外国人、武田、政府系ファンド…スイスのメディアが報じた日本のニュース
スイスの主要報道機関が5月13日~19日に伝えた日本関連のニュースから、①ビザ・国籍取得要件を厳格化、外国人居住者の不安②武田薬品工業スイス拠点、最大280人削減③知られざる日本の政府系ファンド、の3件を要約して紹介します。
外国人の居住権は、スイスに住む外国人である私にとっても他人事ではありません。その国の法律はもちろん、暗黙のルールやマナーを守るのは当然ではあるものの、そのルールが急に、理不尽な形で厳しくなったら……?スイスでも近く移民制限案が国民投票にかけられます。内容は理不尽だったとしても、有権者が議論を尽くして決めた結果なら、納得できるものかもしれません。
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ビザ・国籍取得要件を厳格化 外国人居住者の不安
「ルールを守り滞在・居住しておられる大部分の外国人の皆様のためにも、問題ある行為には毅然と対応することで、『外国人との秩序ある共生社会』の実現を目指してまいります」。高市早苗首相は4月28日、最近の外国人政策における取り組みをSNS外部リンクで紹介し、こう宣言しました。スイス・フランス語圏の日刊紙ル・タンは、日本に暮らす外国人に取材し、政策変更の影響や彼らの抱く不安を伝えています。
記事が注目したのは滞在資格「経営・管理」の審査の厳格化や、国籍取得要件の引き上げです。高市氏がSNSで審査の厳格化により入国前の申請件数が前年比96%減ったと説明したことを、記事は「疑問視するどころか称賛した」と批判的に報じています。
なぜ批判的なのかといえば、審査の厳格化が新たに入国する外国人だけでなく、既に長期間日本に住んでいる人にも遡及的に適用されるからです。ル・タンが取材したフランス人写真家コリーヌ・アギーレさん(28)は2022年から「経営・管理」資格で奈良県宇陀市に暮らしていますが、今年3月の在留許可更新で新たな要件を満たすよう求められたといいます。
純資産を500万円から3000万円に引き上げる、日本人または永住権保持者をフルタイムで雇用する、日本語の学位を取得する――これらの要件を満たすには2年間の猶予があるものの、収入が不規則である理由を4カ月以内に説明する必要もあり、アギーレさんは在留資格剥奪の不安にさらされています。ル・タンは「新たな基準によって、彼女の人生はすべてが揺らいでいる」と伝えました。
「一体どこまで規制を強化するつもりなのか」。長野県小諸市に住むデザイナー兼写真家のスイス人、サミュエル・ゼラーさん(35)もそう不安げに語ります。「芸術」資格で滞在しているゼラーさんは「経営・管理」資格の申請も検討していましたが、資産要件などが厳しく諦めたといいます。
記事は、高市氏が新設した「外国人政策担当大臣」の任務は「社会の結束を強化するというよりも、『規則を守らない』『日本国民の安全・安心の脅威』となる外国人を摘発することにある」と説明します。そして「こうした措置は、外国人嫌悪やヘイトスピーチを助長している」と指摘しました。(出典:ル・タン外部リンク/フランス語)
武田薬品工業スイス拠点、最大280人削減
ドイツ語圏の大手紙NZZが13日、日本の製薬大手、武田薬品工業のチューリヒ州オプフィコンの拠点で最大280人の従業員を削減すると特報し、スイス公共放送など多くの国内メディアが追随しました。特報したNZZは「製薬拠点としてのスイスにとって、またしても大きな打撃となる」と位置付けています。
記事によると、オプフィコンには現在1150人が勤務し、主に欧州事業の管理を担っています。同社は解雇計画を従業員に通知すると同時に、法的に義務付けられている協議手続きを開始。最終的な人員削減数は280人を下回る可能性があるといいます。
オプフィコン拠点を担当する国際部門責任者、ジャイルズ・プラットフォード氏はNZZの取材に、今回の組織再編の要因は経営陣の後退にあると説明しました。武田の次期最高経営責任者(CEO)のジュリー・キム氏(55歳)はスイスにも住んだ経験があり、「スイス事情に精通している」と記事は伝えています。
新体制について、記事は「キム氏が新製品で新風を起こすことにどのくらい成功するかはまだ分からない」と指摘します。2025年に同社が発表した3つの新薬候補のうち、2つは希少疾患治療薬であるため大きな売上高は見込めません。もう1つは競合の米ジョンソンエンドジョンソンに後れを取っており、「競合製品よりも高い付加価値を提供できることをしっかりと証明していく必要がある」と指摘しました。(出典:NZZ外部リンク/ドイツ語)
知られざる日本の政府系ファンド
世界の金融界において、日本の対国内総生産(GDP)債務比率ほど頻繁に引用され、同時に最も誤解されている統計はない――ジュネーブの資産運用会社SYZのシャルル・アンリ・モンショー最高投資責任者(CIO)はフランス語圏のオンライン金融メディアallnewsで、ある論文をもとに日本の債券市場をめぐる知られざる事実を解説しました。
モンショー氏が紹介したのは米セントルイス連銀のイーリー・チュエン氏、ハーバード・ビジネススクールのウェンシン・ドゥ氏、スタンフォード大学のハンノ・ラスティグ氏が執筆し、米経済紙「Journal of Economic Perspectives」に昨秋掲載された論文外部リンク。記事によるとこの論文は、債務比率がGDPの230%にのぼる一方で2012年の「アベノミクス」以降に株価が上昇し対外収支が改善するという怪奇現象を説明するのに「欠けていたピース」を明らかにしました。
記事は、日本の債務比率について語るには、バランスシートの裏側、つまり公的資産部門がどこにどう配分されているかを見る必要がある、と解説します。2012年以降、①日銀のETF購入②GPIFによる株式投資の目標比率引き上げ③為替ヘッジを最小限に抑えた国債投資といった変化が起き、論文の試算によると、公共部門のリスク資産への投資額はGDP比95%と、1997年の18%から大きく増加。記事はこれを「日本が現在、債務によって資金調達された政府系ファンドとして機能している」と表現しています。
またこの構造は、「国家のバランスシート規模で行われるキャリートレード」だと記事は指摘します。中央銀行が管理する金利で短期資金を借り入れ、株式、外国債券、ヘッジされていないドル建て資産に長期投資。その差額を現金化する。この収益はGDP比6%に相当する大きさで、純債務を一部相殺しているというわけです。
記事はこの仕組みを理解することで、「これまで解釈が難しかったいくつかの経済政策の選択肢が、はるかに明確になる」と続けます。その最たる例が2023年3月の東証市場改革。東京証券取引所は上場企業に対し、資本コストと株価を重視した経営を要請しました。記事によれば、これは「日本のガバナンス(企業統治)近代化」として捉えられることが多いのですが、実際は「国家財政に直結する」変革でした。
記事は最後にこうまとめています。「日本は単に企業改革や金融政策の調整を行っているわけではない。債務に苦しむ国という単純な構図とはかけ離れた、国家財政の均衡において中心的な役割を担うようになった国家ポートフォリオを管理している」(出典:allnews外部リンク/フランス語)
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話題になったスイスのニュース
スイスのベルン行政裁判所は、スイス国籍の娘に扶養されている中国人女性(93)に出国命令を下しました。母親は高齢で認知症を患い、娘に依存しているとの訴えに対し、判決は「認知症などの診断は、滞在権を自動的に正当化するものではない」と退けました。スイスのニュースサイトwatson外部リンクでは「非人道的な行為」とするコメントに多くの賛同が寄せられましたが、日本語のSNS外部リンクでは「毅然としたスイスの判断を見習うべき」とのコメントが多くつきました。
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