いですね。その点で見れば、スイスの果たしてきたことはそんなに悪いことではありません。私たちは美しい国に住んでいるのですから。

しかし、それでは十分ではありません。ただ受身でいることはだめです。連邦政府と州がどのような未来をいま形成しなければならないのか​​、能動的に問わねばなりません。この質問に答えるにあたって、世界が10年後にどうなるかという基本的な質問が出てきます。私たちはこれについて検討してきました。

スイスインフォ:意見形成・議論に関して国際比較をすると、スイスのどのような要素が将来強みとなるのですか?

カシス:我が国の世界に通用するブランドは、安定性、信頼性、法の支配、予測可能性、中立です。これらは、私たちが信頼に足る5つの最も重要な要素です。そのため、スイスは国家間の仲裁役を求められることが珍しくありません。

スイスインフォ:今後10年間でスイスが直面しうる課題とはどんなものですか。

カシス : 世界の多国間システムを強化する必要があります。大国が多数存在する現在の世界で、中国は間違いなくその一翼ですが、ほかにはトルコ、ブラジル、南アフリカもいます。中心をなして権力を行使しようとする国はますます増えています。

私たちに問われるのは、このような状況下でどう動けば、暴力的なエスカレーションが回避されうるかということです。国際都市ジュネーブを持つスイスは、その分野で役割を果たすのに好都合なポジションにいます。

スイスインフォ:「2028年のスイス外交政策のビジョン」は、スイスにとって有益となるポイントに主眼が置かれています。ということはあなたのアプローチは「スイスファースト」ですか?

カシス:「スイスファースト」という言葉を私の口から聞くことは絶対にないでしょう。それは米国の選挙運動から来ています。 「アメリカファースト」とは、その言葉以上の意味があります。

しかし、もちろん私はスイスの利益を代表しています。それは連邦政府の大臣に課された当然の義務です。スイス連邦憲法第2条は自国の安全を確保し繁栄を促進することが私たちの使命であると明記しており、それは外交政策でも同様です。それが実現するのは他国との良好な関係と世界の安定があってこそ。そういう意味で、外交政策は、特に直接民主主義において、利益を追求する政策といえるでしょう。

スイスは、今もこれからも世界に開かれた国家であり続け、それと連帯していきます。価値と利益は対立するものではありません。むしろ、お互いを必要条件とし、促進しあうものです。

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(英語からの翻訳・宇田薫)

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