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山の「声」を聴くスイスのAI、雪崩予測がより正確に

雪崩シミュレーション
人工知能(AI)の力で雪崩の大半を高精度で予測できるようになった SLF

動かざること山の如し――その実、山は振動し、きしみ、動いている。そして今、スイスの研究チームが開発した人工知能(AI)モデルが、その「音」に耳を傾けることを学んでいるという。狙いは雪崩の前兆を迅速、かつ正しく解析し、大惨事を回避することだ。

スイスではここ数日の大雪の影響で、山地における雪崩の危険性が非常に高まっている。今回の雪は、寒冷で乾燥した条件下でゆっくりと形成された、弱い「砂糖状」の層の上に一気に積もった。さらに強風で運ばれた雪が大量の吹きだまりを形成したため、もしまた雪が降れば――あるいはたった1人のスキーヤーがきっかけとなり――雪に亀裂が生じ大規模な雪崩が誘発される危険性がある。

こうしたプロセスには、必ず「音」が伴う。スイス連邦森林・雪氷・景観研究所(WSL)の研究者クリスティーナ・ペレス氏は、「雪が崩れ始めると、特徴的な時間周波数を持つ音波と地面の振動が発生する」と話す。

こうした地震波信号を利用した雪崩検知はこれまでも存在したが、誤報が多いという難点があった。それが今、人工知能(AI)を使うことで、進行中の雪崩の大半を高精度で検知できるようになった。

AIによる早期検知が軌道に乗れば、将来的には当局の早急な対応が可能になる。住民を避難させ、事前に道路や鉄道路線を閉鎖できれば、大事故の回避が期待できる。

AIが雪崩の兆候の9割以上を検知

AIを導入用する前まで、ペレス氏の所属する研究チームが雪崩を自動的に検知するのは難しい作業だった。

これまでの検知システムは、地中に設置した地震センサーを使用していた。振動が一定の閾値を超えると警報を発する仕組みだが、地震や走行車の振動などが値を超えても雪崩と誤認することがあった。「AI導入前は、別の振動のせいで、雪崩がないのに警報が作動していた」(ペレス氏)

地震計と超低周波センサーを設置するシメオン氏とペレス氏。ヴァレー(ヴァリス)州シオンヌ渓谷の試験地にて
地震計と超低周波センサーを設置するシメオン氏とペレス氏。ヴァレー(ヴァリス)州シオンヌ渓谷の試験地にて Johannes Aichele – SLF

ペレス氏はWSLの研究者アンドリ・シメオン氏と協力し、雪崩の地震波信号パターンをリアルタイムで認識し学習するAIモデルを開発した。現在のシステムは、雪崩の9割以上を自動的に検知できる。おかげで誤報は大幅に減ったという。

シメオン氏の説明では、同モデルは大規模言語モデル(LLM)と同じように機能するという。LLMは、大量のテキストデータから言語のパターンを学習し、自然な文章を生成したり対話したりできるAI技術だ。ChatGPTなどのサービスも、こうしたAI技術が支えている。但しこのAIモデルは、人が話す言語ではなく「雪崩特有のパターン」を識別する訓練を受けている。地震波信号の欠けている部分を再構築し、ヘリコプターや道路交通などの振動に惑わされずに、雪崩の前兆を特定できるようにするのが狙いだ。「AIモデルが様々な信号を正しく認識できれば、私たちが観測データを正確に区別することに役立つだろう」(シメオン氏)

20年分の地震データ

WSLが開発するAIモデルの最大のメリットは、訓練のベースとなる膨大なデータだ。同研究所が集めた地震波の記録は、1999年までさかのぼる。これは世界的にも珍しいとペレス氏は話す。

今から10年前、ペレス氏はバルセロナ大学で博士研究を行っていた。WSLは既にその頃から、同大学と共同し複数のプロジェクトを実施していたという。「WSLには、20年以上にわたる地震波の記録がある。これは世界の雪崩データ時系列としても、最長級だ」とペレス氏は話す。

加えて、WSLには地域の雪崩危険度評価にAIを活用してきた豊富なノウハウもある。雪崩の発生確率や予想規模は、高度に専門化された予測モデルが、気象予報と積雪層構造のシミュレーションを組み合わせてはじき出す。こうして作られる雪崩速報外部リンクは、危険レベルを5段階で評価。「5」は危険度が最も高い。

WSLの雪崩予報を担当するフランク・テッヘル氏は「5、6年前までは、人間の専門家が気象観測値や現地観察、積雪モデルなどを分析していた。データの増加と複雑化に伴い、これらの情報を一貫した予報にまとめるのが難しくなっていた」と話す。同氏はスイスの雪崩速報の作成に15年以上も携わってきたベテランだ。

AIの限界

ただ、AIも万能ではない。AIの力で膨大で複雑なデータをより正確に解析できるようになったが、誤った結果が出ることもあるため、人によるチェックは欠かせないとテッヘル氏は強調する。特に最高レベルの雪崩危険度が出たら要注意だという。こうした極端な状況はまれであり、過去データが十分に揃っていないからだ。

「私は今でも自分でデータをチェックし、予報を作成している。それからモデルを使って自分の仮説を検証する」(テッヘル氏)

ペレス氏もまた、自身のAIモデルの限界を認めている。例えば、小規模の雪崩が出すシグナルは、弱すぎて背景の雑音にかき消されてしまい、機械による検知が難しい。そのため「今後も検知率を最大化するとともに、誤報を減らす努力を続けていきたい」とした。

まれな事象外部リンク複雑な信号パターン外部リンクが発生した場合、AIモデルに限界があることは、国際的な研究からも分かっている。訓練データの不足や、雪崩以外の状況を誤認することが主な原因だ。

とは言え、これらのモデルは数年以内に精度が向上し、居住地や高リスク地域で利用できるようになるとペレス氏は確信している。またWSLも、同様の方法で地すべりを監視するシステムを開発中だ。スイスでは近年、ブラッテンブリエンツといった山間部の村で大規模な地滑りが続いた。将来的には、雪崩も地すべりもAIで自動的に検知できるようになるかもしれない。

「私たちの夢は、これらのモデルがリアルタイムで活用され、道路や鉄道、そして山間部の人々の安全確保に役立てることだ」(ペレス氏)

編集Reto Gysi von Wartburg/dos、英語からの翻訳:シュミット一恵、校正:大野瑠衣子

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