スイス西部ヌーシャテルで女子世界フロアボール選手権大会外部リンクが開かれ、日本代表は目標の13位で大会を終えた。強豪スイスは準々決勝で快勝。フロアボールはスイス・ドイツ語圏を中心に高い人気を誇る。
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マルチメディア・ジャーナリスト。2017年にswissinfo.ch入社。以前は日本の地方紙に10年間勤務し、記者として警察、後に政治を担当。趣味はテニスとバレーボール。
フロアボール発祥の地とされる絶対王者スウェーデン、フィンランド、チェコと並び、スイスは女子フロアボール界のトップ4に鎮座する。世界選手権でも表彰台の常連で、2005年のシンガポール大会で金、銀は2つ、銅は4つと安定の強さを誇る。男子も優勝こそないが、銀1、銅7の実績を持つ。
国内では3万人
スイスが強豪たるゆえんの1つは、競技人口のすそ野の広さだ。スイスウニホッケー連盟外部リンク(ドイツ語圏ではウニホッケーと呼ばれる)によると、国内の登録選手数は連盟発足時の1100人(1985年)から2019年には3万3523人に増えた。チーム数は2188を数える。国内はトップのナショナルリーガA、Bを筆頭に下位リーグ、ジュニア、シニアなど、年齢や実力に応じた受け皿が整う。
スウェーデンやチェコなど、腕を磨ける強豪国が近い地の利も大きい。
フロアボールの歴史は長い。連盟によると、体育教師ロルフ・ウィドマーさんが1970年代、アイスホッケーに代わるものとして室内ホッケーのゲームを考案。80年に新聞で紹介され、人気が広がった。
その後、ウィドマーさんの室内ホッケーに現在のフロアボールのルールが取り入れられた。
元々アイスホッケーも盛んなため、似たようなスティックを使うフロアボールは抵抗なく受け入れられている。氷のリンクも高価なプロテクターも必要ない手軽さも人気の理由の1つで、ドイツ語圏では、小学校の体育の授業で習ったという子供も多い。
プロ選手はゼロ
しかし、プロで活躍している選手はいない。連盟の広報マリオン・カウフマンさんは「スポーツだけでは生活が成り立たず、ほとんどの選手はフルタイムに近い労働量の仕事をしている。これが選手には負担になっている」という。カウフマンさんは「連盟にとっても課題だが、選手を経済的に支援する措置は今のところない」のが現状だと指摘する。
フロアボール
室内で行う団体競技で、スティックを使ってプラスチック製のボールを相手チームのゴールに入れて得点を競う。1チームはフィールドプレーヤー5人、ゴールキーパーの計6人。室内版アイスホッケーと言えば分かりやすいが、肩と肩以外の体の競り合いが禁止されているなど、「氷上の格闘技」アイスホッケーとはルールがかなり異なる。
手のひらサイズのボールは空洞で、表面に穴が開いている。
コートは40×20メートル。周りは高さ50センチのボードで囲まれている。1試合は20分×3ピリオド。各ピリオド間には10分間の休憩をはさむ。試合中の選手交代は無制限ででき、1分ごとにフィールドプレーヤーが総入れ替えすることも珍しくない。
日本は発展途上
日本でフロアボール連盟が発足したのは1983年とスウェーデンに次いで古いが、国内の登録選手数は約2500人にとどまる。スウェーデン(約12万人)、フィンランド(約6万人)外部リンクなどとは歴然の差だ。日本女子代表の伊川真彦ヘッドコーチ(36)やベテランの高橋由衣選手(30)は、スティックを使ったスポーツになじみが薄いのに加え、体育館を確保しにくいのが課題だと話す。
日本代表外部リンクはアジア圏では国際大会優勝など屈指の実力を誇るが、世界選手権では出場16チーム中14位止まり。欧州の強豪には体格や戦術の面で実力が劣る。
日本代表が入ったグループC外部リンクはデンマーク、ノルウェー、エストニアの強豪ぞろい。今回が8度目の世界選手権となる高橋選手は大会前、「防戦一方になると思う。身体を張って攻撃をしのいで、つかんだワンチャンスを逃さず得点につなげていきたい」と意気込みを語った。
しかし、2009年以来欧州勢に勝ち星がない日本代表は、0勝3敗とグループ最下位に沈んだ。だが順位決定戦でタイを6-3で下すと、12日の最終戦でエストニアに4-3で勝利。目標の13位に食い込んだ。
世界フロアボール選手権大会
2年に一度開催されるフロアボールの世界選手権で、国際大会としては最も重要。女子は奇数年、男子は偶数年の12月に行われる。2019年の女子大会は、開催国スイスを除く計29カ国が欧州、アジア・オセアニア、アメリカ予選を行い、勝ち上がった15カ国とスイスの計16チームが出場。A-Dの4つの各グループで総当たり戦を行い、頂点を競う。
スイスはフィンランド、ポーランド、ドイツとグループAに入った。日本はグループC(ノルウェー、デンマーク、エストニア)。
スイスは準々決勝にコマを進め、12日にラトビアと対戦。10-4で快勝した。日本は同日の最終戦で、エストニアに4-3で競り勝ち、2009年ぶりに欧州勢から勝ち星をもぎ取った。
決勝は15日。
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ステファン・ランビエル、フィギュアスケートのコーチとは「情熱に近いもの」
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「人生の新しい章へ移った」と笑顔で話し、今の新しいスケート人生は「大きな喜び」と言うステファン・ランビエール(32)。現在、フィギュアスケートのコーチとして活動することは「情熱に近いもの」であり、「自分の多くを捧げなければならない」と語る。スイスの地元でスケート学校を立ち上げ、教える立場になったランビエールは、動きで情感を表現する感性豊かで繊細なスケーターをどのように指導しているのか?また、現在の関心事や日本とのつながりについても聞いてみた。
2010年に選手生活を終え、プロスケーターに転向してからは、「氷上で別の形で自分を表現するため」現在はショーに出演しながらスケートを楽しむ。その一方で今、コーチとして教えるという仕事にも専念している。それは、「全力で取り組まなければならないもので、自分にとっては情熱に近いものだ」と感じているという。
「コーチとしても大きな喜びを感じる」ランビエールは、スイスで昨年夏からラトビアのデニス・ヴァシリエフス選手(17)を指導しており、現在9カ月目。今シーズンは初めて、世界選手権でコーチを務めた。ヴァシリエフス選手は、ラトビアのスポーツ選手のための優遇教育制度を利用して勉強を続け、週に20時間ランビエールの指導を受けている。「氷上でお互いが自分を出し尽くすことで、お互いのエネルギーを感じるような指導を目指している。2人の間で何か言葉では言い表せない、素晴らしいものを築きあげられている」という。
また、最近は興味や関心も広がり「新しいものを追求することが多くなり」、音楽、料理、映画、ダンスなど「最新の流行に耳を傾け、目を光らせている」という。例えば、最近チューリヒの歌劇場で行われた、クラシックバレエ振付家アレクセイ・ラトマンスキーの「白鳥の湖」には感激したと話す。「私の憧れのラトマンスキーの振付作品は、衣装も目を見張るものがある。そういった流行のデザイン、素材、色にも興味がある。美を体現するものに幅広く興味がある」と語る。
今月末には、ファンタジーオンアイスに出演するため日本へ行くが、「日本に行くと、友情を家族の絆のように感じる。そういった日本が大好きだ」とも言う。また、ランビエールは伊藤みどりの大ファンで、「彼女が現在でもスケートを続けていることには感銘。彼女のコーチだった山田満知子コーチにはただ感服している」とも話す。山田のアシスタントコーチである樋口美穂子コーチが指導する宇野昌磨は、「10年ほど前、ドリームオンアイスでジュニア・スケーターとして小さな昌磨が出演したのを今でも覚えている。本当に素晴らしい選手だ」と高く評価する。
「日本には、優れた実力のあるフィギュア界のヒーローがたくさんいる。今年の夏には、織田信成、宮原知子、宇野昌磨を始めとするそういったスケーターの振付けをする機会があるが、それを今から楽しみにしている」とほほ笑みを浮かべて話す。
ステファン・ランビエール(Stéphane Lambiel)
1985年4月2日、スイスのヴァレー州マルティニに生まれる。
7歳からスケートを始める。
2005年、世界フィギュアスケート選手権で1位。
2006年2月、トリノ冬季オリンピックで銀メダル。3月、カルガリーでの世界フィギュアスケート選手権で1位。2007年、世界フィギュアスケート選手権で3位。
2008年、ザグレブでのヨーロッパ選手権で2位。
2008年10月、左内転筋の負傷のため、競技生活に終止符を打つと宣言。
2009年1月、プロ宣言後初めて「アート・オン・アイス」に出演。
2010年1月、バンクーバーオリンピックを目指し再び競技生活に戻った後、エストニアでのヨーロッパ選手権で2位。2月、バンクーバーオリンピックでは、4位。3月、再び引退を表明。
2014年、ヴァレー州シャンペリにスイス・スケート学校を創設。
2016年8月からデニス・ヴァシリエフスのコーチを務める。
現在、さまざまなショーに出演しながら、振り付けなど新しいチャレンジをしている。技術面もさることながら、アーティスティックな表現は評価が高く「リンク上のプリンス」と呼ばれている。
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