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遠隔医療への希望と疑問

遠くからでも受診可能. expeditevcs.com

スイスでは、遠隔医療がより身近なものになっている。この一方で、研究者は「社会は、この新しい治療方法の長所と短所をしっかり理解しておくべきだ」と警告した。

例えば、無医村などでは遠隔医療の果たす役割は大きい。しかしこの治療法が一般的になると、今までのように医者と患者が面と向かう時間がなくなったり、コンピュータに入った個人情報が外に流れ出したりという危険性も高まる。

 遠隔医療とは、インターネットや通信衛星、ビデオなどを使って医療関連の情報やサービスを提供するシステムだ。将来的には、電話線1本で、ロボットを使って手術まで行ってしまうことも考えられている。

 スイスインフォは、遠隔治療についてバーゼル大学病院のロベルト・サダー博士にインタビューした。「現在行われている遠隔医療は、患者をテレビ電話で往診したり、治療の情報を他の研究機関に送って分析するというように、情報の共有を目的としたものがほとんどです」

 スイスの遠隔医療は、まだ発展段階にある。しかし、スイスの中でも、患者の情報ファイルのデータベース化が発達しているジュネーブ州と、患者のカルテのネットワーク化が進んでいるティチーノ州の2州は、遠隔医療では最先端をいっている。これは州政府の努力の賜物でもある。

遠隔手術は可能か

 連邦政府の諮問機関、スイス技術評価センター(Swiss Centre for Technology Assessment、 TA-Swiss)が最近発表したレポートによると、スイスは最高の情報交換ネットワークを持っているものの、調整機関が不足している。

 ドイツのヴォルフガング・ゲーテ大学教授でもある前出のサダー博士にとって、遠隔医療はすでに珍しいことではない。博士は日常的に、遠く離れた同僚とビデオ会議を行って議論している。手術計画を練る時にも遠隔医療技術は不可欠だ。

 「数多くの手術のうち、同じものは一つとしてありません」とサダー博士は語った。「けれども遠隔医療技術を使って、医者が情報を交換できることは大変良いことです。これはつまり、1つの手術を繰り返し行うようなもので、外科技術の向上に役立ちます」

 しかし、遠く離れた患者の手術を、医者がロボットを遠隔操作して行う遠隔手術はどうだろうか。素晴らしいアイデアだという驚嘆の声も聞くが、サダー博士は懐疑的だ。

 「遠隔手術は机上の空論です。手術の間に何か問題が発生しても、遠隔操作でそれを補うことは不可能に近いことです」

 遠隔手術にはまた別の問題もある。医者と患者との直接的なコミュニケーションがなくなることだ。「両者の個人的なつながりは非常に重要です。これをなくしてしまってはいけません」とサダー博士は語る。「遠くに離れていては、医者と患者の間に信頼関係を築くのは困難になります」

 外科医でもあるサダー博士は、この問題の対応策として、患者は遠隔医療を使う場合、医者ではなく医療専門家に話を聞いてもらうべきだと提案する。医療専門家は遠隔医療を通して医者の知識を補う情報を患者に与え、医者は今までどおり、患者と顔を付き合わせた治療を行うのだ。

気になる費用

 遠隔医療のもう一つの問題点は費用がどれほどかかるか、ということだろう。しかし、TA-Swissのレポートでは、今後遠隔医療が一般的になれば、ヘルスケア全体から見れば決して高額なものとはならなくなる。また、スイスにいなくても治療を受けることができるため、外国人の顧客も増えるだろう。

 「医療知識を得る費用は、遠隔医療の一般化によって、今後格段に安くなるでしょう」とサダー博士はうなづく。「治療についても、種類によっては、費用が安くなることが予想されます。これは社会にとって良いことです」

 遠隔治療はお金持ちのためだけのものになるのではないか、という心配も杞憂のようだ。「お金がある患者は世界のどこでも、最高の治療が受けれる場所に飛んでいくでしょう。遠隔治療は今よりずっと一般の人向けになっていくはずです」

一番の問題点

 遠隔医療で、今後最も心配される問題点は、患者のプライバシーをいかに守るか、ということだ。TA-Swissの報告書は、インターネット上で交換される患者の情報が漏れる危険性に触れている。サダー博士は、「患者は、自分の治療情報のプライバシー保護を医者に任せてはいけません」と語る。

 「患者は、文字通り誰にも漏らしてほしくないと思う情報は何か、医者に明確に伝える必要があります」


swissinfo、 スコット・キャッパー 遊佐弘美(ゆさひろみ)意訳

ジュネーブの「e-トワール」プロジェクトはデータベース化した患者の情報を取り扱っている。

患者は、自分の治療情報を「e-トワール」に保管しておき、好きな時に取り出せる。

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